天邪鬼の猫。 | ナノ




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(no side)



「だから、それは久代じゃ――」

「俺の好きな人は朝陽じゃない」

涼の視線は真っ直ぐ篠の瞳へ向けられて…というわけにもいかない様だ。涼の視線は篠を見やることもできずかといって完全に目を逸らすこともできずに泳いでいた。

だがそれでも篠には自分の思いを伝えたかったらしい。必死に声を、手汗握る拳を震わせながら今にも泣きそうに声を紡いだ。


「…俺の好きな人は…!」


『篠なんだよ』
一番大事な台詞がどうしてもでてこない。うまく言葉が声にならないらしく涼の口から出るのは掠れた息だけだ。


喉にまで篠が好きだと伝えたい声はきてるんだ!
あと少しなのに声が出ない…!



「……っ、」

すると数秒後、みるみる涼の顔が茹でられたたこのように真っ赤になっていく。
声が出ずとも涼は篠に告白しようとしたのだ。照れて気持ちが高揚しさらに篠に告白しにくい状況になる。


「…ホラ、お前久代が好きなんじゃねぇか。いちいち嘘吐いてんじゃねぇよ」

篠のその言葉を聞いた途端、涼の真っ赤な顔はすぐに真っ青になった。篠からしてみれば今の涼の言葉は“「涼は久代が好きだ」ということが俺にばれて照れた涼が苦し紛れに吐いた嘘”としか思えないようだ。
たしかに涼は肝心な言葉を言えなかったのだ。そう思われても仕方ない。


「う、嘘じゃな、ホントに俺の好きな人は朝陽じゃない…っ」

慌てて必死に篠の言葉を否定する。

「はいはい、分かったから。俺は顧問ンとこ行ってくるから。とりあえずお前は寝ろよ」

涼の言葉を軽く流しパタン、と部屋を出て行った。



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