短編集 | ナノ





「俺のこと、覚えててくれたんだ。嬉しいよ、唯希」

「…っ」


くそう、名前なんか呼ぶんじゃなかった。でもわざとじゃないんだ。無意識のうちに口に出してしまったんだ。…口は災いの元ってこーゆうことか?とにかく激しく後悔する俺はハルを無視して家の鍵を取り出して部屋に入る。するとハルは俺の左の手首を強く掴む。だけど乱暴なんかじゃない。顔に目をやれば切れ長の瞳を大きく見開いて開いた口が今に涎を垂らすんじゃないかと思わせるほど大きくぽっかりと開いていた。…ハル、顔だけはいいからそこらへん見苦しくはないケド。


「…何」

「なんで、無視すんの」


こうゆうトコ、全く変わってない。2年前のあの日もそうだった。俺がお前を無視する理由ぐらい考えたら分かるだろ。つか分かれ。


「離せ。俺がお前に構わなくちゃいけない理由でもあんの」

「…とりあえず、家入れて。ずっとお前待ってたから寒い」

「知るか。寒いなら帰ればいいだろ」

「帰らない」


ガキのやり取りか。俺の手首を掴むハルの手首はほんとに冷たかったから少し気が引けたけど入れ、と俺は一言呟くように言って部屋の中にハルを案内した。…あ、掃除してない。ま、いいか。


「汚いけど、あんま気にしないで。あと暖まって茶飲んだらすぐ帰って」

「…ん、ありがとう。ゴメンな」


どーせその言葉もいつも…じゃなくて、口癖になってんだろ。心からありがとうとか、ごめんとか、思ってもないクセに軽々しく言うな。


「…俺が此処に来た理由、聞かねェの?」

「……興味ない」


キッチンでインスタントの珈琲を淹れて俺の分をテーブルに置いてハルの分は手渡した。
俺はコートを脱ぎハンガーに掛けて散らばった雑誌とか漫画とか食い残しのあるコンビニ弁当を片付け暖房をつけてやる。俺は寒くないけどハルはジーパンにジャケットという冬の夜の寒さをナメた服装してたせいか整った顔は青白く唇は薄紫色で体はほんと冷たい。
ハルがいるせいで部屋着に着替えれないから俺は渋々ジーパンのままコタツに入った。あ、何勝手にミカン食ってんだバカヤロウ!


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