天邪鬼の猫。 | ナノ




12


(side 篠)


「やっと見つけたぞ篠っ!!!会いたかったぁぁあっ!!」

生徒会室の扉を荒々しく開けて入ってきた1人の生徒は俺に勢いよく抱きついた。突然のことに驚いて、涼が俺の名を呼んだことに気づけなかった。

胸の中の凛を見下ろす。以前、何時だったか凛に“素顔”を見せてもらったことがある。このモジャモジャとした鬘の下は染め上げた金髪で、光に照らされるとキラキラ光って眩しい。瓶底眼鏡とカラーコンタクトも外せば空のように青い透き通った瞳がある。

そんな本当はきれいな凛より俺は涼の方が好きだ、と凛の金を見て思う。
涼も凛と同じ染めたプラチナブロンドのはずなのに心なしか生まれつき持って生まれた、と言ってもおかしくないくらい涼にはこの色がピッタリなのだ。涼の髪を梳こうとすればサラサラすぎて髪がすぐに指をすり抜けていく。
俺は堪えようとは思うのに、涼のことを考えると口角が上がるのが止まらない。


胸の中にいるのが、凛じゃなく涼だったらな…。

周りに誰が居ようと場所がどこであろうと。力強く抱きしめて、もう2度と離さないし、涼の桃色のふっくらとした唇に口付けて窒息死するぐらいまで貪ってやる。
不覚にもそう思ってしまった。俺の好きな人は凛の筈なのに涼のことばかり考えてしまう。


「篠のこと、俺ずっと探してたんだからなっ!!」

「…ああ、悪い」

凛に声を掛けられてハッとなる。凛に触れ合うようになってから少し丸くなった気がする。以前の俺なら絶対、人には頭を下げないだろう。…いや、涼と付き合う頃からか?

「そ、そ、そ、その代わり…っ、その…っ、抱きしめてほしいなぁ…なんて」

深く考えそうになったとき、また俺はハッとなった。胸の中にいる凛は顔を真っ赤にしてそう言った。我がままで自己中な性格とばかり思っていたが意外と初な奴で、驚いた。つかコレ、今の状態は抱きしめてる。とは言わねェのか?凛は今、俺の腕の中にいるのに。

ガタン、とキャスター付きの椅子がカラカラと音を立てて涼が突然立ち上がる。当たり前だが俺も凛も音の発信源である涼を見つめた。

「ご、め…っ」

涼は見るからに動揺しながら椅子を立たせるも机の上の書類を床にバラ撒き、手が震え上手く書類を拾えていない。

「…凛、離せ」

「え、篠っ!?」

俺は凛の元を離れ涼の元へ床に散らばった書類を拾い行く。片膝をついて涼の様子を伺うと顔を真っ赤にした涼と目が合った。

「…ん」

書類を渡すと驚いているのか口をぽっかり開けて、目は点。

「あ、りがと…っ」

だがそんな表情を見たのはたった一瞬。涼はそう言って俺の手から書類を手荒に、取り上げるように受け取った。顔は隠すように俯いていて見えなかったが。そしてすぐにその書類を持ったまま生徒会室を出て行った。

しまった、と思う。
涼は俺のことが嫌いなんだ。嫌いな奴に貸しを作るような真似、俺なら絶対したくない。…どうやら俺は浮かれすぎていたらしい。俺と凛、残された2人だけの空間で、凛が口を開いた。


「俺さっきここに来た時、涼に篠の居場所聞いたのに…。涼、最低だなっ!篠に俺が探してたってこと、言ってくれたっていいのに!!」

「…は?」


凛は機嫌悪そうに怒鳴り、そう言った。涼は凛が俺を探していたということを知っていたのか。凛は俺にどこにいたんだよ!俺、篠の部屋に探しに行ったんだぞ!と八つ当たりしてくるが俺はずっと部屋のリビングで居留守を使って仕事をしていたのだからいないのは当たり前だろ、と思いながらたった今出て行った涼のことを考える。知ってて、わざと俺に言わなかったんだ。


(クソッ)

調子に乗っちまうじゃねェか。慌てて口元を隠すがにやけが止まらない。
涼はわざと俺に凛が探していた、と言うことを言わなかったんだ。それはつまり俺が凛の傍に行って欲しくない、ということなんじゃねェだろうか。

ああ、クソ、浮かれちまう。勝手に都合のいい解釈をしてしまう。



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