短編集 | ナノ
3
「で、前沢イメチェンすんの?」
後藤はそう言いながら自分の席でごそごそと鞄を整理してる。結構俺と席、近所だったんだなーとか、後藤としゃべったの初めてだ。俺の名前知ってたんだな、とかなんてのんきに考える。
「前沢?」
「え、あ、ごめ、イメチェンなんかしないよ」
「しないの?」
「当たり前だろ?俺がやっても気持ち悪いだけだし」
「うん、そうだね」
は?
「前沢、いっつも暗いしさ。いきなりイメチェンしても周りからきもいって言われるだろうし、みんなの目にも良くないと思うんだ」
え、ちょ、な、いきなり…こいつなんなの?え、つかこれ後藤?俺の知ってる後藤と違う気がする。俺の知ってる後藤は誰にでも優しくて、こんな悪口言うような…
つか俺の顔が不細工って言いたいんだろお前。はっきり言えばいいのに…。遠まわしにそんなん言われたら傷つく。まあ別に遠まわしに言われなくても傷つくっちゃ傷つくけど。
でも後藤の言葉は正論だから言い返せない。涙目で彼を見上げる。座る俺と立つ後藤、必然的に見上げないと後藤のことを睨めないのだ。
すると後藤は顔を近づけてきた。俺の顔に。…それにしてもまじで後藤イケメンだな。端正に整った眉に少し釣り上った目、長い睫毛、筋の通った鼻、形のいい唇、白すぎず黒すぎない健康的な肌、それぞれのパーツがバランスよく整うとこんなイケメンが完成するのか。悔しい。不公平だ。おんなじ人間なのに。
そんな後藤は俺の前髪を乱暴につかみ上げる。
そして笑って一言、
「ぶさいくだね、前沢」
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