天邪鬼の猫。 | ナノ
12
「その…じょーだん…ちょー笑えないんだけ、ど」
「――冗談じゃない、俺はお前が会計補佐をしている時から好きだった」
嘘だ。だって俺、朝陽とまともに喋ったのはかいちょーが食堂であの転入生にキスしたあの日が初めてだもん。
それまでは俺、朝陽のことなんとも思ってなかったんだよ?ただ、かいちょーと仲悪いなって。それぐらいの存在だったのに、朝陽は違ったの?
「あさ、ひ…!俺っ、朝陽のこと…そんな風に思えない…」
俺の目に映る朝陽は眉を八の字に曲げ、唇を噛み締めた。
「俺、朝陽のことすっげー信用してるし…人前で泣いたの朝陽が初めてだし…かいちょーとか転入生とかが俺の目の前にいて、ちょー苦しかったけど…朝陽との約束があったから…朝陽がいたから、俺…頑張れたよ…」
朝陽のことは、好きだ。
俺を包むを闇を朝陽はキレーな笑顔で笑って照らしてくれる。俺が苦しいときは朝陽が側にいて導いてくれる。
だから俺、朝陽の事がちょー大好き。…でも、その好きは、俺がかいちょーへ想う好きとは違う。
「俺…好きな人がいんの…朝陽のこと、大好きだけど、恋愛感情の好きじゃない」
すげー最低だなあ、俺って。頼ってばっかで、迷惑ばっかかけて。終いにゃ朝陽の気持ちには応えらんない。
「“篠”が好きだ…俺…!俺の好きな人…“篠”なんだ…」
ダメだ、今の俺はきっと顔グチャグチャだ。涙腺ほーかい。涙ボロボロでるし、鼻水止まんない。
そんな俺に朝陽はいつもみたいに頭をガシガシと撫でて目尻にうっすら涙を浮かべて笑ってこういった。
「――そんなこと、知ってる。お前の好きな人ぐらい」
俺が朝陽の気持ちに応えられない、って分かってて朝陽は俺に告白したの?…それってすっげー…
「ばかみたいじゃん…」
俺はすっかりびしょびしょになった制服の袖口で涙を拭ってそう言った。
「ああ。ばかでいい。…ただあのばかに負けたのはムカつくけどな」
また視界がうるっとぼやける。俺は朝陽に勢い良く抱きついた。朝陽の体は俺に押し倒される形となり思いっきりソファに背中からダイビング。
「〜っ、いきなりだな…」
「俺、絶対後悔しない!朝陽を振ったこととかいちょーを選んだこと!絶対後悔しないから!」
朝陽の背中に腕を回し筋肉のついた胸板に顔を寄せて俺は言った。そしたら朝陽も俺の背中に腕を回して。
「当たり前だろ?後悔なんかしやがったら俺、涼に何するか分かんない」
って優しく目だけ笑って朝陽はそう言った。
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