天邪鬼の猫。 | ナノ




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(side 篠)


歓迎式が終わった日の夜、凛が食堂へ行こうと誘うから俺は少し用事があるから遅れて行く、と言って約束をした。普段なら凛の傍から離れずに直行した筈なのだが少し昼間のことが気に掛かって行くに行けない。

今日の昼、無理矢理抱いた涼の体はかなりやせ細っていた。一番の理由はきっと他の役員の仕事をやっていたからだろう。やせ細るほど涼は仕事に追われてたんだ。

凛に構いすぎて仕事を放棄して涼に無理をさせた自分が情けない。俺はこの学園の生徒会長だ、会計や他の役員に迷惑をかけるのは俺の会長としてのプライドが許さない。そんなことを今更ネチネチ言っても既に手遅れだが。

俺は生徒会室へ寄ろうとしたが回れ右、自室へと踵を返した。

部屋へ戻ってベッドへ横になるも頭から昼の涼の泣き顔が離れない。いくら消そうとしても、瞼の裏に焼きついてる。

「…チッ」

この感情の正体を、俺は認めるわけにはいかない。
涼の好きな人は、あの風紀の野郎なんだ。
俺の好きな人は、凛なんだ。ただそれだけのこと。

認めてしまったら、また涼は泣く。既に泣かせた俺に説得力はないが涼をもう2度と泣かせはしない。

今の俺にできることは、せめて涼の負担を減らすことだろう。
つか、俺は何で涼の為にこんなん考えてんだ?――クソ、と俺は手荒に頭を掻いて服を着替え食堂に行く準備をした。




**

食堂に着けば騒がしい凛の透き通った声が響いている。一般スペースの一角で騒いでるのが目に映った。
涼と一緒にあの風紀の野郎もいて、テーブルにあるのはたった一杯のいちごミルクと大量の肉。風紀の野郎は和食定食を食べてるし、普段の涼なら倍の量のものをかなり食べてるはず。
顔色も悪ィじゃねェか。俺は食堂の入り口から涼たちのいるテーブルに急ぎ足で向かった。


「凛、会計はほっとけばいい。さっさと上に来い」

涼が迷惑がってる、という言葉は飲み込んだ。すると凛は歓喜の表情を見せて俺に抱きついた。クソ、周りの生徒たちがキャンキャン煩い。

「おら、さっさと行くぞ」

涼と久代の2人の時間を邪魔してはいけない。涼の不機嫌そうな顔が目に付く。

「だって篠っ!涼、俺が好き嫌いを直してやる!って言ってんのに食べないんだぜ!?サイテーだよなっ!!」

俺に抱きついたまま胸の中でそう言う凛に、俺は返事ができなかった。涼が肉を好んで食わないのは俺も前から知っていることだ。


「…凛に近づくんじゃねェよ」

凛に近づきさえしなければ、お前は少しは楽になれるんじゃないのか。涼は、少なからず凛のことを好いてないはず。

それから、生徒会専用スペースへ上がって、凛や澪たちと他愛もない会話をしながら飯を食う。

「涼ってかっこいいよな!」

「会計のどこが?」
「僕らのほうがカッコいいよ〜っ!」

「凛は会計のことなんて気にしなくていいんです」

酷い言われ様に少し眉を顰める。一般スペースを見下ろすと久代に頭を撫でられ嬉しそうに笑う涼の姿が目に映った。

涼の笑顔を見るのはいつぶりだろうか。あの笑顔は俺の向けられたものではないが、久しぶりの涼の笑顔にしかめっ面だった俺の表情も自然と綻んだ。

これでいい、涼は久代といればそれで幸せになれるんだ。そう自分に言い聞かせた。



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