天邪鬼の猫。 | ナノ






ぞわわわわー!って全身を何かが駆け抜けていく感じ。

えー…ちょ、うそ。えー…い、今ふくかいちょーが謝った…?うそだろ…えええ…

「…なんかあ……企んでたり、するわけえ?」

「失礼ですね。本当に反省しているからこうして謝っているのですよ」

確かに、ふくかいちょーからの目からは悪意は感じ取れない。だからと言って反省の色が窺い知れたわけでもないんだけど、信用はしてもよさそー…かなあ…。

「本当に…そう思ってくれてるなら…。ふくかいちょーのこと信じるよお…」

「そうですか」

「――でもぉ…ひとつ言わせてほしいんだけどお」

「なんですか?」

いきなりなんで謝罪?俺倒れたからって良心痛めるような性格してないでしょアンタ。

凛くんに変な嘘は教えるわ、コーヒーは俺にぶっかけるわ、いちいち言いだしてたらキリないからここは俺が大人になってそれらのことは水に流すことにしますけども!
ふくかいちょーは俺にしたことに対して反省をしてるわけじゃない。義務的に謝ってるだけだ。

「俺、別に凛くんのことは好きじゃないよお」

ふくかいちょーの変な嫌がらせがとんだ勘違いによるものだったらそれってちょーサイアク。

「…それは、どういう意味で?」

「まんまだよ。恋人にしたいとか、これっぽっちも思ってないんだあ」

「そう、ですか」

「うん。これからも、俺が凛くんを好きになることはないと思うよぉ」

真っすぐふくかいちょーの瞳を見つめる俺。だから安心して凛くんにアタックするといいよ。俺に対して嫌がらせしてきた人の恋を応援してあげる俺ってまじ優しいな。

「……それは、あなたがまだ篠のことをまだ想っていると考えていいんですか」

ふむ、とふくかいちょーは左の親指と人差し指で自分の下唇をいじりながらそう言う。

まだ、

俺が篠に捨てられたのは、俺の口からは朝陽にしか言ってなかった。
でもこのふくかいちょーの口ぶりは俺と篠の今の関係を知ってるという風に聞こえる。

「…さあ?それはどうかなあ」

それが不自然とは思わない。ふくかいちょーは観察眼の鋭い人だし、篠が凛くんにキスをしたあの食堂の一件も見ていたわけだし、俺と篠が別れたと思っていてもなんら不思議ではない。

「では、久代朝陽に鞍替えしたんですか?なかなかあなたも強かですね」

ふくかいちょーの唇をいじる手は止まらない。意味深な笑みとその言葉。
……この人、どこまで知ってんだろー…。



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