天邪鬼の猫。 | ナノ






あーらら。小川くん泣いちゃった。ちょ、3人組の男子生徒、今にも小川くんに襲い掛かりそうなんだけど。ここで俺、小川くんのこと助けなきゃ男じゃないよね。俺、運動音痴でヘタレで喧嘩とかちょー弱いけど男だもん!

食いかけのサンドイッチ全部口の中に放り込んでからカンカン、と俺は螺旋階段を下りて小川くん救出に向かう。やべ、俺かっけぇ。


「ねーえ、なーにしてんのぉ?」


出来るだけ震わせないように声を出す。心の中実はちょーびくびくなんだよね。ガクガクに震えてる手はポケットにつっこんでちゃんと隠してる。


「うわ、会計!」

「おい、もう行こうぜ…」

「やべェよ…!」


お?涼ちゃんってばヒーロー?悪役を追い払ってお姫様救出成功?やったあ。無駄な血を流さずに済んだね!やっぱ暴力はだめだわ…ってそんなことより。


「小川く…」

「涼さま!」


話し掛けようとしたら遮られてしまった。ちょっと怒ってるっぽいんだけど。でも泣いちゃってるし、ぷぅとほっぺも膨らませてるけど正直怖くない。むしろ可愛い。でも俺はノンケだ。


「うぅっ…うわぁあんっ!無事でよかったですーっ!」

「へ?逆に小川くんが無事でよかったよ。何危ないことしてんの」

「僕は涼さまの親衛隊隊長なんです!…ぐすっ、だからあの生徒達の暴言はどうしても許せなかったんですっ!それなのに…!それなのに涼さまがいらっしゃったら…!暴行を受けていたかもしれないんですよ!?何故下に降りてきたんですか!」

「いやぁー…それは小川くんが襲われそうになってたからあ…?」

「僕は親衛隊隊長です!涼さまを守るべき立場の人間なんですよ!なのに守るべき対象の貴方に守られては意味がないじゃないですかぁ!うわーんっ!」


ちょ、小川くん本格的に泣いちゃったんだけど。どーすりゃいいかなあ…。


「うーんっとね?俺のこと守ってくれるのはうれしーんだけどソレで小川くん怪我したら意味ないじゃん?…――だから今度からは気をつけてね?」

一応俺、小川くんより歳上だしそれなりに力はあるし。ぽんぽん、と俺は小川くんの頭を優しく撫でた。するとまたパッと笑顔になる。目じりにはまだ涙が浮かんでて、鼻も真っ赤だけど。


「涼さま…!はいっ、気をつけます!」

「ん!それでよし。じゃあ俺生徒会室に戻るから」

「え!?自室には戻られないんですか?」

「…小川くん、ちょっと噂流しといてくれる?」


俺はこそっと小川くんに耳打ちする。小川くんは少し悩んだ素振りを見せてから「涼さまのご命令とあらば!」と言って了承してくれた。ついでに命令じゃないよ。お願いだよ。これは。命令って言ったらなんか人聞き悪いじゃん。食堂を急いで去る小川くんに「ありがとう、ばいびー」と手を振る。小川くんは一旦止まってから深く礼をして風のように行ってしまった。…小川くんはなんか癒し系だな。かわいいからちょー癒される。

そしてまた俺は螺旋階段を上ってさっき食べ損ねたフルーツサラダを平らげるとぺたぺたと踵を踏んだ状態の上靴で生徒会室を目指した。



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