小説 | ナノ



15
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・



……あれ?ここ、どこ?


───ライフストリームの中だよ


そうだ。あたし、落ちたんだよね


───そうそう。みぃんなバラバラに落ちてったんだよ?


ティファも……クラウドも?


───てぃふぁ?だぁれ?それ


え?一緒に落ちてきたでしょ?


───わかんなぁい!


そう…………


───…うそつき


……え?


───そうよ!嘘吐きよ!!


ま、待って!あたしがいつ嘘なんか吐いたの?


───可哀相な彼。混乱しすぎて壊れちゃったのよ?


クラウド…のこと?


───ねぇねぇ、どうしてないしょにしてたの?


それは………っ


───言えないんだ!!やっぱりただの嘘つきだよ!

───嘘つき!

───可哀相な彼…

───最低!!


違う!あたしは…あたしは……!!


───嘘吐きよ!
───ひどい人ね!
───さいてー!!
───ひどーい!ひどーい!


やめて…!!いや……!

ユリア:「いやぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!」



───ユリア!


あ………、お…に────











ティファ:「ほら……クラウド。給水塔がある……。おじいさんの宿屋もあるね。村で1台きりのトラック。私達が子供の頃からここにあったんだよね?これがあなたの記憶の中のニブルヘイムなのね?」



ティファが流れ着いたのは、クラウドの記憶と意識の世界

本当の自分を取り戻そうとしている彼に、ティファは真実に向き合う決意をしたのだ

そして、クラウドと共に5年前の記憶を辿り始めている



ティファ:「私のニブルヘイムと同じ。だからここは……私達のニブルヘイムだね」



その言葉にクラウドの精神が現れる



ティファ:「5年前…ここに二人のソルジャーがやって来た……。セフィロスと……若くて陽気なソルジャー。その時の様子…もう一度教えて?」



すると、当時の様子が再現された



セフィロス:「どんな気持ちなんだ?久しぶりの故郷なんだろ?」


ティファ:「5年前……私はこの時初めて本物のセフィロスを見た」


セフィロス:「どんな気分がするものなんだ?俺には故郷がないから分からないんだ……」


クラウド:「えぇと……両親は?」



ティファ:「この人が…英雄セフィ
セフィロス:「母の名はジェノバ。
ロス。クラウドが憧れていた最高
俺を生んですぐに死んだ。父は…
のソルジャー、セフィロス。でも
……」
ね、正直に言うと…なんて冷たそ
セフィロス:「……俺は何を話して
うな人って思ったの」
るんだ…」


セフィロス:「さぁ、行こうか」



ティファ:「嫌な予感がしたの、覚えてるわ」



クラウドの精神は記憶の中のクラウドに入り込む

しかしティファは首を横に振った



ティファ:「違うの、クラウド。言葉にすると……恐ろしいことになりそうでずっと隠してた。でも、今は隠さずに言うね」




気付くと、セフィロスと兵士2人が消えていた



ティファ:「あなたはいなかった。クラウド、5年前、あなたはニブルヘイムには来なかったのよ」



クラウドは俯く



ティファ:「私……待ってたのよ。でも、クラウドは……来なかった。あの時派遣されてきたのはセフィロスともう1人……」


セフィロス:「さぁ、行こうか」



先を歩くセフィロスの後ろをついていく神羅兵2人

さらにその後を追うのは、

黒髪の青年だった…









───なぁ。お前、ここにいていいのか?


だって……2人がどこにいるのか…


───クラウドとティファは今、真実を探してる。お前は手伝ってやらないのか?


…………っ……、


───ユリア?


……姿を…見せてよ……


───…それ、俺に言ってる?


他に誰がいるのよ!…お願い、姿を見せて?

    お兄ちゃん!













ティファ:「そういえば、クラウドはどうしてソルジャーになりたいって考えたの?私には、あなたが突然決心したように思えたんだけど……」


クラウド『……悔しかった。……認めてほしかったんだ』
「強くなれば認めてもらえる、きっと……」


ティファ:「認めてほしい……?…誰に?」


クラウド『……誰に、だって?……分かるだろ?……ティファに……だよ』
「ティファに………じゃない」


ティファ:「……え?」


クラウド:「俺は……………」



















どこからか近づく足音

まわりを見回しても辺りは真っ暗で人の姿なんてない

まぁ、ライフストリームの中だからね…



「ユリア」



名前を呼ばれて振り返る

そこには会いたかった人の姿…



ユリア:「──お兄ちゃんっ!」












ティファ:「待って、クラウド。どこへ?どこへ行くの?」



再び5年前のニブルヘイムにやってきた2人

クラウドは足を止め、首を捻った



クラウド:「…魔晄炉……?」



今度は確信を持って頷く



クラウド:「魔晄炉へ!5年前の魔晄炉へ!」



そう言って駆け出すクラウド

ティファもその後を追い掛ける


魔晄炉に着くと、ティファがセフィロスに斬られたところだった

セフィロスはそのまま奥の部屋へと進む

と、そこに先程の黒髪の青年が現れ、ティファに駆け寄った



ティファ:「あっ!クラウドじゃない!」


クラウド:「ザッ…クス……ザック……ス…ザックス……」


ティファ:「思い出したのね!!」



セフィロスが入っていった部屋へ向かう黒髪の青年…──ザックス



ティファ:「そうなのよ!セフィロスとニブルヘイムに来たのはザックスだったの!…それじゃ、クラウドはどこにいたの?」



吹き飛ばされるザックス

機械に体を強かに打ち付けた



ティファ:「ねえ、クラウド。あなたは……これを見ていた?」


クラウド:「見て……いた……」



記憶の中のセフィロスが何者かに刺された



セフィロス:「ぐっ、……だ、誰だ」


「母さんを……ティファを……村を返せ…。あんたを尊敬していたのに……憧れていたのに…」




セフィロスはその場に倒れこんだ

セフィロスを刺した人物、神羅兵はヘルメットを外す



ティファ:「クラウド!?」



そこには神羅兵の制服に身を包んだクラウドが映っていた




ティファ:「そうだったんだ……。一緒に見てくれていたのね」



ティファは確信したように大きく頷いた



ティファ:「うん、覚えてる。そっか、あれがクラウドだったんだ」


クラウド:「あぁ」



静かに答えるクラウド

彼は、本当の自分を見つけだした



クラウド:「そう、これが俺だ。ソルジャーになりたかったのに…絶対になってやるって思ってたのに…恥ずかしくて誰にも会いたくなかった。俺は……」



記憶の中のクラウドがティファを通路脇に運ぶ



ティファ:「来てくれたのね。約束守ってくれたのね。ピンチの時は助けるって約束したものね」


クラウド:「ごめん、行くのが少し遅れた」


ティファ:「いいのよ、クラウド」




頬笑み合う二人



セフィロス:「お前ごときに…」



奥の部屋からヨロヨロと出てきたセフィロス

片手にはジェノバの首が握られている



ザックス:「クラウド……セフィロスに止めを……」



クラウドは頷き、出口に向かうセフィロスに背後から斬り掛かった



クラウド:「セフィロス!!」



しかし、その攻撃はいとも簡単に弾かれ、クラウドは腹部を貫かれた



クラウド:「っう……!!」


セフィロス:「図に…乗るな」




クラウドを貫いたまま、高々と刀を掲げる

と、クラウドの手がセフィロスの刀の刃を掴んだ



セフィロス:「そ…んな……バカな!?」



どうにか地に足を着き、クラウドは渾身の力を振り絞って刀ごとセフィロスを投げ飛ばす

セフィロスはそのまま魔晄炉に落ちていった

同時にクラウドも力尽きて倒れこむ

そこでクラウドの記憶は途絶えた


………と思っていた



ティファ:「!?ま、待って!これ……」



映し出されたのは、魔晄炉を調査する神羅の姿

その中には宝条率いる科学部門の面々、他にもツォンやタークスのメンバーがいる

タークスの中には見覚えのある少女がいた



ティファ:「この子って…」


クラウド:「タークスにいた時のユリア。この時は……13歳ぐらいだったかな?」



幼さのある顔、きちんと着こなされたスーツ、今はショートの髪の毛も当時は腰の辺りまである

その近くをザックスとクラウドが担架に乗せて運ばれて行く

ユリアは慌ててそれに駆け寄った



ユリア:「クラウド!!

   お兄ちゃん!!」


ティファ:「お兄ちゃん…!?」



ザックスが…ユリアのお兄さん!?

思わずクラウドの方を向く

クラウドは気まずそうに口を開いた



クラウド:「……ユリアは…正真正銘、ザックスの妹だ」
















ユリア:「お兄ちゃん……会いたかった…」


ザックス:「ああ、俺もだよ」



優しく頬笑むザックス

昔と変わらぬ笑顔にユリアは安心した



ザックス:「…ユリア。クラウドの事、手伝ってやれよ」


ユリア:「…………」


ザックス:「…思い出された後が怖いのか?」


ユリア:「……ティファはクラウドが好きだもん。クラウドはティファといた方がいいよ…」


ザックス:「ユリア……」



不安そうにユリアを見つめるザックス

と、ザックスの表情が真剣になった



ザックス:「クラウドがユリアを呼んでる…」


ユリア:「え……」



───ユリア…ユリア?



微かに聞こえた声

それは確かにクラウドのもの

でも、どうして……



ザックス:「行ってやれよ、ユリア」



軽く背中を叩かれる

ザックスは明るく頬笑んだ



ザックス:「ユリアなら大丈夫!どうにかなるって!」


ユリア:「でも…どうしてクラウドは……」

ザックス:「お前を必要としてるんだよ」


ユリア:「何言って………!!」



だんだんとザックスとの距離が開く

ザックスは笑顔で手を振っていた



ザックス:「頑張れよ〜!負けんな〜!!」


ユリア:「待って!まだ……」



聞きたい事があるの

言いたい事があるの

まだお兄ちゃんと一緒にいたい!!



ユリア:「お兄ちゃ…」



必死に手を伸ばす

が、すぐにその手は下ろされた



ユリア:「また……会えるよね?」


ザックス:「あぁ。必ず会える」



迷いのない言葉

ユリアは嬉しそうに頬笑み、暗闇の中へ吸い込まれていった













ティファ:「クラウドは…これを知ってたの?」


クラウド:「いや、今初めて見た」


ティファ:「なら、どうして昔のユリアを知ってるの?」



クラウドとユリアが知り合ったのは、神羅ビル内

なのに、5年前に互いを知ってる



ティファ:「それに、どうしてこんなにタークスが…」



何かの命令を受けたらしく、外へと向かうタークス

いったい、何が……



ユリア:「あたし達、ニブルヘイム事件を隠蔽したの」


ティファ:「ユリア!?」



突然聞こえてきた声

が、姿はどこにも見当たらない



ユリア:「だから…ニブルヘイムが元通りになってたのは、あたし達のせい。村人も何もかも変えてしまった……」


ティファ:「そんな…どうして?」


ユリア:「自分達に都合の悪いようなことは消す。それが神羅のやり方だから…」



どこか自嘲気味に聞こえるユリアの声

と、景色が変わり、クラウドの意識の世界に戻った

床に倒れているクラウドに慌てて駆け寄るティファ



クラウド:「うっ……ティファ…?」


ティファ:「クラウド!大丈夫?」


クラウド:「あぁ…なんとかな」



クラウドはゆっくりと体を起こし、辺りを見回す



クラウド:「…ユリアは?一緒じゃないのか?」


ティファ:「分からないの。声は聞こえるのに…」


クラウド:「ユリア……っ」



俺は、やっと思い出したんだ

自分の事も、ユリアの事も…



「ほんとに思いだしたの?」



突然目の前に現れた少女

何よりも驚いたのは、その少女がタークスの制服を着ていたことだった



ティファ:「もしかして……ユリア?」



おそるおそる話し掛けるティファ

すると少女は明るく笑った



ユリア:「うんっ。あたし、ユリア。ねぇ、いっしょに来て?」



唖然とする二人に構わず背を向けて歩きだす少女

我に返ったクラウドとティファは急いで後を追い掛けた

瞬間、二人の目の前は見たこともない風景に包まれた


狭い通路、そこを忙(せわ)しなく行き交う人々

どこかの建物内なのは分かるが、いったい………



ティファ:「ここは…?」



見覚えのない景色に戸惑うティファに対し、ユリアはニコニコと笑っている



ユリア:「ふふっ…さぁ、どこでしょーうか!」



さっぱり分からないという顔をするティファとは逆にクラウドは分かり切った風だった



クラウド:「ここは…神羅ビル内……」


ユリア:「ピンポーン!正解!!」



正面から少女が歩いてくる

その少女がユリアだという事はすぐに分かった



ユリア:「お、重い…」



両手に抱えられた大量の書類

あまりの重さにフラフラしながら曲がり角に差し掛かった



「うわっ!!」
ユリア:「きゃっ!?」




曲がった瞬間、見回り中の神羅兵に真正面からぶつかってしまった

その衝撃でユリアは床に尻餅をつき、書類は見事に床に散らばった



ユリア:「あ、ごめ「す、すみません!」…へ?」



ユリアが謝るより早く、ぶつかった神羅兵──…クラウドは謝った



クラウド:「怪我とか無いですか?っすみません、俺…ボーっとしてて……」



本当に申し訳なさそうに頭を下げるクラウドに、ユリアは吹き出した



ユリア:「ぷっ……」


クラウド:「?」


ユリア:「あはははっ!!ダメだ、笑っちゃう!」




突然ゲラゲラ笑いだしたユリアにクラウドは首を傾げた



ユリア:「ごめんごめん。…ねぇ、最近入社したでしょ?」


クラウド:「はい!先日入社して
ユリア:「やっぱりね」




最後まで聞き終わらないうちに言葉を遮る

どこか納得した表情のユリアはクラウドを見上げながら頬笑んだ



ユリア:「あたしのこと、知らないでしょ?」


クラウド:「えっと……すみません…」


ユリア:「気にしないで?それに、あたしに敬語なんか使わなくていいんだよ?」


クラウド:「でも、タークスは…」
ユリア:「タークスとか一般兵とか関係なし!あたし、縦社会って嫌いなの」


クラウド:「はぁ…」




未だ困惑気味のクラウドにユリアは苦笑いを浮かべた



ユリア:「あたし、あなたより年下だよ?」


クラウド:「……え!?」




目を見開いて驚くクラウド

どこか大人らしさを感じさせる彼女が自分より年下…?

信じられないとでも言うようにユリアを見つめる



ユリア:「いくらあたしがタークスでも年下に敬語なんてバカらしいでしょ?」


クラウド:「…………っ」


ユリア:「でも…ありがとう」


クラウド:「え?」


ユリア:「敬語なんて初めて〜!!」




神羅に入社して以来、いや、生まれて初めて敬語を使われた

ユリアに後輩はいるが、みんな年上なので先輩面も何もあったもんじゃない

けど、ユリアはそれが心地よかった



クラウド:「そうなん……だ」


ユリア:「うんっ。…あ、そうだ。あなたの名前
「おーい!!ユリア!」




どこからか声が聞こえた

ユリアは慌てて足元の書類を掻き集める



ユリア:「やっば、仕事中だった!!」



その慌てる姿がさっきまでの大人らしさとは違い、子供らしく見えるのにクラウドは頬笑んだ



ユリア:「また会えるといいね!」


クラウド:「あぁ、また会えるよ」




その言葉にユリアは少し照れ臭そうに笑った



ユリア:「えへへ……ばいば〜い!」



書類を抱え、廊下を走り去るユリアの後ろ姿を見送るクラウド



クラウド:「タークスのユリア、か」



その名前はクラウドの心の内に大事にしまわれた



ユリア:「これが、あたしとクラウドが初めて会った時のこと…だよね?」


クラウド:「………あぁ」


ティファ:「でも…2人は神羅ビルから脱走したってユリアが…」



クラウドとユリアが七番街の駅にいた時、確かに言っていた



───ボク達、神羅ビルから逃げてきたんだ。ま、ソルジャーとタークスが組めば最強だけどな!



ユリア:「ごめんね。あたし、ウソついたの」


ティファ:「なんでそんな事…」


ユリア:「だって!…だって…」



淋しさなのか怒りなのか、どちらともつかない感情に震えるユリアの声

ユリアは拳を握りしめた



ユリア:「クラウドが…約束わすれちゃうんだもんっ!」


ティファ:「約束?」


クラウド:「…………」



クラウドの表情が哀しげなものになる



ユリア:「でもその前に、ティファには話しとかなくちゃ…」



ユリアはティファに背を向け、俯いた

その背格好は先程よりいくらか成長している



ユリア:「あたしとクラウドは…付き合ってたんだ」


ティファ:「え……?」


ユリア:「だから、約束ができたんだと思う」





遡ること5年前…

彼らがニブルヘイムへ旅立つ直前だった



ユリア:「ニブルヘイム?」


ザックス:「ああ。ちょっと魔晄炉を調査してくるだけだ」


ユリア:「…ホントに、ちょっと?」


ザックス:「なんだぁ?ユリアはお兄ちゃんが心配か〜?」



くしゃり、と頭を撫でられ、ザックスを淋しそうに見つめるユリア



ユリア:「だって……」


ザックス:「まぁ、ジェネシスの事とかあるけど…心配すんなって。な?」


ユリア:「…………」



黙り込むユリアにザックスは苦笑いを浮かべる

と、フロアのドアが開き、クラウドが顔を覗かせた



クラウド:「ザックス、セフィロスさんが呼んでる」


ザックス:「ん。分かった」



そう言って部屋を出ていくザックス

その後ろ姿を目で追いながらクラウドを見ると彼もしっかり武装していた



ユリア:「クラウドも…行くの?」


クラウド:「あぁ…」


ユリア:「どのぐらい行っちゃうの?」


クラウド:「…分からない」


ユリア:「そっか……。気を付けてね?」


クラウド:「大丈夫だよ。自分の身ぐらい自分で守れる」



優しく頬笑むクラウドにユリアの心配も少し薄れた



ユリア:「でも、クラウドに会えないと淋しいなー…」



肩を落とすユリアにクラウドは事前に用意したものを取り出した



クラウド:「ユリア、手出して?」


ユリア:「ん?」



何気なく出した手の平の上に置かれた、紫色のマテリア



ユリア:「これは…?」


クラウド:「チョコボよせのマテリアだ。これで…俺といつでも一緒だ。会いたくなったら会える」


ユリア:「ぷっ……」


クラウド:「っ!!」


ユリア:「ご、ごめ…ふふふっ……だって、クラウドがチョコボ…!」



結構、真面目に言ったつもりだったのに笑われたクラウドは眉間に皺を寄せた



クラウド:「やっぱり返してくれ」


ユリア:「やだ!もらうっ!クラウドと一緒がいい!!」



クラウドに取られまいと素早くホルダーにマテリアをしまうと、ユリアは満面の笑みを向けた



ユリア:「ありがとね、クラウド」


クラウド:「っ!!……あぁ…」



口元を押さえ、目を逸らすクラウド

と、何かを決意したようにユリアの腕を掴んだ



ユリア:「クラウド?」


クラウド:「…本当は帰ってきてから言うつもりだったんだけど……」



クラウドは掴んでいる腕を引っ張り、ユリアの体を引き寄せた



ユリア:「クラウ、ド?」



クラウドの腕の中に納まっているユリアは、突然の事に顔を赤らめた



クラウド:「ユリア…」



ゆっくりと体を離し、ユリアを見る

が、視線が泳いでいる



クラウド:「あの、その……なんて言うか……」


ユリア:「?」


クラウド:「俺が任務から帰ってきたら…えーっと…」



話が読めず、首を傾げるユリア

クラウドは軽く深呼吸をし、再びユリアを見つめた



クラウド:「俺とっ!結婚、してくれないかな?」


ユリア:「……え!?」



突拍子もない言葉にユリアは目を見開いた



クラウド:「嫌、か?」


ユリア:「嫌じゃない、けど…」


クラウド:「“けど”?」


ユリア:「あたし達、まだ結婚できる年じゃないよ?あたしなんかあと3年経たなきゃ…」



それまでクラウドは待っていてくれるだろうか…

途中で自分なんかよりもっと素敵な人に出会ってしまったりしたら……

そんな気持ちが表情に出ていたのか、クラウドは優しくユリアの頭を撫でた



クラウド:「それは分かってる。ただ…俺にはユリアしかいないんだ。他の奴に取られるのが嫌なんだ…」


ユリア:「クラウド…」


クラウド:「だから俺は待つ。約束する。…ユリアは?俺でも、いいか?」



少し不安げにこちらを見やるクラウド

先程までの力強さはどこへやら、今ではクラウドが可愛く見える

なんて言ったら、怒るんだろうな

そんな事を思いながら、ユリアは大きく頷いた



ユリア:「うんっ!もちろんだよ!!」



ニコッ、と笑顔を見せればみるみる赤くなっていくクラウドの顔

と、ユリアの腰に腕が回された

何かと思って下を見ようとすると、顎を掴まれて上を向かされる

かなりの至近距離でクラウドと目が合った

徐々に近づくクラウドの顔

ユリアは流れに身を任せ、目を閉じた



ザックス:「クラウドー、そろそろ集合……って、何してんの?」


ユリア:「じ、銃磨いてんの!見て分かんない!?」


クラウド:「いいんだ…ザックスは悪くないよ……」



明らかに挙動不審な動きで銃を拭いているユリアと、壁に手をついて暗いオーラを纏っているクラウド

ザックスは直感的に、自分は何かを邪魔したんだと感じた



ザックス:「なんかよく分かんないけど…ごめん」



クラウドはもう一度、いいんだ、と言ってユリアに歩み寄った



クラウド:「…ごめん、行ってくる」


ユリア:「うん。気を付けてね!お兄ちゃんも!!」


ザックス:「分かってるって!」



クラウドとザックスは笑顔で部屋を後にした

ユリアはホルダーからクラウドがくれたマテリアを取り出す

クラウドといつでも一緒……

そう思うだけで嬉しくて、笑みが零れた

二人とも、すぐに帰ってくる

そう思っていた…


あの時は、誰も何も知らなかった

これから起きる事がどれほど重要で、どれほど大変で…

それがあたし達の運命も約束も狂わせるなんて思ってもみなかった……



ティファ:「そうだったんだ…」



少し俯き、目を伏せるティファ



ユリア:「クラウド、忘れてた…。約束も、マテリアの事も!」



コスモキャニオンに行く前、ユフィに盗られたマテリア…それがあの時の“チョコボよせ”

必死に追い掛けて行ったのに、クラウドは冷たい目で言った


───それに、大したマテリアでもないんだろ?


傷ついた……泣きそうだった…

でも、仕方ないよね?

忘れちゃってたんだから…



ユリア:「だからね、あたし…決めたの。あの約束は無かった事にしようって」


クラウド:「…っ!!」


ティファ:「でも、クラウドは思い出したのよ?…許してあげたら?」



少女のユリアに言い聞かせるように宥めるティファ

しかし、ユリアは首を横に振った



ユリア:「もう…決めてた。七番街に着いた時から……」














───────

ユリア:「クラウドだよな?…クラウド!よかった…無事だったんだな?」


クラウド:「う……だ、れだ…?」


ユリア:「え?」


クラウド:「お前は……誰だ?」


ユリア:「な、に…言ってんだよ……ユリアだよ!分かるだろ!?」


クラウド:「ユリア…?──っう…!!」


ユリア:「っクラウド!?」









クラウド:「どうして俺は…ここにいる?」


ユリア:「……ボク達は…神羅から逃げ出した。クラウドが困ってたところをボクが助けた。ボクはタークスを抜けてきた。…分かるか?」


クラウド:「神羅……脱走……タークス……」




……………………



クラウド:「俺は元ソルジャーだ。ユリアは元タークス」


ティファ:「そうなの?」


ユリア:「あ、あぁ…そうだったな…。クラウドは優秀なソルジャーだった」


ティファ:「凄いじゃない、クラウド!!…で、どうしてここに?」


ユリア:「ボク達、───…」


───────













クラウド:「ユリア…俺は……」


ユリア:「思い出してくれただけで嬉しいよ。ありがとう」


クラウド:「俺はお前が……」


ユリア:「あたしは…お兄ちゃんとの約束を守らなきゃ……」



すぅっ、とユリアの体が浮く

すると、少女の姿から今のユリアの姿に戻っていった



ユリア:「今まで、ごめんね」



本人は笑ったつもりかもしれないが、苦笑いになっている

そのままユリアの体は地上へと浮上し、やがて見えなくなった



クラウド:「ユリア…?」



立ち尽くし、ユリアが消えたところを見つめる

今の言葉の意味はいったい……



ティファ:「クラウド、私達も行こう!」



クラウドは頷き、ティファの隣に並ぶ

二人もユリアの後を追うように、地上へと浮上していった















ユリア:「だいぶ離れた所に飛ばされたな〜」



ユリアが立っているのは、ミディールから少し離れた海岸だった



ユリア:「ま、その方が好都合だけどね」



おもむろにポケットから携帯を取り出し、番号を押す

3コールしないうちに相手は電話に出た



ユリア:「あ、もしもし?ユリアだけ、ど……ちょ…うるっさい、バカ!!!!人の話聞きなさいよ!…あのね、今ミディールにいるの。うん。だから迎えに来て?よろしくね〜」



電話口から声がするが、半ば一方的に電話を切る

と、5分も経たないうちに迎えが現れた



レノ:「ったく。このヘリはタクシーじゃないぞ、と」


ユリア:「…知ってるよ」



ヘリに乗り込み、しっかりとシートベルトを閉める



レノ:「じゃあ何「レノ……」



レノの言葉を遮り、笑顔を向ける



ユリア:「ミッドガルに…本社に帰ろう?」



レノは驚いた顔をしたが、すぐにいつも通りの表情になる



レノ:「後悔…すんなよ、と」





















バレット:「おい、大丈夫か!?ティファ!?」


ティファ:「う……うぅん…?」



ゆっくり起き上がり、回りを見回すティファ

どうやらここはミディール内らしい



ティファ:「バレット……帰ってきたのね、私…。クラウドは……?彼は、大丈夫?」


バレット:「ああ、心配ねぇ。しぶとい野郎だぜ、まったく」



ふと見れば、皆に介抱されているクラウド

ティファはホッと安堵の息を吐いた

が、まだ不安は残っている



ティファ:「ユリアは?ユリアはどこにいるの?」


バレット:「ユリア?ここにはまだ来てないぜ?」



おかしい……

ユリアは自分達より先に上がっていったのに…

ティファは再び寝そべった



ティファ:「人間て、自分の中になんてたくさんのものをしまってるんだろう…。なんてたくさんの事を忘れてしまえるんだろう……。不思議だよ…ね……………」



そこまで言ってティファは目を閉じた



バレット:「おい、ティファ!?しっかりしろ!!ティファ……!?」



バレットは慌ててティファの肩を揺する

クラウドの方もなかなか目覚めず、戸惑うメンバー



その上空を、一台の神羅ヘリが飛び去っていった





第十五話 −終−