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唖然とした表情のまま口を開こうとしない連中にイラッとした俺は、前の席の奴の椅子を思い切り蹴った。
「ヒッ・・・!」
「お前何かあんだろ。無くても話せ」
そんな無茶な、なんて声が凌空の方から聞こえたので睨んだら何故か顔を赤くさせやがった。気持ち悪い。
ぞわわっと鳥肌の立った腕を擦っていると、俺の前の席の奴はボソボソと話し始めた。
「北川先生は・・・」
「声がちいせぇ」
「ひっ!・・・き、北川先生は勉強の分からない所をわざわざ放課後の時間を使って熱心に教えてくれました!」
背筋をしゃんと伸ばして言い切ったそいつの頭をくしゃりと撫でてやる。
「上出来じゃねぇの」
ニヤリと唇の片端だけを上げて笑うと、そいつは戸惑ったように礼を言った。
・・・普通は俺が言うもんなんだけどな。
そいつの頭から手を離した後教室全体を見渡せば、恐る恐るだが次々と口を開いていった。
「北川先生っていつも面倒くさそうにしてるけど何だかんだで生徒思いの良い先生だよね」
「僕が授業中気持ち悪くて伏せてたら北川先生は気付いて保健室に連れていってくれたよ」
「見た目によらず行事とかすっげぇ燃えるよな」
「僕北川先生が遅くまで仕事してるの見たよ!」
「あ、俺も見た!」
次第に増えていく声の中に北川を批判するものは無い。北川は生徒達の言葉を聞いて、何を思っているのだろうか。
眉間に寄せられたシワは、何を意味しているのだろうか。
クラスの連中の言葉に一段落ついたところで、俺はにこりと微笑んだ。
「つまり、そういう事だ」
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