天邪鬼の猫。 | ナノ
「いらない」
5月半ば、俺は2年に進級。1年がある程度この高等部に慣れたであろうこの時期に―――…
「転入生が来る」
放課後、帰りのHRが終われば生徒会室に足を運ぶことがすっかり習慣になってしまった。そんなある日、葉が緑へと移り変わりはじめ桜がヒラヒラ窓の外で散るのを見ながら涼ちゃん特製コーヒーを飲む。ふくかいちょーは机で仕事、双子書記はソファでじゃれあって遊んでる中、かいちょーは突然そう言った。
「この季節にぃ?」
「転入生だってー」
「いつ来るのー?」
「家庭の事情とかですか?」
「虐待とか親の離婚とかかなあ」
「そんなことは」
「言っちゃ失礼でしょー」
またしょうもない話で盛り上がる。実はこんなくだらない会話をしながらの毎日が楽しかったり。
「理事長の甥らしい。多分今頃学園の正門前にいる筈だから澪、迎えに行ってこい」
「――は!?じゃあもうここに転入生は来てるってことですか!?」
「ああ」
「あなたは何故そんな大事なことを前日までに言っておかないんですか!」
「忘れてた」
「かいちょードジっこー」
「ドジっこー」
キャハハ、と双子が騒ぎ出してうるさい。かいちょーは眉間に皺を寄せる。
かいちょーはどんな表情でも絵になるなあ、なんてコーヒー飲みながら篠を見つめる俺ってほんとホモ。
「全く、私は仕事してるんです。そこで遊んでる双子か暢気にコーヒー飲んでる涼に行かせればいいでしょう」
「僕達やだー」
「めんどくさーい」
「俺もパスぅ」
「…だそうだ。それに双子を行かせたとしてもこの俺が涼を迎えにパシらせると思うか?転入生に涼が襲われたらどうするつもりだ」
…そう。実はあの顔合わせの日から俺のかいちょー、付き合ってたりする。かいちょーのぷろぽーず台詞がこれがすごく感動したの。「好きだから付き合え」ってほんとどこの王様だよって。でもすごいかっこよかったし俺は二つ返事でオーケーしたんだよね。もーあのときはホント泣けた。泣いてないけど。
「ああ、もうっ、分かりました!行ってきますよ!私が行ってこればいいんでしょう!」
ふくかいちょーどんまーい。怒りながら出て行ったふくかいちょーにばいばいと手を振る俺と双子。
ふくかいちょーが帰ってきたら、コーヒー淹れてあげよーっと。そんでまた楽しいおしゃべりしたいなあ。
――このときは、そんな暢気なことばっか考えてた。これから起こる出来事なんて、考えもせずに。
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