小説 | ナノ



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『おかけになった電話は現在、電波の届かないところにあるか、電源が入っていないため、かかりません。もう一度…』



そこまで聞いて電話を切る

これで何度目だろうか

繋がるわけのない番号に電話をして、何かを期待している

それは淡く、薄い期待



(ヴー…、ヴー…)



今度は自分の携帯が鳴る

画面を見ると“ティファ”の文字

ゆっくりと携帯を閉じ、ポケットにしまった

やがて振動も止み、あたりも静まり返る

もともと静かな場所なだけにどこか淋しさを感じた




(ドクン、)




鋭い痛みが左腕に走る

幸い、痛みは一瞬で引いたので安堵の息を吐いた


ふと、空を見上げる

吸い込まれそうなほどに青く澄んだきれいな空

このまま吸い込まれたら、消えてなくなれるだろうか…



クラウド:「…どうすれば、許してくれるんだ?」



誰に言うでもなく呟いた言葉

自分の無力さで失った友達、仲間、恋人…

目の前で奪われた命は今も脳裏に焼き付いている

そして、自ら旅立った命も…

再び携帯を取り出してリダイヤルを押す

唯一知っている、彼女との…ユリアとの繋がり



『おかけになった電話は現在、電波の届かない…』


クラウド:「………っ、」



携帯を握り締めて俯く

繋がるはずがない

…もう、ユリアは……





















ユリア:「ただいまっ」


レノ:「おぉ、早かったな」



買い物から帰るとレノが笑顔で出迎えてくれた

どうやら今はレノしかいないらしい

二人きりになる事など滅多にないので何だか落ち着かない…

素早く自室へ向かおうとしたが、途中でレノに呼び止められた



レノ:「ユリア」


ユリア:「え!?」


レノ:「大事な話がある」



そう言って自分が座っているソファをポンポンと叩く

しぶしぶソファに腰掛けるとレノの眉間に皺が寄った



レノ:「なんでそんなに離れるんだよ、と」


ユリア:「いや…何となく?」


レノ:「何恥ずかしがってんだっつの」



ケラケラ笑うレノに少し腹が立ち、レノの真横に座り直す



ユリア:「これで満足?」


レノ:「あぁ。そんな怒んなって」



優しく頭を撫でられ、怒りも消えていく

と、レノが静かに口を開いた



レノ:「ユリア、約束…覚えてるか?」


ユリア:「約束?…2年前の?」



“世界が平和になって、全てが終わったら結婚してほしい”

忘れるわけがない…

でも、それがどうかしたのだろうか?



レノ:「まだ平和じゃないし、全てが終わったわけでもない。だからこれは…予約な?」



そう言ってユリアの左手をとる

指に冷たい感触が伝わり、目を向けると…薬指に輝くものがあった



ユリア:「これ…って…」


レノ:「まぁ、その…婚約指輪ってやつ、だな」



呆然と指輪を見つめるユリアだが、大事そうに左手を包んだ



ユリア:「ありがとう、レノ…」


レノ:「あぁ。…ユリア、」


ユリア:「ん?、わ…」



頬に温もりと柔らかいものを感じ、慌ててレノを見上げると、してやったりという表情だ



ユリア:「…レノのバカっ」


レノ:「ははは、照れんなよ、と」


ユリア:「うるっさい!!」



静かだった室内はユリアとレノの喧騒で一気に賑やかになった


同じ時の中、相反する想いの二人が同じ罪の意識を持って存在する


そして、運命は
二人を引き寄せる…





00 終


09.10.31

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