天邪鬼の猫。 | ナノ
12
(side 篠)
「涼に会いに来た」
全てを見透かしたような目で俺を見下すように言うコイツ、…久代朝陽はンっとに気に食わねェ。
「帰りやがれ」
「何故お前にそんなことを言われなくてはならない」
「お前に涼はやらねェ」
久代は組んでいた腕を外し歩を進めて俺との距離を縮める。俺の目の前に立ち、ほぼ同じ高さで目を合わせる。
「ふざけるなよ。どこぞの猿に惚れたと抜かし涼を泣かしておきながら今更、涼はやらないだと?涼はお前の玩具じゃないんだぞ」
「玩具だなんて思ったことはねェ!!」
「じゃあ何故もっと涼のことを大事にしなかったんだ!!」
久代は俺の胸倉を掴んでそう叫ぶ。
「今更お前が涼に何を言うつもりだ!!どれだけ涼が傷ついたかもしらないで!!」
「黙れ!!涼のことは俺が一番――…ッ」
言葉が詰まる。一番、知ってる?それとも好き?
俺にはこの言葉の先を続けることができなかった。今の俺がこの言葉の先を続けてはいけないんだ。俺には久代の俺を冷たく射抜く真っ直ぐとした目と合わせながら言葉の続きを言える自信がなかった。
「己が傷つくことを恐れて涼を傷つけるお前に涼を好きだと言う資格はない」
久代は荒々しく俺の胸倉を投げるように離してそう言った。…気に食わないが久代が正しい。
凛にも覚えなかった感情を涼には覚える。こんな気持ちは初めてなんだ。だから、どうすればいいのか分からない。確かに俺は凛のことが好きなはず。一緒にいるのが楽しかったし、同じ男だが可愛いとさえ思った。だがそんな感情は涼を前にすると一瞬で何処かへ消え去るんだ。涼が他の奴のことを考えるだけで、他の奴の名を呼ぶだけで、悔しくなって俺のものにしたくなるし、嫌われたくねェと手放したくねェと思う。この感情が人を愛するということなら、俺は涼を愛してる。プラチナブロンドのサラサラの髪も、筋の通った鼻も、真っ黒のビー玉みたいに真ん丸い目も、よく嘘をつくあの口も、俺が思ってたよりもずっと小さいその手も、涼の全てが愛しい。
しかし、俺にはそれを言葉にする資格がない。自分のエゴで涼を傷つけすぎたんだ。
- 92 -
[ prev * next ]
栞を挟む