天邪鬼の猫。 | ナノ
3
(no side)
「涼…っ」
焦りと不安の感情がその声には含まれていてこんな震えた西園寺の声は初めて聞く、と朝陽は涼を自分の体に凭れさせながら背中を擦る手を一瞬止めてそう思った。それぐらい、驚いた。この男にもこんな声が出せるのか、と。
「涼、大丈夫か」
「あさ、ひ…」
朝陽の胸の中で今にも掻き消えそうなか細い声でそう呟く。
朝陽のワイシャツが涼の涙で少し濡れている。
「久代、涼を運べ。仮眠室に連れて行く」
「…分かった」
篠は未だ震える声でそう言った。元々涼の背中を擦っていた右手を朝陽は首に、左手を涼の膝裏に回してひょいと効果音が付きそうなぐらい軽々と持ち上げた。
涼は朝陽の胸に未だ凭れたままで顔面蒼白の状態であった。普段ヘラヘラと笑顔を貼り付けてた顔は全体的に真っ青でふっくらとした唇は薄紫色に染まっていた。朝陽の首に手を回す力がないのか、抱え上げられた涼の右腕はだらんとだらしなく垂れていた。
「篠ー!!遊びに来たぞー!!」
ちょうどそのとき、執務室の扉がばんと荒々しく開けられる。葉山凛だ。
凛の後ろには当然のように副会長や書記の双子、一匹狼で知られる新条やバスケ部エースの古畑がいた。
「おい!涼!俺が来たのに何で寝てんだよっ!!一緒に遊ぼうぜ!!」
凛は朝陽に抱えられた涼の傍まで近寄ると耳元でそう叫んだ。その様子に何事だ、と副会長達も涼の傍までやってくる。
「起きろよ涼!!無視するなんて最低だぞっ!!」
「…りん…くん…?」
「そうだ!俺だぞ!!早く起きろよ!朝陽も涼を甘やかすな!下ろせよ!!」
やっと思いで言葉を発した涼に怒号を浴びせる凛。
「―――凛、」
「篠も涼に言ってやれよな!全く…っ!」
篠のいつもより数倍低い声と鋭い眼光が凛を射抜く。
「今は、涼に近づくな」
ごく、と誰かの固唾を呑む音だけが生徒会室内に響いた。
- 101 -
[ prev * next ]
栞を挟む