天邪鬼の猫。 | ナノ






(side 篠)



「…チッ、勝手に名前を呼ぶんじゃねェ。クソが」


俺は、返す言葉もなくなってそう言った。

むかつく、むかつく、俺は涼が浮気したから。風紀の野郎のことを涼は好きになりやがったから。俺だけを見つめる、って言った癖に見ないから。

だから、だから、だから――?
ゴカイ?


『誤解だって、言ってんじゃん…っ!小川くんは俺の親衛隊の隊長で…、それ以上でもそれ以下でもない…!朝陽のことだって、クラスメイトだから…セフレとか、好きな人とか、そんなつもりで俺はあの2人に関わったつもりはない…!』


涼の、何時かの台詞。…なら、俺の、誤解、なのか?
じゃあ、涼はまだ俺のことが好き?風紀の野郎は、好きじゃないのか?

ぐるぐるとそんな疑問が頭を支配する。


「いっ、た…!!」

俺はこのモヤモヤとした感情を掻き消そうと苦し紛れに涼の前髪を掴む。染めたにしてはあまり痛んでない涼のプラチナブロンドを無理矢理引っ張って立たせた。
違う、俺の好きな人は凛だ。あの真っ直ぐな所に惹かれたんだ。凛なら俺を裏切らない。

涼は俺を裏切ったんだ。俺は涼に裏切られたんだ。


「は、なして…っ」

「“会計”、てめェまだ俺に未練あんだろ?」


そんなことを聞いても俺にはどうすることもできないがせめて心の中のこの気分の悪ィ感情をどこかにやりたい。胸糞悪ィんだ。

涼を足蹴にしたらこの感情は晴れるだろうか。涼、と呼びそうになるのを堪え俺は役職名で呼んだ。


「あるって言ったら…“篠”はまた俺のこと、愛してくれるわけ?」


馬鹿じゃねェの。俺から離れて風紀の野郎の元へ行ったのはお前だろ。なんでそんなお前が俺に未練あるんだよ。俺は、今からお前のその気持ちを利用するぞ。自分の心の中にある胸糞悪ィこの感情を消すために。それでもお前は俺に未練があると言えるのか。



「偽者の愛でよかったらな」


無理矢理引き寄せてキスをする。久しぶりの涼とのキスは下半身に疼いた。



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