天邪鬼の猫。 | ナノ
6
あーもう、俺情けなすぎる。涙止まってくれ、そう願ってても涙は溢れてきて床にどんどん雫が落ちる。
「…チッ、勝手に名前を呼ぶんじゃねェ。クソが」
…俯いていた顔を上げられない。頭上から降りかかる声は残酷な言葉だった。あー…俺興奮しすぎて篠、って呼んじゃってたんだ。
「いっ、た…!!」
するとかいちょーは座り込む俺の髪を引っ張って無理矢理立たせた。俺の髪もげちゃうよ。
目の前にはかいちょーの顔が広がる。端麗な顔がちょー歪んでてすげー怖い。これ以上俺、殴られたくないのに。
「は、なして…っ」
「“会計”、てめェまだ俺に未練あんだろ?」
“会計”呼ばわり。あぁ、もう“涼”とは呼んでくれないんだ。
そう思った瞬間、ぜんぶがもーどうでもよくなった。誤解解くとか、朝陽と約束したから頑張るとか、どうにでもなれ、って。
「――…あるって言ったら…“篠”はまた俺のこと、愛してくれるわけ?―――」
かいちょーの切れ長の目がこれでもかってぐらい見開かれる。
でもそれはすぐに何か企んだのか、妖しい笑みに変わった。
「偽者の愛でよかったらな―――」
そう言ってかいちょーはペロ、と舌なめずりする。
その台詞とその仕草で、俺はこれからどうされるのか直感した。だからかいちょーから今すぐ逃げようとするけど髪を引っ張る力を強められて逃げられない。
顔のすぐ横にかいちょーの腕があって、逃げ場はとうとう無くなっちゃったし。
「や、やだなーかいちょー…っ、じょーだんに決まって、んじゃん…だ、から…ね?離して…っ」
「今更逃がすかよ」
そう言ってかいちょーは強引に俺の頭を引き寄せて貪るようなキスをした。
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