天邪鬼の猫。 | ナノ
6
(side 篠) (背後注意)
「…ぉ、ねが…やめ、て…っ」
涼は随分痩せた。いや、痩せたというよりかはやつれた、という表現の方があってるかもしれない。
最後に抱いたのは多分1ヶ月程前。そのときの涼は抱きしめると高校生の男子にしては細いな、と思うぐらいの細さだった。腰も細い、色も白い、無駄な筋肉もついてない。だが血色は決して悪くはなく健康的な細さ。
それが今は本当に細い。やつれた。顔は青白くて腕や足も少し力を入れれば折れてしまいそうだ。
無理矢理、涼の後ろに指を突き刺す。ポタポタと真っ赤な血が滴り落ちて鉄の匂いが俺の鼻を突付いた。
俺は熱く猛った自身を涼のそこへあてがう。
「お前のこと、壊してやる」
そうすれば、心の中のこの気味悪い感情は消えてくれるだろうか。
腕の中の涼は更に抵抗を見せる。縛られた両腕で俺の体を押して足掻くが弱々しいその力によろけるような軟弱な体作りは俺はしていない。思いっきり涼の小さな体を突き上げ続けると涼は涙を流しながら気を失った。ぐったりと力なく俺の肩にもたれかかる。真っ白な肌の色が目に入った。前まではすっかり見慣れていた筈なのに愛しく感じる。久しく感じる。
(俺が好きなのは凛のはずだ――)
頭の中で警戒音が鳴り響く。これ以上はやめておけ、と。凛に対して罪悪感を感じるからやめておけ、ということなのかそれとも――…
「―チッ」
俺は涼の白い肌に紅い痕を残した。左胸に。涼の心臓の鼓動が聞こえる。とくん、とくん、と脈打ってた。
「ああ、クソ」
涼は自分のものだ、と主張するかのような左胸のキスマーク。馬鹿らしくなって俺は気を失ったままの涼の中に欲を吐き出して美術準備室を出る。
本当はこんな手荒に抱きたくなかった
本当は目が覚めるまで隣にいてやりたい
本当はもっと涼の傍にいたい
俺はその感情を掻き消すように後ろを振り向かず、歩き出した。
そうだ、俺の好きな人は凛だ。無理矢理抱いても消えなかった俺の胸の中を渦巻くこの黒い感情は消えなかったが、きっと凛ならこの感情を消してくれる。
俺はただ、気づきたくなかっただけなのかもしれない。
歓迎式。fin.
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