天邪鬼の猫。 | ナノ
11
(side 篠)
『篠のこと!だいっ嫌いだから絶対向かない!』
頭を鈍器で殴られた気がした。
なんでこんなに俺はショック受けてるんだ。…気のせいだと思いたい。俺の胸の中にいた涼は震えるその手で俺の腕を振り払い部屋へ逃げるように駆け出して走りさって行ってしまった。
涼の体温が虚しく俺の胸の中に残る。…俺は何度、同じことを繰り返すつもりなんだろうか。
凛と初めて会って俺から凛にキスをして涼が俺のことを見てくれなかったあのとき。
歓迎会のあの日、無理強いをして自分勝手に涼を傷つけて置き去りにしたとき。
風紀の野郎と一緒に居る所を見る度、涼があいつの名前を呼ぶ度、俺はどうしようもない喪失感に苛まれる。
本当に大切なものは失ってから気がつく、なんて言葉はドラマの中の話だと思ってた。
「ああ、クソッ」
ガンッ、と力任せに丈夫で豪華な装飾が施された壁を殴るとへこんだ。拳が痛ェ。血が出てきやがった。…今の俺、カッコ悪ィなクソ。
もし、この俺が今更この気持ちに従うとして、涼はこの俺をどう思うんだろうか。
呆れて笑うか、ふざけるなと罵るか、それともあの何も灯さない表情でまた俺を見つめるか。
いずれにしろ俺を嫌うのは確かだな。
涼に嫌われると思うと体が竦んで手が震えて呼吸の仕方さえ分からなくなる。
この感情は以前感じたあのモヤモヤの正体か。涼を無理矢理抱いても消えなかった俺の心の中を支配するあの感情か。
これが――と言うことなのか。
「無様だな、西園寺」
突然、後ろから俺の名を呼び侮辱する声がする。振り返れば俺の中で一番気に食わない奴が腕を組み此方を睨んでいた。その様子にただでさえイラついていた俺は更に気分が悪くなる。
「チッ…テメェがなんで此処にいる、久代朝陽」
自分でも驚くほど普段よりかなり低い声が出た。
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