短編集 | ナノ
3
こいつが俺のとこにきた理由なんて興味もないし、聞きたくもない。
でもやはりなぜ?と思う。今更謝りにきたというわけでもなさそうだし…
「――俺、結婚するんだ」
ハルは自嘲気味に笑ってそう言った。
―――衝撃すぎて、言葉も出ない。
結婚?男と女が夫婦になるやつのあれか?
「…お前、あの後輩の奴は」
今日、ハルに会えとわざわざ店にまできた後輩の、男。小野だったっけ。
「秋人とは…2年前、唯希が俺の前から消えて3日後に、別れたよ」
別れた、って…お前ら付き合ってたんだ。やっぱり小野が本本命で俺がハルにとっての浮気とかそうゆうノリか。っんとに最低だなこいつ。
「…で、相手の女の子はちゃんと幸せにしてやれんの」
なんで俺こんなこと言ってんだ。…遠まわしに俺が幸せじゃなかったみたいな言い方してるけど。
俺は幸せっつーよりかは楽しかったなぁ。ハルの浮気を知る前まではすっげぇ楽しかった。しょうもないことで2人で笑って、また笑って…。
――って、なんで俺年寄りみたいに昔振り返ってんだよ。ありえねぇ。
「………むり」
するとハルはぼそ、と呟くように顔を青白くしてそう言った。
「…は」
『絶対に幸せにする』って笑顔でそう言うかと思ってた。
開いた口がふさがらない。こいつ、まさか…
「お前…」
「遊び、だったんだ。俺…。だから京子と結婚なんかこれっぽっちも考えてなかった」
京子?結婚相手の子の名前か。
「でも京子は違って…。京子の束縛とか彼女面とかうぜぇから俺、京子に関係切ろうって言った。京子、泣きながら最後に1度でいいから抱いてくれって。それぐらいで縁切れるならって…。でもその日はゴム持ってなかったんだ…けど、京子が安全日だから中に出してもいいって…」
―――彼女、妊娠したんだ。
そう言って頭を抱えるハル。俺はそれを眺めるだけだった。
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