小説 | ナノ



01
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むかしむかし、あるところに小さな兄妹がいました……









〜十数年前〜





星がきれいに輝く夜空の下

一人の少女が外に出て、空を見上げていた



「あ!ながれぼし!!」



一筋の光が空を横切る

光が消えてから少女はハッとした



「お願いごと、しないじゃった…」



力なくうなだれるが、気を取り直して次の流れ星を待つ



「ユリア〜、何してんだ?」


「っおにいちゃん!」



夜空を見上げていた少女、ユリアは後ろから近づいてきた兄、ザックスを振り返る



ザックス:「ほら、風邪引くぞ?」



そう言って手に持っていた毛布でユリアを包む

と、ユリアはザックスの袖を引っ張りながら上を指差した



ユリア:「おにいちゃん、みてみて!お星さまー!」


ザックス:「お、きれいだな〜」



二人揃って空を見上げる

すると、再び流れ星が見えた



ユリア:「あ!」



ユリアは手を組み、目を瞑る

それをザックスは頬笑みながら見守った



ザックス:「何お願いしたんだ?」


ユリア:「ん〜?あしたお天気になりますようにって♪」



にこやかに答えるユリアに肩を落とす



ザックス:「夢無ぇなぁ…」



その呟きが聞こえたらしく、ユリアは不満そうな顔をした



ユリア:「え〜!?じゃあ、おにいちゃんだったらなんてお願いするの?」


ザックス:「そうだな〜…。俺だったら───」












二人の兄妹の故郷、ゴンガガ

とても平和で閑かな村だった

村人達は、二人の兄妹が一緒に遊んでいる姿をいつも笑顔で見ていた

しかし数年後、その兄妹は急に村を出ていってしまった

兄はソルジャーになるため
妹は兄の傍にいるため


二人は仲良く手を繋ぎ、ミッドガルへ向かった


ザックスは13歳、ユリアは8歳だった














−神羅ビル内−


「じゃあ、君はこっちへ。お嬢ちゃんはそこで待ってな」


ザックス:「ユリア、いい子で待ってるんだぞ?」


ユリア:「うんっ!」



力強く頷き、ザックスを見送る

エレベーターが上昇したのを確認すると、ユリアは2階の椅子に腰掛けた



ユリア:「おにいちゃん、ソルジャーになれるかな?」



ぽつり、と呟いた言葉は大きかったらしく、近くを歩いていた人物の耳にも入っていた



「お前の兄ちゃん、ソルジャーになるのか?、と」


ユリア:「?」



ふと顔を上げると、赤毛の男が視界に映った

男はしゃがみ、ユリアと目線を合わせる



レノ:「俺の名前はレノ。お前は?」


ユリア:「あたしは…ユリア」


レノ:「ユリア、か。兄ちゃんはソルジャーになるんだろ?、と」


ユリア:「うん!“えいゆう”になりたいんだって」


レノ:「じゃあ、ユリアは何になるんだ?」


ユリア:「え?」



キョトンと首を傾げるユリア

レノはハッとし、まさか…と顔を引きつらせた



レノ:「まさか…一緒に来ただけ、とか言わないよな?」


ユリア:「うん!おにいちゃんと一緒に来たの」



間違いない……

こいつ、自分の兄ちゃんについてきただけだ

ソルジャーになるための訓練にガキはいらないし、神羅にとっても必要ない

早いとこ帰したほうがいいな…

レノは立ち上がると、ユリアの腕を引っ張った



ユリア:「なに?」


レノ:「お前は家に帰った方がいいぞ、と」


ユリア:「お家……?」



───お家帰りたい、とか言わないか?

───うんっ



ここに来る前に交わした約束

ユリアは思い切り腕を振り回した



レノ:「っな…!?」


ユリア:「いや!!お家には帰んない!」


レノ:「お前らまさか…家出か!?」


ユリア:「ちがう!おにいちゃんと約束したの!はなしてよー!!」



既に半泣き状態のユリアはレノの手をバシバシ叩く

が、レノはユリアの腕を離さなかった



レノ:「ユリアの兄ちゃんがソルジャーになったらお前と遊んでる暇はない。一緒にいられなくなるんだぞ、と。邪魔になるだけだ」


ユリア:「…うっ、……うわぁああぁあぁんっ!!!!」


レノ:「げっ!!」



とうとう泣きだしたユリアに慌てふためくレノ

ここはかなり人目につくロビー

通りすがりの社員がチラ見しながら足早に去っていく

中にはヒソヒソと話し始める者もいた



レノ:「あー、くそっ!これだからガキは…」



頭を掻きむしり、どうしたものかと悩んでいる時だった



ツォン:「何の騒ぎだ?」


レノ:「っツォンさん!!」



助かったと言わんばかりの表情でツォンにユリアを引き渡す



レノ:「こいつ、家に帰らないって言い張るんですよ、と。どうにかして下さい!」


ユリア:「うあぁぁあぁんっ!!!!おに、ちゃ…!」


ツォン:「“お兄ちゃん”?」


レノ:「ソルジャー志望に来た兄貴がいるみたいです、と」


ツォン:「なるほどな…」



ツォンはユリアの目線と同じになるように片膝をつく



ツォン:「お兄さんと一緒に来たのか?」


ユリア:「っうん…」


ツォン:「お兄さんはこれからたくさん訓練して強くならなければいけない。分かるか?」


ユリア:「でも、でも…っ!あたしもっ、一緒にいたい!!」


レノ:「だーかーらー、さっきも言った通り
ユリア:「おにいちゃんが、強くなるなら…あたしも強くなるっ……」



嗚咽混じりでも必死に伝えようとするユリア

目を擦りながら、ただ想いのままに叫ぶ



ユリア:「頑張るもんっ!あたし、だって…強くなりたいっ!!」


ツォン:「本当に頑張れるのか?」


ユリア:「うんっ!」



迷いのない返事

それにはツォンもレノも驚いた



ヴェルド:「いい返事だ」


「「主任っ!?」」



ヴェルドはユリアに近寄り、そっと頭を撫でた

ユリアは不思議そうにヴェルドを見上げる

ヴェルドは頬笑みながら言った



ヴェルド:「タークスに来ないか?」


ユリア:「タークス…?」


レノ:「ちょ…、主任!?何考えてんですか!、と」



慌てて突っ込むレノにヴェルドは至って冷静だった



ヴェルド:「今、タークスは人手不足だ。少しでも人員を確保した方がいいだろう?」


ツォン:「し、しかし…それとこれとでは話が
ヴェルド:「それに、仲の良い兄妹を引き離すのはあまりにも酷だと思わないか?」



ツォンもレノも言葉に詰まる

ヴェルドはユリアの肩に手を置くと再び頬笑んだ



ヴェルド:「タークスに興味はあるか?」


ユリア:「うん。今、聞いたばっかりだけど…」


ヴェルド:「それでもいい。まぁ、説明より体験した方がいいだろう。来なさい」



そう言ってユリアの手を引き、歩いていく

その後を慌てて追うツォンとレノ

ヴェルドが向かったのは射撃練習場だった

普段は一般兵の訓練に使われているが、たまにタークスも使っているらしい



ヴェルド:「そういえば、君の名前は?」


ユリア:「ユリア!……です!」



年上には敬語を使え、と両親に言われたのを今頃思い出した

さっきの人たちに敬語使わないじゃった…



ヴェルド:「では、ユリア。これで撃ってみろ」



そう言ってユリアに拳銃を持たせる



レノ:「主任、こいつに銃は…」


ヴェルド:「安心しろ。ペイント弾だ」



ユリアは不思議そうに銃を見ていたが、おもむろに的である人形に向かって構えた

その姿はまさに狙撃者そのものだった



ツォン:「ユリア。銃を使った事があるのか?」


ユリア:「うぅん。水鉄砲ぐらいだよ?」



にこやかに答えるユリアをツォンはまじまじと見つめた

まだ十歳になるかならないかの少女が、こんな綺麗に構えられるのだろうか…

腕を組むツォンの隣でレノも真剣にユリアを見ていた



ヴェルド:「私が指示したところを狙え」


ユリア:「はいっ!」



射程距離はおよそ10メートル

ユリアは黙って構えた



ヴェルド:「……左膝」



(───パァン!!)



人形の左膝に赤い塗料が付く



ヴェルド:「次。右手」



(パァンッ!!)



続けて右手も赤く染まる



ヴェルド:「左脇腹」


「右肩」


「左肘」



次々に撃たれるペイント弾

それがヴェルドの指定したところを正確に染める



レノ:「………へぇ。なかなかやりますね、と」


ツォン:「そうだな…」



さっきまでギャーギャー泣いてたくせに、とレノが付け足すとツォンは苦笑いした



ヴェルド:「次は……頭だ」


レノ:「!?」



(パァン!!)



ヴェルド:「最後。左胸」



(パァン!!)



2発とも迷うことなく撃たれ、寸分狂わず命中していた



ツォン:「…子どもは恐ろしいな」


レノ:「恐ろしすぎますよ、と…。人間だったら即死っスよ?」


ヴェルド:「純粋な子どもほど怖いものは無いと言うが、これほどとはな…」



ヴェルドは頬笑み、ユリアの頭を撫でた



ヴェルド:「実戦が楽しみだな」



ユリアは軽く首を傾げたがヴェルドは構わず話続ける



ヴェルド:「今日からお前はタークスだ。明日から頼むぞ?」



その言葉にユリアの瞳が輝いた



ユリア:「はいっ!!がんばります!」



ヴェルドはツォンに手続きをさせるように言って去っていった



ツォン:「手続きはこちらでやっておこう。ユリアはルードに会ってこい」


ユリア:「ルード?」


レノ:「俺の相棒だぞ、と」



相棒?と再び不思議そうな顔をするユリア

レノは軽くため息を吐き、こっちだ、とユリアを仕事場へ連れていった


















レノ:「よう、相棒。働いてるか〜?」



意気揚々と職場の扉を開くと、スキンヘッドにグラサンの男が振り向いた



ルード:「…レノか。今までどこに行ってたんだ?」


レノ:「ふっふっふ……驚け、ルード!新入社員だぞ、と!!」



そう言ってユリアを前に押し出す

ユリアはルードを、ルードはユリアを凝視した



ユリア:「こんにちは、相棒!」


ルード:「…お前の名前は?」


ユリア:「……ユリア」



あいさつも返して貰えず、上から見下ろされる視線に少し怯えるユリア

それに気付いたのか、ルードは軽く頬笑んだ



ルード:「俺はルードだ。…よろしく」


ユリア:「っ!よ、よろしくおねがいします!!」



深々と頭を下げるユリアにレノは面白くなさげに呟く



レノ:「なんだよ。俺とルードじゃ態度が違うぞ、と」


ユリア:「だ、だって……レノの時は敬語忘れちゃって…」



口籠もるユリアにルードはいつも通りの表情で口を開いた



ルード:「だったら俺にも敬語は必要ない」


ユリア:「え?」


ルード:「その方が話しやすいんだろ?」


ユリア:「……うんっ!」



満面の笑みで頷くユリアにレノもルードも無意識に頬が緩んだ



レノ:「ま、今のところはこんなモンだ。もうすぐ募集も始まるし、仲間も増えるぞ、と」


ユリア:「仲間……」


レノ:「あ。お前の部屋は
(ピンポンパンポーン…)



突然鳴り響いた社内アナウンスにスピーカーを見上げる一同



《迷子のお知らせを致します。8歳の少女、ユリア様をお兄様がお待ちです。見かけた方は至急1階受付け前までお連れ下さい。繰り返します……》



ユリア:「あたし、迷子?」



キョトン、としたままこちらを見上げるユリア

レノは面倒臭そうに頭を掻いた



レノ:「あー…とりあえず、お前の兄ちゃんがお前を探してるんだぞ、と」


ユリア:「おにいちゃんが!?」



それを聞くや否や部屋を飛び出すユリア

レノは慌てて後を追った



レノ:「おい!受付けがどこにあるのか分かるのか?」


ユリア:「わかるよ!あたし、知ってるもん!」


レノ:「覚えてる、のか?」


ユリア:「うんっ」



早足でエレベーターに近付き、ボタンを押す



レノ:「なんでそんなに急いでるんだよ、と」


ユリア:「だって、おにいちゃんが待ってるんだもん。はやくはやく!」



地団駄を踏み、ソワソワするユリアを横目にレノは不機嫌そうな顔をした



レノ:「どうして主任はこいつをタークスに入れたんだ?、と」


ユリア:「ん?」



独り言のつもりが聞こえていたらしく、振り向くユリア

と、そこへ丁度よくエレベーターが到着した



レノ:「じゃあな。気を付けて行けよ、と」



さっさと背を向け、立ち去るレノ



ユリア:「レノ!!」



声を掛けられ振り返ると、エレベーターに乗ったユリアが笑顔で手を振っていた



ユリア:「ばいばい!またあしたね!!」


レノ:「……おう」



軽く笑い返せば、満足そうな顔をしてドアを閉める

それを見送ったレノの心情はさっきとは打って変わって穏やかなものだった













ユリア:「うけつけ…うけつけ…」



小走りに目的地に向かうと、そこには軽く人だかりができていた



ザックス:「なぁ、そいつの特徴は!?」


社員:「え、えっと…赤毛の若い男で…」


ザックス:「男!?」



どうやら中心にいるのはザックスらしい

ユリアは大の大人を掻き分けて中心に近づいた



ザックス:「っくそ!ユリアに何かあったら…」
ユリア:「おにいちゃん!」



服の袖を思い切り引っ張る

反動でザックスはコケそうになるが、持ち前の運動神経で何とか体勢を保った



ザックス:「っと!…ユリア!!」


ユリア:「ただいま〜!」



ニコッと笑えば、今まで険しかったザックスの表情も一気に和らぐ



ザックス:「ったく、どこ行ってたんだ?」


ユリア:「んっとね、タークス!」


ザックス:「タークス?」



首を傾げているザックスのまわりで社員がざわめく



「タークスって…総務部調査課?」


「あの汚れ役だろ?」


「どうしてこの子が…」



理解できない、といった表情でユリアを見つめる人々

それでもユリアは構わずに喋り続ける



ユリア:「あたしね、明日からそこでおしごとするの!」


ザックス:「…でも、どうして働こうと思ったんだ?働くのは兄ちゃんだけでも十分なんだぞ?」



経済面の心配をしていると思ったらしく、真面目な顔で覗き込んでくる



ユリア:「あたしもおにいちゃんみたいに強くなりたいの!おにいちゃんといっしょにいたいの!」


ザックス:「ユリア…っ」



口を押さえ、涙をこらえるザックス(13)

まわりは『なんだ?こいつ』みたいな視線を容赦なく浴びせる

が、ザックスは気にしない



ザックス:「よし、今日は早く寝ような。明日は俺も体力調査したりで忙しいんだ」


ユリア:「うん!あたしもね〜……」



二人手をつなぎ、仲良くエレベーターに乗り込む

その時のザックスの様子はどこの誰が見ても、シスコンでしかなかった













通路を進み、一つのドアの前で立ち止まる

ドアにカードキーを差し込み、そのまま開けた



ザックス:「ほら。今日からここが俺とユリアの家だ」


ユリア:「うわぁ〜!すごい!!」



ソルジャーなだけあってかそれ相応の待遇といえる部屋だった



ザックス:「俺はさっき見たけど、ホントに広いぜ?部屋もちゃんと二つある!」



リビングを中心に左に一つ、右に一つドアがある

ドアは既に開いており、ユリアは左側の部屋の中を覗いた



ユリア:「おにいちゃん、もうベッドが置いてあるよ!わ、ぬいぐるみも!!」


ザックス:「へ〜、神羅ってサービスいいんだな…」


ユリア:「じゃあ、今日からこっちのお部屋はあたしので、おにいちゃんのはあっち?」


ザックス:「あぁ。寂しくなったらいつでも来ていいからな?」


ユリア:「うんっ。でも…ひとりで大丈夫なようにがんばる!」



笑顔でガッツポーズをつくるユリアを見て、ザックスは軽くうなだれた



ザックス:「そっか…。ユリアももう大人なんだな…」


ユリア:「……おにいちゃん、さみしい?」


ザックス:「うん、ちょっとね」



未だ妹離れができてない兄

うっすらと涙目になりながらユリアを見つめる

その視線に8歳児ながらも何かを感じたユリアはひょこひょことザックスに近づいた



ユリア:「今日は、おにいちゃんと寝るー!」


ザックス:「マジで!?いやぁ、やっぱユリアに自立は早いよな!」


ユリア:「なに〜?」


ザックス:「何でもない!うしっ、今日は昔話聞かせてやるからな!」


ユリア:「やった〜♪」










仲のいい兄妹、

ザックスとユリア



この日から2人の運命は悲劇へと向かっていった…





01 -終-


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