天邪鬼の猫。 | ナノ
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生徒会フロアに戻ると向こうに複数の人影がいるのが見えた。遠くにいて少し見えにくいけどあれは他の役員達とてんにゅーせいだ。
仕事寝る前に少しだけ片付けちゃおうと思ったのに。このまま真っ直ぐ進んじゃえば鉢合わせになっちゃうんだけど。…よし、回れ右だ。もう今日は諦めて帰ろう。
「あっ、おいっ!!涼!!」
くそう。見つかってしまった。あの黒毬藻なんで目いいんだよ。なんで50メートルぐらい離れてる俺のことが分かるんだ。しかもいちいち声でかい。
そんなことを考えているうちにてんにゅーせいは俺の元へ走って寄ってきた。後からぞとぞろと他の役員とあの一匹狼君も寄ってくる。ちょ、全員俺を怪訝そうな目で見てるんですけど。
「お前ここ1週間どこ行ってたんだよっ!?心配したんだぞっ!」
「あー…ちょっとね…」
「はんっ、どーせあの1年のガキとヤリまくってたんだろ。おら、“凛”。こっち来い」
1週間ぶりのかいちょー…、誤解がさらにひどくなってるぅ…。1年のガキって小川くんのこと…?そんな関係じゃないっつーの。
『俺、諦めない。誤解されても頑張るよ』
うん、俺決めたし。朝陽にもそう言ったんだ。応援してもらってるんだから、かいちょーの誤解…解こう。
「…っ、かいちょー、俺、小川くんとは…」
「だめだぞっ!!」
「…は?」
くそう、こっちが意を決して誤解を解こうと思ったのに。黒毬藻に言葉を遮られて邪魔されてしまった。小さい体で必死にきゃんきゃん騒ぐ黒毬藻。
「涼っ!お前まだセフレと付き合ってたのかっ!?いけないんだぞっ!?俺、前に言っただろ!なんでゆうこと聞かないんだよ!!?」
…はあ。ため息が止まらないよ。
「あのね、俺にはセフレいないの。見た目でそう見えるかもしんないけどかいちょーが言ったのは俺の親衛隊の隊長さんでセフレなんかじゃないの」
これは転入生だけじゃなく、かいちょーにも言った。こんなこと言ってもかいちょー、信じないんだろうけど。それでも少しでも伝わればなと思う。
「親衛隊っ!?親衛隊なんて澪たちを悲しませる奴らだろ!?涼も親衛隊とは早く手を切れっ!あいつらなんかとは付き合っちゃダメだ!!」
小川くんが、俺を悲しませる?付き合っちゃダメ?
「…なんで、君にそんなの言われなきゃダメなの…?」
俺を悲しませるのは、俺からかいちょーを奪った君じゃん。ねぇ?“葉山凛”くん。
「りょ、う…?」
「っ、」
俺はハッと正気に戻る。
今、俺…何を口走った…?
相手がいくら大嫌いなてんにゅーせいだろうと僻みもいいトコだ。
「…ごめん、何もないよぉ。わー、もう11時過ぎちゃってるなあ。早く寝なきゃ俺のモチモチお肌が荒れちゃーう。ってことでみんなオヤスミー」
早く、この場から逃げ去りたかった。かいちょーと、同じ空気を吸えなかった。
急ぎ足で自分の部屋へ戻る。カタカタと震える手で何とか生徒会役員だけが持てるゴールドカードを取り出しスキャンして部屋に入る。がちゃん、と扉を閉めた瞬間にへなへな〜と俺は足に力が入らなくなって座り込んだ。
「…はは、俺…ちょーだせェ」
自分を自分で嘲笑ってみても虚しいだけだった。
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