天邪鬼の猫。 | ナノ
6
(side 朝陽)
「…俺は、涼に一度振られているんですよ。それに、涼には好きな人がいるから…」
「だからなんだって言うんだ。いいだろ、略奪愛」
「……よくないでしょ、」
というか、なぜ先生は俺にあんなことをしておきながらこんなことを言うのだろう。…考えるのも嫌になってくるが、あんな…人のペニスに触って、ましてやイカせるなんて真似。教師が生徒にそんな真似をするなんて。
先生は、俺に好意でも持っているのだろうか?
仮に好意を持っていたとして、こんな無理やり…俺ならば涼の嫌がることはしたくない。
「ま、それは措いといて…抜いてちょっとはスッキリしたろ?」
すると意地悪そうな笑みを浮かべ顔色悪くはなくなったぞ、と先生は言う。
…顔色、悪かったのか?俺。鏡なんて持ち合わせていないから顔色なんて自分では分からない。
「生徒会のフォローも大変だがお前まで倒れるなんてことやめてくれよ」
先生は俺に背を向けてエレベーターの「開」ボタンを押す。すると扉がガコン、と開いた。やっぱり降りるんじゃないか。わざわざ引き留めてあんな真似、本当に意味が分からない。聞きたいけどなんとなく、あんな真似をした理由を聞くに聞けない。
「…ご心配なく」
そう言えば最近、涼ほどではないが睡眠時間と1度の食事の量が減った気がする。それを見抜かれたということか?…まさか。別にどこかやつれたわけでも仕事に支障を来したわけでもない。先生は俺の悩みをよそにじゃあな、と書類ごと手をひらひらと振りながらこっちを振り向くことなく言う。そしてまたエレベーターの扉は勝手に閉まった。
俺はずるずると壁に背を預けながらその場でしゃがみこむ。
ああ、もう。本当に意味が分からない。
なんで先生はあんな真似を、どうして俺が涼のことが好きだと言うことを、なぜ俺に涼を「諦めるな」なんてことを…。
まだ少し快楽の余韻が残っている俺の体は熱く、思考もあまり巡らない。
…仕事、まだ残ってるのに。
今日の葉山たちの件の処理に通常のデスクワーク…ああ、そう言えば学園祭に関する会議もあったな。
―――学園祭まで、もうあと1ヶ月もないのか。
つい先日まで夏休みだったと言うのに。最近では今日を含めいろんなことがありすぎた。
時間が経つのは早いなと一人、俺はそう思った。
下準備。fin.
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