天邪鬼の猫。 | ナノ






「…わぁ〜、なんでかいちょーがここにいるのかなあ?涼ちゃんちょーびっくり」

「そのふざけた態度が気にいらねェ。もうあの風紀の野郎は落とせたのか?」

「かいちょーがなんでそんなの気にするわけ?」


平常心、平常心、落ち着け俺。泣きそうになるな。堪えろ、堪えろ――

俺は拳をぎゅっと握り、息をヒュ、っと吸ってなんとか声を出した。


「教室移動とかじゃないのー?早く行っちゃいなよぉ…―」


早く、俺の前からいなくなって。これ以上は俺もう限界。声出せないし。


「チッ」


かいちょーは踵を返すとCクラスのすぐ横の階段を上って行った。…上の階にはSクラスの教室しかない筈。


まさかぁ…かいちょー、俺に会いに来たわけ…?



「西園寺の奴はもう帰ったか」

「あ、朝陽ー…」

「あいつ、朝からこの教室の前を休み時間になる度にうろちょろしていたぞ。あ、あと1年の小川もな」


教室の入り口で考え込んでいた俺の頭を後ろからポン、と叩くとそう朝陽は教えてくれた。小川くんは分かるけど、なんでかいちょーが。俺に会いに…?いや、でも俺はかいちょーにいらないって言われて捨てられたのに。


「お前、西園寺と何かあったんだろう」

「えっ」

「大体顔を見れば分かる。…何かあったら俺に相談すればいい」


俺より少しだけ身長の高い朝陽を見上げるとわしゃわしゃと頭を撫でる。朝陽って手、大きいんだなあ…。


「…うん、じゃあさっそく相談してもいい?」

「なんだ」

「…俺……イケメンすぎるんだけどどうしたらいいかな!」


ちょっとふざけてみた。うん、ごめんなさい。うわっ、朝陽ってば顔が般若みたいになってるんだけど!
ごめんなさい!冗談だよーくだらないこと俺大好きだもん。


「うそうそ。冗談だよ!てゆーか俺、かいちょーとも何もないし!だいじょーぶだよぉ。気持ちだけ貰っとくねん」


ハァ、と呆れたように朝陽がため息をつく。俺は笑ってはぐらかし教室に入って自分の席に戻る。


「…全く、お前には呆れるよ」

「えへへー」


そう言って、また朝陽は笑った。


朝陽の漆黒の髪が揺れる。艶のある髪は窓から差し込む光が反射して、キラキラしててなんか宇宙みたいだ。朝陽を見つめると何?と大人げがある笑顔を向けてくれた。無邪気に悪戯っ子みたい笑うかいちょーが太陽だとしたら。朝陽は夜を照らす満月だなあ、って思う。あ、でも“朝陽”って名前なのに“満月”だと反対だなぁ。

朝陽をまっすぐに見つめて、俺はその朝陽とは真逆の存在を想い浮かべていた。



「…俺、諦めない。誤解されても頑張るよ」


俺は目を細めて笑った。


「ああ、あまりよく分からないが、応援している」

「ふふっ、ほんとーに応援してくれてるぅ?」

「素直に喜べ、天邪鬼め」

「にゃーん。充分素直に喜んでるよん」





猫と満月。fin.
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