天邪鬼の猫。 | ナノ






「――なら、頑張らなければいい」

朝陽の声はさっきよりも一段と低くて、朝陽の真っ黒い瞳は真っ直ぐと俺を見据えてた。

「…っ」

「後悔しない約束だろう」


『俺、絶対後悔しない!朝陽を振ったこととかいちょーを選んだこと!絶対後悔しないから!』
そうだ、朝陽が俺に告白してくれた日。俺は朝陽と約束したんだ。…サイテーだなあ、俺。今の俺、朝陽との約束を破ろうとしてたんだ。

朝陽に、甘えてばっかだなあ、俺。

頑張るって言った癖に頑張れなくて、その度に朝陽に励まされて、でも頑張れなくて。その繰り返しじゃん。…俺、朝陽がいなかったらどーなってたんだろ。


「…頑張らないということは俺はお前が西園寺のことを諦める、と思っていいということか」

「……、」


篠のこと諦めたら、俺少しは楽になれるかな。
てんにゅーせいと篠が一緒に居ても、泣かずに済む?無理矢理セックスを強要されることもない?


「俺…頑張りたくないって思ったのもほんとだし…でも、諦めたくないとも思う…」


わがまま、って言われるかもしれない。意味が分からない、と思われるかもしれない。

でも俺はどんだけ酷いことされても、篠のこと嫌いになれない。
多分俺、まだ篠に希望持ってると思うんだ。篠ならいつか必ず、頑張ればいつか必ず、って。


「頑張れとは言わない。むしろ西園寺を諦めてくれた方が俺には好都合だ」


ガシガシと、朝陽が俺の頭を撫でる。


「だが、話なら幾らでも聞くし相談なら幾らでも乗る。応援なら涼が迷惑だと思うぐらいしてやるよ」

「朝陽…」

「だから、後悔だけはしないでくれ」


お前に振られた俺が惨めだろう、と付け足して朝陽は笑った。俺もそれにつられて笑う。


「――生徒会リコールの件は、もう少し風紀で検討しよう」

「朝陽…!ありがとう…っ」

「どういたしまして」


まさか、この様子を篠が生徒会専用スペースのある2階から見ていたとは思わなかったけど。



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