短編集 | ナノ





当然だが俺と彼は言葉を交わしたことはない。今まで、一度でも。挨拶でさえもだ。

顔がいいからと、周りから好かれる彼なんか俺からしてみれば嫌味な存在だ。まあ別に嫌いってゆうわけでもないんだけど。俺、あんま後藤のこと知らないし。
俺はこの通り見た目に気を使ってないために人から疎まれる。

人は見た目じゃない、と言うなら俺だって人気者になってもいいんじゃないだろうか。とは思うがやっぱり俺らからしてみりゃそんなかっこつけた言葉より見た目の方が大事だ。


そりゃ好きで俺もこんな見た目で生まれてきたわけじゃない。生まれる前から自分で顔を選べるならもっとイケてる顔を選んでたさ。


「…イメチェン、してみるか…?」

この黒い髪を染めるなり、髪型自体を変えるなり、耳に穴をあけるなり…

こんな簡単に俺も人気者になれるならやってみる価値はある。でもそれはありえない、ありうるはずがないことだと俺も自分でちゃんとわかってるが。

つか、まず俺にはそんな勇気ないし。少し伸びてきた前髪をつかんで上にあげてみる。…うわ、ほんとヒドイ顔だな。

少し早く来すぎた朝の学校。教室の中には自分だけで窓に映る自分の顔にいやになった。


「何、前沢イメチェンすんの?」

「!?」

すると後ろから突然そう声がかかる。教室の出入り口である扉に背を向け窓で自分の不細工面を眺めてた俺はその声に思い切り肩を揺らした。びっくりして心臓がかなりバクバク言ってる。


「……ご、と?」

「おー、はよ」

「…おはよう…」



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