天邪鬼の猫。 | ナノ






「ふ、あっ…ン、し、の…っ」

ヤバイ、蕩ける。この感覚ちょー久しぶり。頭がボーってなる。篠の鮮やかな赤の髪だけが俺のぼやけた視界の中で強く印象づいた。篠は少し唇を離すと篠の唇と俺の唇が名残惜しそうに途切れそうなか細い銀の糸で繋ぐ。するとまた篠は俺に口付けた。全身の力がどんどん抜けていく感じがして俺は篠の制服を書類を持っていない手でぎゅっと握る。

なんで篠は俺にキスしてんの?疑問が蕩けそうな頭に1つ浮かぶ。


「…っふ、」

唇が離れると同時に俺を抱きしめていた篠の手も俺から離れた。篠の黒い瞳と目が合う。

「…悪ィ」


そう言うと篠は踵を返して生徒会室を出て行った。篠は何がしたかったんだろ。
すっかり力の抜けた俺の体は壁に凭れかかりながら座り込んでしまった。篠とキスしてたんだ、という実感が今になって俺を襲う。そっと指で優しくなぞるように自分の唇に触れた。…顔の火照りが治まらない。


「篠のバカヤロー…」

なんで、こんな期待させるような真似すんの。凛くんのことが好きなくせに、なんで俺なんかにキスすんの。

俺のこと好きじゃないくせに。捨てたくせに。

そう呟いた俺の声は誰の耳にも届く事無く虚しくまだ少し煩い蝉の声に掻き消された。





**

「しつれーしまぁす」

「久しぶり、涼。遅かったな」

「ごめん、待たせちゃったあ?」

「いや、待ってないよ」


生徒会室でボーっとしてた俺は朝陽との約束を思い出し風紀室に来た。生徒会室から風紀室の距離ってホント遠いんだよ。無駄に時間掛かる。

生徒会室と比べてシンプルな造りの風紀室の扉を開けると中は必要最低限の家具と生徒会室にも負けず劣らずの書類の山でいっぱいだった。そんな部屋の奥の中央でシャーペンを握り書類整理をする風紀委員長、朝陽の姿があった。かなり久しぶりの朝陽だ。俺は書類を朝陽の席に置いて応接用のソファに腰掛ける。


「飲み物はココアでいいか?」

「うん、ありがと。俺、朝陽のココア好きだよう」

「それはよかった」

朝陽は立ち上がってキッチンからココアを淹れて来てくれた。たまには人に淹れて貰うのもいいね。とか考えながらあったかいココアを朝陽から貰って一口飲んだ。うん、相変わらず甘さが足りなくておいしい。



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