天邪鬼の猫。 | ナノ
10
「おいっ!篠たちのことそんな風に言うなよっ!」
てんにゅーせいがなんか言ってんの、今の俺の耳には届かない。俺の考えが甘かったのかな、誤解なんて解ける筈もなかったんだ、朝陽と約束したのに、誤解解くって、その約束守れそーにないやぁ…。
俺ね、かいちょーはまだ俺のこと好きでいてくれてる、って思ってたんだよ…。希望持ってたんだよ。かいちょーは俺に嫉妬させよーとして行き過ぎたのかも、って。
「…ハハ、」
勘違いもいいとこ、だよね。
俺は立ち上がって散らかされた俺の机の上にある食べかすのついた書類を払ってお菓子の包装はゴミ箱へ捨てた。そこまで厚くない書類の束を持って俺は生徒会室を出た。
…言葉は何も、出なかった。
*
俺は行く宛がないのでとりあえずまた自室に戻ってきた。書類は小1時間集中すればすぐに終わった。
俺はふかふかのソファに仰向けに寝る。すると目尻に溜まっていた涙が零れ落ちた。涙の雫はこめかみ辺りを伝うから少し気持ち悪い。でもそんなこともどうでもいいぐらいにさっきまでの出来事がショックで仕方なかった。
「し、の…っ」
2人のときだけ呼ぶことを許されたかいちょーの名前を呼んでみる。するともっと心はぎゅっと締められた感じがして虚しいだけだった。
ピンポーン、部屋のインターホンが鳴る。くそう、誰にも会いたくないのに。誰だよー…。
ガチャリ、重い体を起こしてドアを開ければ朝陽が書類の山を持って立っていた。いつも掛けている眼鏡を外していて少し違う印象だ。…眼鏡を掛けている時もじゅーぶん朝陽はカッコいいけど、眼鏡外してる方がカッコいいなあ。とか思ったのは内緒だ。
「…あ、朝陽…俺の部屋まで…ソレ、書類…?」
多分、今の俺の顔、見れたもんじゃない。さっきまで泣いてたわけだし。俺は俯き気味にそう言った。
「…生徒会室に行ったら他の役員とあの転入生がいて涼の姿がなかったから、お前の部屋に寄った。この書類は涼に押し付ける為に持ってきた」
ちょ、俺に押し付ける為ってひどくない?せめてそこ生徒会に押し付ける為って言おーよ。
「仕事増やさないでよー…朝陽のばかちん」
「風紀もあの転入生のせいで仕事が溜まってるんだ。悪いな」
どさ、っと俺に書類の山を本当に俺に押し付けて朝陽は笑う。…あり?朝陽ってここに来る前に生徒会室に寄ったんだろ?かいちょーらに預ければいいのに。なんでわざわざ俺んとこに…。
「朝陽ちゃーん、新手の嫌がらせ?女の子にモテないよーう?」
「…ふん、女には興味ない」
朝陽は俺の頭をガシガシと大きな手で撫でる。
「ちょ、俺のヘアーが崩れるぅー…」
「――前にも言ったが泣くぐらいならこの俺を頼れ。いつだって俺は応援していると言ったろう。お前の味方は此処にいるんだから」
「朝陽…」
朝陽には全部お見通しだ。この人にはほんと敵わないや。朝陽の大きな手が居心地がいい。
「俺、誤解されても頑張るって言ったけどさー…全然、自信ないんだぁー…」
ぽた、ぽた、
「かいちょーと、てんにゅーせいが一緒にいるの、見たくない。お互い名前で呼び合ってるの、聞きたくない…っ」
ぽた、ぽたた、
「っ、…かいちょーの誤解解けるといいな…って、思っても、言葉に出来ない…。俺の言葉は、かいちょーには伝わらないんだ…っ」
俺は初めて、人前で大声上げて泣いた。
「――お前が頑張ってるのは俺にちゃんと伝わってるよ」
そんな俺を朝陽は力強く抱きしめた。バサバサと俺の手から書類の山は崩れ落ち俺は無我夢中で朝陽の大きな背中に腕を回してわんわんと泣いた。
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