天邪鬼の猫。 | ナノ
8
たった一瞬の出来事だったのか、それとも長時間の行為だったのか、俺には分からない。
視界にあるのは美術準備室を横から見た景色で俺の血と白濁色の液体で汚れた床に俺は寝てた。その空間にはもう俺しかいなくて、篠は気が済んだのか何処かへ行っちゃった。
何が起きたのかなんて思い出したくない。下半身が痛くて頭がフラフラする。俺はその場から動けずにただその場に据わりつくした。
人の気配もない、今の俺には不幸中の幸いだったと思う。
思い出すのは篠の歪んだ表情、俺の泣き叫ぶ声、殴り蹴られたこと、無理矢理抱かれたこと、
俺は何とか重たい体を動かし上半身を起こして背中を壁に預ける。
「…ふ、っく」
体中が気持ち悪くて仕方ない、自分が汚くて仕方ない、心ではそんな思いがグルグル廻り続けるのに心のどっか隅っこで「篠に抱かれて嬉しい」って思う自分がいる。
愛してもらえない、とは分かってるけど体は繋がった。偽者の愛、を俺は貰った。
「…なっさけねぇ…」
自分で惨めだとは分かってる。虚しいだけだとも分かってる。だけど篠は俺を抱いたんだ。その事実だけは変わらない。
汚れきった体を俺は大事に抱きしめた。
*
『鬼ごっこ』
『しゅーりょー!!』
突然、双子書記の声が教室に備え付けのスピーカーから聞こえてくる。…1時間経過したんだあ。
『今も逃げ回ってる会計はお疲れ様ー』
『僕達を含む他の役員は全員、凛に捕まっちゃったー』
キャハハ、と笑い声が響く。その笑い声は俺への嘲笑にしか聞こえない。
俺は拳を握り締め何とか立ち上がり自分で出来る限りの後処理をしてフラフラとした足取りで講堂ホールへ向かう。表彰式を兼ねた集会があった筈。
ガンガンと痛みの響く頭でそんなことを考えながら俺は壁を伝って一歩、また一歩と歩いた。
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