天邪鬼の猫。 | ナノ
8
「やっぱ会計最低ー!」
「超最低ー!」
そんなこと言われなくても自分で一番よく分かってるよ。俺、ホント最低だ。
言うんじゃなかった、と俺はすぐに後悔した。このままじゃ誤解解くどころかふくかいちょーたちはさらに俺を敵視すると思う。俺はまだ未完成の書類とUSBメモリを持って生徒会室を出る。早くこの場から立ち去らないと俺、頭がおかしくなりそうだ。
「そんなこと言うなよっ!涼!!俺は涼のことが好きだ!!!」
…だからふくかいちょーや双子、一匹狼の不良や茶髪の爽やか君…篠にも好かれるんだろうな。
なんで自分のこと嫌いって言う相手を好きだなんて言えるんだろう。
…それは俺も一緒か。
凛くんは素直で真っ直ぐで何より綺麗だ。外見とかじゃなくて性格が。俺はこんなにも凛くんを恨んでんのになんでこんな俺にそんなことを言えるんだろう。俺なら絶対言えない。素直になんか俺がなれるはずもない。俺は卑怯だから。
部屋を出る途中、背中にそんな凛くんの言葉を受けてもその言葉に返事する余裕なんか無い。書類を持っていない手の震えを隠すようにポケットに突っ込んで今にも涙が溢れそうな目を顔ごと俯かせた。
この場に篠がいなかったことが何よりの救いだと思う。
**
「…ふ、うぅ…ッ」
生徒会室を出て廊下を歩きながら自分の部屋を目指す。その途中、堪えきれず涙が溢れた。
周りに人いなくてよかった。まあ生徒会フロアは原則、一般生徒は立ち入り禁止だからいるはずもないんだけど。人に泣き顔晒す真似なんかしたくねーし。泣くなら100歩譲って信用できる人の前で泣く。
「…会計?」
誰にも会いたくない。つか会える顔じゃないのに誰だ、俺を呼ぶこの声の主は。低くどこか優しさの残る声が後ろから俺の耳に入った。
「かいちょー…?」
俺は立ち止まってそう呟く。絶対に後ろは向かない。泣き顔なんか誰にも見せたくないから。
「ああ、ここで何してるんだ」
聞かないでよ。なんでこんなときに限って会っちゃうかな。うぅ…運命の悪戯は恐ろしい。
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