天邪鬼の猫。 | ナノ






(朝陽 side)



仮眠室のベッドに慎重に涼を寝かせる。すると涼はか細い声でごめん、と言うから俺は涼に気にするな、と言った。
横になったせいで目尻に溜まった涙がこめかみに向かって流れる。俺は涼の涙を両手で頬を包んで親指でそっと拭った。
涼は静かに目を閉じ死んでいるのかと思わせるほど静かに寝息1つ立てず眠り始めた。


仮眠室のすぐ隣は執務室だ。葉山凛の大声がこちらまで聞こえる。西園寺が余計なことを言うからああなるんだ。きっと今頃葉山が好き放題言いまくってるだろう。
葉山の大声で涼が起きたらどうするつもりだ。

だが…西園寺には驚かされるばかりだ。弱弱しい声を出したと思えば凄まじい気迫で場を沈める。終いには自分が涼を介抱したいはずなのに俺に仮眠室へ運ばせて自分はめんどくさい奴らの相手をする。一体何がしたいんだアイツは。

西園寺に借りを作るのは気に食わない。一度執務室に戻って風紀委員長として一言あいつ等に忠告してやらねば。
俺は涼が眠ったのを再度確認するとベッドから立ち上がり執務室へ向かう。

…向かおうとしたのだが涼が俺の制服の裾を寝ながらぎゅっと握っている。

全く、と思いつつも寝ながら俺を煽る涼の仕草がある意味憎らしい。こっちは理性を保つのに必死だと言うのに。
俺はまた涼の眠るベッドに音を立てないようゆっくりと腰掛けそっと涼の前髪を梳いた。


少しだけなら…いいだろうか…。


涼の薄紫の生気を失った唇に今にも俺の唇が触れそうな距離にまで顔を近づける。…無理はするなと今日の朝言ったばかりなのに結果がこれじゃないか。

夏休みの半分以上俺は実家へ帰っていたが涼は一日も帰っていない。それどころか生徒会室と自室の往復の毎日だったと言う。倒れて当たり前だ。


「涼―――」

まさに唇に触れる、といった時だ。


「…ん…篠…」

寝言だろう。そう呟いて身じろいだ。



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