短編集 | ナノ





「お前…!!どこまで俺を馬鹿にする気だよッ!!」

俺の怒鳴り声とともに狭い部屋に響くパンッと乾いた音。
ハルは赤くなった左頬を抑えながら目を見開き驚いた様子でいた。俺はそんなハルの態度1つにでさえ腹の底から怒りがどんどん込み上げてくる。

グーで殴らなかっただけ、マシだと褒めてほしいぐらいだ!

「散々浮気してっ!人を苦しめておきながらっ!今さら謝りに来ただと!?ふざけんな!!」

ハルの後輩の小野が今日、店来た時にお前はまだ俺を愛してるって言ってたから少しは期待したのに!“まだ”なんて言い方、まるで2年前に俺がお前に愛されてたみたいな言い方だったからほんの少し、もう今さらどうしようもなかったことだったけど嬉しかったのに!

ハルのことを全部全部全部、2年も費やしようやく忘れて新しい人生をスタートした俺の前にまた現れて。

「お前はなんで今も昔も俺を惨めにするんだよっ!!」

謝る気があったなら2年前のあの日、俺がお前の家を出て行ったあのときに追いかけて来いよ!
…追いかけてきて、抱きしめてくれるだけでよかったんだ!


いつのまにかボロボロと涙が零れてた。いい歳して情けないとは思うが涙が止まらないんだ。
ハルは真っ赤に腫れた頬にあてていた左手を俺の頭の上に持ってきて、空いた右手で俺の背中に腕を回し泣きじゃくる俺を抱きしめた。

「離せっ、俺にさわん―――」

「――ごめん」

するとハルは俺の言葉を遮って、やたらと真剣な声でそう言った。平均以上に背の高いハルに抱きしめられてる俺の身長は小さくはないけどハルには負けるわけで。ハルへの文句を吐き出そうとする口がちょうどハルの右肩に押し当てられる。

「ごめん、ごめん唯希。俺が最低なのはすごくわかってる。俺がこうやって謝ってる今も唯希が傷ついてるのも分かってる。
―――本当に、ごめん。軽い言葉にしか聞こえないだろうけど俺はお前に本気で謝りたい」

そう言ったハルの声が泣いているように聞こえたのは、俺の気のせいなんかじゃない。




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