天邪鬼の猫。 | ナノ
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凛くんがいなくなってから大体一時間ぐらい経ったころ、俺は学園祭の各クラスの出し物についてのアンケートを作り終えた。去年は殆どのクラスが女装喫茶やらコスプレカフェやらと似たような出し物がかぶったから今年は被らないために事前にアンケートとっとくの。
あ、あと学園祭は数少ない在校生の両親や親戚がこの学園に入れる日だから、守ってもらわないといけない学園の規則、諸注意を書いた貼り紙も作らないといけないんだけど何とかそれも完成。学園内ではタバコは禁止です、とか。学園内で騒動は起こさないようにしてください、なんて言った感じの。あとでコレ森ちゃんに渡しとかないと。
「はー…」
溜息を吐く。一時間使ってもこんだけしか進まない。他にもやらなきゃいけないのはたくさんあるって考えたらどんどんユウウツになる。てゆーか頭痛い。何かに集中してたら少しはマシになる…ってゆうかあんま気にしないんだけど仕事がある程度片付いて一息つこうって思ったらすぐ痛くなる。んー、後でショッピングモールの薬局に行って頭痛薬でも買ってこよっかな。この学園ね、すごく大きくて何でも揃ってる商店街みたいなのが寮棟の地下にあるんだよ。俺初めてここ来たとき金持ちはやること違うなーって思った。
ガチャリ、ちょうどそのときドアノブを回す音がなった。誰か入ってきたのかな、凛くんが戻ってきたりとか。
俺はちょっと休憩、と食べていたクッキーを床に落としてしまった。
「…――何してんだよ」
低い声がこの空間を支配する。まさか、彼が俺に対して言葉を発するとは思わなかったけど。
「…っ、あ、えっと…」
明らかに動揺する俺。何をどう喋ればいいか分かんないし彼に目を合わせていいのかすら分からないから自然と目は泳ぐ。
「きゅ、けい…してた…っ」
いつもの自分のペースはどこに行ったんだろ。普段なら焦りとか動揺なんて顔にも出さないのに。手だけじゃなくて全身までもが小刻みに震える。恐れと、緊張。別れる前まではなかった感情が、生まれる。
「かいちょーは…なんで、此処に…?」
ただ、恐れとか、緊張とか。そんなものよりも嬉しい、ってゆー感情の方が勝ってるのは別れる前も、別れた後も変わらないけど。
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