短編集 | ナノ





「も、やめ…むり、」

空き教室。この学園の誇らしき生徒会長という役職をリコールされた元生徒会長こと高峰佑太の声が夕日の沈む中、響いていた。

容姿が物を言うこの学園で高峰は学園一の美形だと認められた。同性同士なのに抱きたい、抱かれたいとこの学園の生徒たちのほとんどは顔のつくりがいい奴らにそう思う。

学校一美しい男が高貴な立場から一転して下賤、と言ってはあれだが生徒会長という役職を取り上げられたのだ。高峰は今やふつうの生徒たち、もっと言えば問題を起こした生徒ばかりが集まるD組の奴らよりも劣る。具体的に何が劣っているのかを問われればみんな答えられない。

それでも高峰は劣っているのだ。“ふつう”の奴らに。


事の始まりは転入生のたったの一言だった。「佑太が仕事しないで遊んでばっかりいて茜たちに迷惑をかけるんだ!」
俺がその“佑太”から受け取った書類に目を通していた時、風紀室の扉を荒々しく開けて入ってきた転入生は後ろにずらずらと“茜たち”…高峰を除いた生徒会の面々を引き連れてそう言った。
ふざけるな、と心の底から思ったのはあれが初めてだ。その場で全員殴ってやろうかとも思った。
知らないとは言わせない。生徒会5人全員の放課後を費やしてもどんどん増えていく書類を高峰が1人で捌いていることを。そんなことお前らもよく分かってるはずだ。転入生が転入してきて2週間、あいつは眠る時間も食べる時間も学生の本分である勉強する時間まで削ってこの学園のためにこの学園の生徒のためにと生徒会長として貢献していたのに。

ふざけるな、と思ったと同時に俺は高峰を守りたい、と心の底から思った。もちろん、こんな気持ちも初めてだった。

だが俺と高峰の関係はいいものではなかった。それは俺と高峰以外の生徒も分かってる。だから俺が高峰をかばうなんて滅多な真似をすると俺だけじゃなく俺を嫌ってる高峰も他の生徒に誤解されるのは目に見えて分かっていた。

どうにか高峰を守ってやれないだろうか…

考えた末に俺が思いついたのは高峰を生徒会長という役職から降ろすことだった。

最低なことをしたと思ってる。高峰にとってやりがいを感じてる仕事を奪ってしまったことに。だが後悔はしていない。

高峰が会長の座を下ろされて早1週間。生徒会の職務を行う者はいなくなりこの学園は荒れた。
新しい生徒会長には転入生の稲葉が選ばれ遊び呆ける日々。生徒会が行うはずの仕事は風紀や他の委員会にまわってくる始末。楽ばかりしてきたお金持ちのお坊ちゃんたちは生徒会が仕事をしないために心地よい学校生活を過せなくなり各親衛隊は会長となった転入生に制裁を行えず親衛隊同士で争いを起こす。そして俺達風紀やその他委員会の仕事放棄。風紀が仕事をしなくなった為調子にのりだしたD組は他のクラスの生徒に暴行を行った。

今のこの惨状を今まで高峰がたった一人でつらい思いをしながら喰い止めていたと、そう考えるだけで胸が痛んだ。


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