天邪鬼の猫。 | ナノ
5
「はろー。森ちゃんいるー?」
職員フロアの一角にある「森田一帆」のネームプレートを掲げた部屋に俺はガチャリとノックもベルも鳴らさずドアノブを回して生徒の部屋より豪華な扉を開ける。
「ん、誰だ?」
「おれおれー」
「俺俺詐欺か。こんな時間に何の用だ」
「明日締め切りの書類持ってきたぁ」
森田一帆、ホストチックな養護教諭。…ホストチックじゃなくてもうまんまホストみたいだけど一応森ちゃんは生徒会顧問のせんせーだ。普段は盛ったままの茶色の髪が今はお風呂上りなのか湿っていて上半身は何も着ていなく鍛えられた腹筋が丸見え。下はスウェットを穿いていて片手にコーヒーカップを持ってソファに座っていた。
「提出おせェぞ」
「ごめんねー、今度から気をつけまーす」
「ほぉ、今年は鬼ごっこか。教師にも参加資格はあるのか?」
「そんなのないに決まってんじゃん。特に森ちゃんは保健のせんせーなんだから」
怪我人が出た時の介護ヨロシク、と付け加えると「つまんねェな」と一言。ズズ、と森ちゃんはコーヒーを飲みながら書類に目を通した。
「んー…まぁまぁだな、おし、帰っていいぞ」
「やった。涼ちゃんってばいい仕事するでしょぉ」
「…お前、この書類1人でやったのか?」
しまった。俺ははっとなって口を押さえる。この先生鋭いからやだぁ。
「や、やだなー。そんなの生徒会のみんなで考えたに決まってんじゃん」
「じゃあなんで西園寺の奴が提出に来ねェんだよ」
「そ、それは…か、かいちょー忙しいって!ほ、ほらかいちょーってちょー暴君だから俺がパシらされたってわけ」
「…ふーん」
「お、俺帰るね?おやすみ森ちゃーん」
俺は半ば逃げるように急ぎ足で森ちゃんの部屋から出て行き、職員フロアをあとにした。
- 36 -
[ prev * next ]
栞を挟む