天邪鬼の猫。 | ナノ






(side 篠)



数分か走ってたどり着いた美術室に涼はいた。
両手は頭の上で縛られて涼の白い肌が露になってた。それに加えてズボンは今にも脱がされそうだ。


「てめェら何してんだ」


口が勝手に先走った。

涼が俺の名を呼ぶ。今にも泣きそうになって、きっと自分では気づいてないだろうがその表情には少し喜びも含まれてた。桃色の頬はいつもより羞恥に赤くなって口角は少し上がってる。

…そんな顔を、あの風紀の野郎には。久代朝陽には見せてんのか。
……いや、俺にはもうそんなことは関係ねェ。アイツがその風紀の野郎に俺がいながら浮気、したんだ。

俺はあいつにいらないと言ったんだ。涼が風紀の野郎にどんな表情を見せたとしても俺には関係ねェ。


涼を襲っていた3年共を追っ払って涼の様子を伺う。腰が抜けたらしく涼は壁に寄り添いながら座り込んだ。

レイプされそうになっといて無理してヘラヘラ笑うその姿は別れる前と変わってねェ。平気じゃねェ癖に平気だと嘘を吐く。

……俺、思えばここにいることは不自然じゃねェか?
凛を取り残してきて、なんで俺はこんな奴を助けたんだ。助ける義理もねェ。


「…凛がテメェに助けられたと言って俺に助けを求めてきた」

半分嘘だが半分事実だ。何故だか涼を助けて安堵した。走ってきて少し荒れた息も収まってまた涼の様子を伺う。


「かいちょー…ごくろーさまだねー…俺、もう暫くここいるから…早く逃げちゃいなよ、」

今にも泣きそうな癖によく言う。…ここから、涼の傍から離れられない。頭では早く凛の元へ急がなくては、と思うが体が固まったように動かない。

「…テメェなんか俺は助けなくなかったが凛から頼まれたから仕方なく助けてやっただけだ、自惚れるなよ。だが凛を助けたことだけは褒めてやる」

クソ、俺が言いたいのはこんなことじゃねェ。…じゃあ、何が言いたかったんだ?
悶々と悩んでいると涼が口を開く。上手く声も出せてねェじゃねェか。


「…俺、襲われてんのがてんにゅーせいだって分かってたら、助けなかったかもよ?」


か細い今にも掻き消えそうな声で放ったのはそんな言葉だ。
凛を、馬鹿にしたような言葉。

「んだと?」

「だから“篠”の大事なあの葉山凛くんが襲われてたら!葉山凛くんが襲われてるって分かってたら俺は助けなかった!!」


涼がこんなに自分の気持ちを叫ぶの、初めて見た。
いつも何考えてるか分からねェ面して、「てんにゅーせい」やらと間延びした口調の癖に今はハキハキ喋ってる。
俺は、気がついたら涼を殴っていた。


「テメェ…凛をそれ以上そんな風に言うんじゃねェ…!」


さっきまで全く体はゆうこと聞かなかった癖に、勝手に動く。
言いたかった言葉はでない癖に、スラスラと口先だけの言葉は先走る。

涼のふっくらとした唇が切れて血が滲んでる。ああ、その傷は俺がつけたんだ。


「じゃ、あっ!俺にどうしろって言うのっ!?大事な人も奪われて、勝手に変な誤解されて、好きだった人たちに嫌われてく俺は、どうしたらいいんだよっ!!」


俺は、涼の大事な人だったのか。違ェだろ。お前の大事な人はあの風紀の野郎のはず。
お前は今、誤解されてるのか。澪たちからも嫌われてんのか。

…俺、別れてからは涼のこと、全く知らねェ。涼がどんな人間で、どんな目にあってるのか、どうしてるのか、俺、全く知らねェよ。


「篠が…っ、篠があのときてんにゅーせいにキスなんかしなかったら…っ!こんなことには、ならなかった…っ!!」


ボロボロとついには泣き出して俺に訴える。そうだ、俺はこの表情が見たかったんだ。
食堂で、俺と涼と澪で転入生を見に行った日、俺が見たかったのはこの表情だったんだ。

お前にとって一番好きな俺が他の奴にキスしたら、お前はどんな表情するのか俺は見たかっただけなんだ。



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