短編集 | ナノ





「は、ちが…」

「お前もさ、嫌いな奴に話しかけるとかお人好しだよな。まあ話しかけるつっても俺からしてみれば変なちょっかいかけられただけなんだけどさ」

「まえさ、」

「もう、俺に関わんなよ?」

俺はそらしていた視線を一度だけ後藤に向けてそう笑いながら言った。今の俺はいつもよりヒドイ顔なんだろうな、と思いながらまた視線を逸らし横を向いていた体を前に向きなおした。


「おい、聞け―――」

「あ、昴くんおはよー」

「今日早いね〜めっずらしー」

何か言おうとした後藤の言葉を遮ったのは今登校してきた女子2人組だ。時計が8時を回ってる。もうそろそろどんどんみんな登校してくる時間だろう。

「え、もしかして昴くん“オタク”と喋ってた?」

「んなわけないでしょ、馬鹿言うなって」

「…うん、喋ってないよ。2人ともおはよ」


――――――少し、期待した。

優しい彼ならもしかしたら女子の言葉にウソつかないと。自分から関わるなと言ったくせに、っておかしな話なんだけど。

…泣きたくなった。この数分で俺は本当に嫌われてるんだな、後藤の気まぐれで話しかけられただけなんだな、それを理解しようとして泣きたくなった。

でも教室で、どんどん他の人が入ってくる教室で、泣けるはずなんかない。俺は唇を切れそうになるまで強くかみしめた。


―――平行線は、絶対に交わらない。

……悲しく、なった。


end.



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