天邪鬼の猫。 | ナノ
9
(side 篠)
「…仕事終わったから部屋に帰るとちゅー」
「なんでこっち向いて喋らねェんだ」
部屋でずっと生徒会の仕事を片付けていた俺に凛から電話が掛かってきて生徒会室にいるから篠も来いよ、と誘われて山のように聳える未完成の仕事が大量に残っていたが俺はああ、行く。と二つ返事。
仕事をキリのいいとこまで終わらせ部屋を出る。すると俺の前を歩く涼が髪をびしょ濡れにして書類片手に歩いていた。…凛がいるから生徒会室を出てきたんだろうか。でもなんで濡れてんだ?
数時間前か、涼にキスしたせいもあって少し話しかけづらかったが今ここにいるのは涼と俺だけだから別にいいだろ、と話しかけて今に至る。
「…かいちょーには関係ないじゃん」
普段の俺ならこの台詞にきっとイラついて涼のことを無視して生徒会室にさっさと足を運ぶだろう。それができなかったのは涼の書類を持つ手と今にも消え入りそうな鈴の音のような声が震えていたからだ。
「…泣いてんのか」
「俺が泣くとでも思ってんの」
いつになく突っかかるな。今の涼はどうやら不機嫌らしい。こいつは人に八つ当たるような真似はあまりしないが今は例外のようだ。
「泣いてんだろ。おら、こっち向け」
「絶対、向かない。かいちょーなんかどっか行っちゃえ」
「…髪はなんで濡れてんだ」
「水溜りに落ちた」
「ここは屋内で水溜りなんかねェし今日は雨も降ってねェぞ」
「俺の頭の上だけに雨が降ったんだよ」
「降るか」
涼はこうまでしても俺の方を向きたくないらしい。
クソ、キスのこと根に持ってんのか。そんなに嫌だったのかよ。…こうなったら意地だ。涼がこっち向くまで俺は涼の傍から離れねェぞ。生徒会室にも行かねェかんな。ぜってェ涼から離れねェ。
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