サークルの先輩であるようくんと付き合って4ヶ月経ったが、新事実が発覚。ようくんの元彼女は、わたしの先輩であり彼の後輩であるらしい。3人して同じサークルの1年生(わたし)・2年生(元彼女)・3年生(ようくん)。しかも2年生である元彼女は、なんと、わたしと同じ名前で、なんと、漢字まで同じだ!
「…"結愛" 好きだね」
「ほんとにねぇ」
なぜだかとてもとてもショックでそんなことしか言えなかった。
こんな複雑な気持ちになるとは。たかだか元彼女が自分の先輩で、たまたま名前が同じなだけで("ゆめ"なんて名前めったにないと思うけどなぁ…)。
当の彼は気まずそうにするわけでもなく、はは、と笑ってコップの水を飲んだ。
一方のわたくし、困った、ようくんの目を見られない。ふよふよと視線をただよわせて何か言おうと口をぱくぱく動かすが、いかんせん、声帯は震えてくれない。
わたしと付き合う前に彼に彼女がいたからってショックを受けるのは筋違いである。わたしだって、今までの人生で彼氏というものは何人かいたのだし。しかし何だろう、この、もやもやは。つまり、あれだ、元彼女である人がわたしの全く知らない人だったらよかったのだ。だけどわたしは彼の元彼女である人をよく知っている。彼女はかわいくてすごく人懐っこい。わたしにもすごくよくしてくれて、本当の妹みたいだと可愛がってくれる。わたしは彼女が大好きなのだ。なのに、ああ。…それでも彼女を嫌いになることはない。…それでも、その事実を黙っていたようくんに、少なからず、寂しさと怒りを感じているのだけれど、面と向かってだと言いたいことが言えない、私の弱虫…。
「‥ね、寝よっか」
「結愛まだ髪濡れてるよ」
「…あ」
ドライヤーを手にようくんがわたしの手を引っぱって、向かい合って座る。ぶおおと音をたてる温風と大きな彼の手によってわたしの髪が緩やかに乱され、目をつぶった。目をつぶれば顔を見なくてすむのだ。大発見だ。すばらしい。
「はいおわり」
「‥ありがと」
「寝よ」
ようくんはいつも腕枕をしてくれて、わたしはいつもうれしくてたまらないのでぎゅうっとようくんに抱きつく。するとようくんがベッドの中でキスをして、さらにぎゅうっと抱きしめてくれるのが幸せでたまらない。だけど今日はすべてが違う。腕枕をしてくれてもあんまりうれしくない。思わず寝返りをうって背中を向けた。
「‥どうしたの?」
「ん?」
「どうしたの?」
「‥何が?」
「なんでそっち向くの?」
「こっち向いて寝るのが、好きだからだよ」
「うそ。何かあるでしょ」
「‥何でもないってば」
ようくんはうそをすぐ見破る。または、わたしがうそつくの下手すぎる。とにもかくにもわたしのうそは彼には通用しない。
彼は背中を向けるわたしの肩を掴んで、自分の方を向けさせようとする。しかしわたしは抵抗をする。にも拘らず彼は肩を掴む手の力を緩めようとしないのだから、わたしは肩が痛くなるので仕方なく彼の方を向くけれど、依然と目は見ないまま。首あたりを見ることを心掛けるのだ。
「どうしたの」
「何でもないってば」
「じゃあなんで俺の目見てくれないの?」
不意打ちみたいに言われた言葉にぶわぁっと、涙が出た。ようくんの口調は決してわたしを責めるようなものではなかった。