天邪鬼の猫。 | ナノ
3
(side 篠)
「凛っ」
澪は頬を少し赤く染め、黒い毬藻の名前であろうソレを呼んだ。
あれが転入生か
黒いモジャモジャ頭で目は前髪で隠れて見えず、オマケに今時漫画の中の世界でも誰もしないであろう黒いふちの大きな眼鏡。そしてその容姿に似合わず明るく透き通った声。
あれは…
その黒い毬藻の後ろにいるのは学校一の問題児と称される一匹狼の新条柚木がいた。青い髪にごついシルバーアクセを耳やら首元やら手やらとつけまくっている、涼とは少し違うチャラチャラした奴。喧嘩や問題ばかり起こして何度か停学になってる不良だ。
「…涼、あの毬藻頭、どう思う」
「あ、かいちょーも毬藻って思ったんだあ?第一印象からすると俺のちょー苦手なタイプぅー」
「そうか、分かった」
澪の奴がウキウキしながら下の一般スペースへ降りて行く。仕方なしに俺達も澪について行き下に降りる。こんな奴に澪は惚れたのか?…澪の趣味が分からない。
「あっ、お前ら澪の友達か!?なら俺とも友達だなっ!俺の名前は葉山凛って言うんだ!!よろしくな!」
うるせェガキだな。ちょっと黙らせてやるか?
『何、篠ってばヤキモチー?』
さっきの仕返しも、涼にしなくちゃなんねェし。
俺は黒い毬藻の近くまで寄って顎をグイっと掴んで俺の唇と接触させる。舌を絡めて、それでもまだ少し抵抗しようとする転入生の後頭部を掴んで無茶苦茶にしてやる。男の癖に甲高い声を出して叫んだり、終いには泣いてこの食堂から逃げ出す一般生徒達が何人か見えた。
涼はどんな顔をしてんだ…?
楽しみだ、と俺は唇を離して階段で立ち尽くしているであろう涼を見る。
あいつはいつもヘラヘラ笑って、でも俺がちょっかいをかけると少し拗ねたように顔を赤くして、仕事を押し付ければやだーと頬を膨らます子供のようなあどけない顔をして、自分で淹れた甘いコーヒーを飲みながらお菓子を頬張ると幸せそうな顔をして、俺が他の奴にキスでもしたらその表情豊かな顔を歪めて、泣いて、怒るのかと思った。
涼の表情は、何も灯していなかった。笑顔も、悲しみも、怒りも、何もない。
――初めて見た。無表情の、涼の姿なんか。
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