天邪鬼の猫。 | ナノ
3
どんどん俺とふくかいちょーの距離が縮まっていく。
ふと、書類から視線を外したふくかいちょーと俺の視線が合った。
ぴたり、俺はその場から動けなくなって。別に怖いとかそんなのではなく、多分気まずさから。
それは俺だけじゃなくふくかいちょーもそうらしく立ち止まる。俺とふくかいちょーの距離、およそ5メートル。
ふくかいちょーは突然の俺の存在に驚いたようで少し大きく見開いた緑色の瞳に俺の姿を映す。
この状況…かなり気まずい…。どうやって抜け出そう…
俺とふくかいちょーは現在お互いの目を見つめ合ってます。別にツナミ的な意味ではなく、睨み合いというわけでもなく。
俺は目が合っちゃって気まずさから逸らすタイミングを掴めないでいるだけ。
見た感じ、ふくかいちょーの目から少なくとも今は嫌悪を感じられないから、ふくかいちょーが俺から視線を外さない理由は俺と同じ、と考えていいだろう。
今ここに凛くんいないし、警戒する必要がないからかなあ。俺は凛くん好きとかないから普段から別に警戒してくれてなくてもいいのに。つか警戒しないでほしいくらい。
まーそんな話は今はどうでもいい。それよりこの状況ほんとにどうしよう。
何か声を掛けた方がいいのかな…
ご機嫌いかが?
―なんか、ふくかいちょーの機嫌を損ねちゃいそう。ふざけてるみたいだよなぁ。
仕事しに来たの?
―俺がふくかいちょーならこの言葉は嫌みとしか受け取れない。あんまりよろしくないなあ。
今日は凛くんや双子といないんだね
―これもなんか嫌みみたいだ。遠回しに今日は遊んでないんだなって言ってるみたいだ。
あーいいのが思い浮かばねぇ…。
てかぁ、なんで俺こんなん考えてんだろ。ふくかいちょーにはコーヒーぶっかけられたこととか、いっぱい意地悪なこと言われたこととかあんのに。
それなのにたまたま廊下で会っただけで、気まずいからって俺から話しかけんのはなんか悔しい。
考えたらちょっとむかついてきたかも。うん、もう話しかけなくていいや。俺、ふくかいちょーには声かけない。
気まずいなんて、知るか。早くカードキーを取りに帰ろう。
俺はふくかいちょーから視線を逸らし、自室に戻ろうと足を動かす。
すたすた、すたすたすた、
早歩きで歩く俺はふくかいちょーとの距離を拡げるだけでかなり緊張する。
自室に着いたとき、俺は後ろ手に自室の扉を閉めてハァーと大きく息を吐いた。
今回の俺は逃げなかった。なぜかそれが、俺はふくかいちょーに勝ったみたいで嬉しかった。
別に勝負をしてるわけじゃないんだけど、なんか優越感。
俺だってやられっぱなしじゃないんだ!
すれ違った時に鼻で笑ってやればよかった、睨みつければよかった、なんてガキみたいに考えながら俺は自室の机の上に置きっぱなしにしていたカードキーを手にとって再び篠のいる生徒会室へ向かった。
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