milk jam playback

 大学の夏季休暇を利用してあっさりと免許を取った彼はしかし慎重で、暫く練習してからじゃないと君を乗せたくないんだと言った。
 それもそうかと雪子は納得する。初心者運転手の助手席が無免許だと怖いだろう。
 しかし季節は秋になり、行楽を特集する雑誌を友人から借りて読むと、そろそろ彼の車に乗りたいななんて思
ってしまう。
「どしたの…、って珍しいじゃん。インドアのゆっこがどっか行きたいの?」
「ううん、あのね玉緒さんが免許取ったから、どっか行きたいなって思ってたの」
 恋愛関係の話になると食いつきの激しい友人はとたんに笑顔になる。がたがたと椅子をひっぱってきて、雪子
の机に肘を突く。
「なになに、どこ行くの?」
「まだ、何も話してないよ。初心者だから君を乗せたくないって言われちゃったから」
 そう素直に言うと、名刺が挟めそうなくらいに眉間に皺を寄せられた。
「ヤツが免許取ったの何時よ」
「八月、位かな」
「今もう十一月じゃん!言わないと延々乗せてもらえないよ!」
 いつかは覚悟が必要なんだからもう!と嘆く友人に、そうかなあ、と雪子はのんびり思う。安心と安全を第一
に掲げるのは、玉緒らしくていいなと感じていていたからだ。
「今、さりげなーくオネダリメールしてみてよ」
「え、いいのかなあ」
 そう言いつつも、雪子は携帯を開く。何だかんだいってドライブデートには憧れがあるのだ。少し考えながら
メールを打つ。
『玉緒さんのご都合のいいときで構いませんから、運転の練習にはばたき山に行きませんか?』
 その文面を雪子の許可を得て覗き込んだ友人はさらにげんなりした。
「何そのかたっくるしいメール、ほんとゆっこといるとカルチャーショックバリバリって感じ」
「そう?」
 かみ合わないコントのような会話をしていると、予鈴が鳴った。
「デート決定したら教えてね!」

 放課後、紺野からの返事が届いていた。
 さ来週の日曜、十一月の終わりにどうかな、という返事に小躍りしそうになる。ぎゅっと携帯を握り締めて、
にっこり笑う雪子に級友もつられて笑う。
「ありがとう」
「もう、もっとガツガツ行っていいんだよ。そうだ」
 ドライブ、ということは基本長時間二人っきり。しかも男は運転をしている為そうそう手は出せないはずだ。
ここはちょっと、雪子に入れ知恵をして煮え湯を飲ませるかとにやりと笑う。
「じゃあさ、デートの前日うちに泊まりにこない、いろいろ教えるよ?」
「いいの?」
 教えるも何も普段どおりにしていればいいのだが、学習好きな雪子は思い切り釣られた。玉緒の邪魔はしたく
ないし、あまり車の助手席にのったことが無かったからだ。
 あっさり乗ってきた雪子に罪悪感を感じながらも、少女は心の中でガッツポーズを繰り返す。伊達に彼氏が切
れないわけじゃない。オトコ落しの生殺し、とくと味わうがいいコンノタマオ。そう心中叫んだ。

 ファッションは花椿に任せるとして、メイクや立ち居振る舞いにボディメイクをがっちり固める。
「シャンプー、凄くいい匂いだったよ!」
 極めてシンプルで清潔なのも雪子らしくていいが、たまには甘い匂いのするからだと髪もいいだろう。
「ほらほら、次コレね」
 浴室にスクラブを投げ入れる。次々に手渡されるクリームやら何やらに、最初は戸惑っているようだったがや
はり女の子だ、楽しそうにしている。
「いつもデートの前ってこんなに色々してるの?すごいねえ」
「何時もじゃないわよ、勝負!ッて時だけ」
 それでも雪子はほうっと声を上げた。やはり、世の女性と言うものは凄い。
 風呂から上がると、全身にクリームを塗りこまれ、髪も何かスプレーされた後丁寧にドライヤーを当てられた。
「うん、やっぱキレイ。地味だと思ってたけどやっぱカレンやあの野郎に目ェ付けられるだけあるわ」
「そんなことないよ」
 全体的に細すぎるのは、まあ運動が苦手で食が細いから仕方がないだろう。しかし骨格も華奢なので骨ばって
いるわけではないし、柔らかいところは本当にふにふにしていて気持ちが良い。
 なにより、とても肌や瞳が綺麗だ。髪も、切って売れるくらいに素晴らしいと思う。
「よし、カンペキ」
 爪まで磨いてやってぽんぽん、とあたまを軽くなでてやると、上目遣いでありがと、と言われた。
「あ、あー。ダメ、カワイイ。苛めたくなる気持ちわかる。ゆっこも悪い」
「え、えええ?」
「苛めてオーラガンガン出てる」
 そんなぁ、と言って泣きそうな顔をする。ますますダメだ。
「で、はばたき山に行くんだっけ」
「そ、そう。まだ運転に不安があるみたいだし、高速使わずに行ける近場が良いかなって」
「ま、それが無難だね。もう付き合って長いし、コッチは高校生だからガス代とかは向こう持ちでオッケーっし
ょ、あ、ゆっこ車酔わないの?」
「うん、乗り物には強いんだよ」
「高速乗らないなら小銭とかもいらないし、ホント気負うことないね」
 思いもつかなかったお金のことを言われ、雪子は感心する。まだまだ気遣いが足りないなと自省してしまう。
「ずーっと密室二人っきりはもう慣れたもんだろうしねぇ?」
「う…」
 ニヤニヤとそういわれると、真っ赤になってしまう。
「よーし、じゃあ寝よう!さっさと寝よう!起きたら明日だよ?」
「ぷっ…、なにそれ、あたりまえだよね」
「え?思わない?デートの前の日とかさ、次目を開けたら明日なんだー!って」
 くすくす笑いながら電気を消し、少女達は仲良く眠りに落ちた。


 車の免許を取ったとたん芯が強くキモの太い姉と母親から足にされ、度胸と技術はあっという間に身についた。
 それでも雪子を助手席に乗せるのは少し勇気が要った。今まで出かけるのはバスと電車で事足りていたし、無
理に車を使う必要も見当たらなかったのもある。
 だから控えめながら珍しい彼女からの誘いに背中を押されて、やっと決断をした。
 そしてその決定は正しかったことを今、思い知る。
「えっと、お邪魔します」
「はい、どうぞ」
 そっと彼女が助手席に乗り込んでも、車は殆ど沈まなかった。そして、ふっとほんの少し車内の空気が甘くな
る。
「シートベルト…、あ、ありがとうございます」
 もぞもぞとベルトを探す彼女を手助けすると、また良い匂いが鼻をくすぐる。
「今日の雪子、良い匂いがするね」
「わ、きゃ」
 髪の毛に手を入れ、鼻を近づける。デートだから気合を入れると言う事はあまりない様な彼女だったが、今日
は何かしら意識をしてくれているらしい。とても嬉しい。
「も、もう、止めてくださいっ」
「うん」
 返事はしながらも、ざっと彼女の全身を見る。何時ものシンプルな格好とは少し違う、とファッションに疎い
玉緒でも分かった。ざっくりしたケープのようなカーディガンのようなものの下にカッターシャツ、羊みたいな
ふわふわの短いズボンからは緑色のタイツに包まれた細い足が伸びていて、足元はブーツだ。
「…かわいい」
「へっ?」
「ありがとう、何か今日の君、すごくかわいい」
 少し照れるが、はっきりと伝えてみる。自分のような酷い男のために、いろいろ頑張ってくれるのがとても嬉
しかった。ちょっと照れてしまいそうだったので、誤魔化すように車を発進させる。

 かわいい、玉緒の言葉がリフレインする。
 逃げられない状況で、しょっぱなから頬が真っ赤になってしまう。窓を開けていいかどうか聞くと、少しパワー
ウィンドウで下げてくれた。
「わぁ、もう結構寒いですね」
「そうだね」
 びゅうびゅうと吹く風は頬を冷やし、緊張も解いてくれた。
「えっと、喋っても大丈夫ですか」
「うん」
 玉緒が文化祭に来てくれて以来だから、喋る事は沢山会った。受験のことや、学校のこと、とりとめのない話
題がしかし楽しく続いていく。そうしているとはばたき山の牧場用駐車場まではあっという間だった。
「え、もう着いたんですか」
 残念だ。もっともっと一緒に乗っていたかった。正直雪子は、ドライブの何が良いのかよく分かっていなかっ
た。しかし、実際にしてみると凄く楽しく、終わるの惜しく思えた。
「帰りも送っていくから、ね」
 ガチン、とリモートでロックを掛け玉緒は微笑む。父親から借りてきたカローラが晩秋の薄い日の光に鈍く輝
いていた。うるさい女性しか乗せた事がなかったため、控えめにしかし楽しそうに過ごす雪子とのドライブはと
ても新鮮だった。もっと、ずっと遠くへ行きたい。そう思う。
「さ、行こう」
「はい!」
 今日は牧場でゆっくり過ごすつもりだ。受験追い込み前の最後の息抜きと、玉緒の運転疲れを癒して帰りも安
全運転を心がけるための計画だ。

 極めてゆっくりと時間が過ぎる。乗馬体験や乳搾り等も開催されているが、二人は羊や山羊等が放牧された小
高い丘でのんびりとしていた。もうすぐ十二月だと言うのに、日がよかったのか空気は暖かく、空は透き通るよ
うに高く晴れ渡っている。
「おう、兄ちゃん、姉ちゃん、腹減ってないか」
 山羊の群れを連れた従業員が通りがかり、気軽に声を掛ける。寒い冬は基本的に牧場が閑散とするので、訪れ
る酔狂な客にはフレンドリーなのだろう。
「雪子、どう」
「ちょっと、空いた…かな?」
 牧場に着いたのが昼時で、もう夕方だ。
 おお、そうかそうかと笑った初老の男性はめえめえ鳴く山羊を適当にあしらいながら、二人を工場のような場
所に案内する。
「わっ、うわぁ」
「おお、兄ちゃん山羊にもてるな」
 白や茶色の大きな山羊が玉緒にぐりぐりと寄っていく。それがおかしくて雪子は笑いが止まらない。少女の周
辺には小柄なヤギばかりが集まっており、妙に人間くさい彼らがわざとやっているように見えた。
 めーえべーえと見送るように鳴く山羊を囲いにいれ、工場のような場所に案内される。
「今年のクリスマスお歳暮ギフトにぎりぎり間に合った、うちの新製品だ。従業員以外の意見はまだ聞いて無い
から、よかったら食ってみてくれ」
 いいんですか、と二人が聞くと、逆に礼儀正しいなぁ、と従業員は感心したように頷いた。
 クロテッドクリームと書かれた瓶に、フレッシュチーズ、ミルクジャムとあまり見たことのないものが、クラ
ッカーやスコーン、パンと一緒に並べてある。年代もののトースターも準備してあり、いかにも従業員の休憩用、
と言った風だった。
「これ、美味しい…」
「濃い生クリームというか、不思議な味だなあ」
「そうかそうか、ほらコッチも食べな」
 クリームも美味しいが、差し出された柔らかいチーズも絶品だ。
「わあ、これさっぱりしていて食べやすい」
「ジャムも練乳とは違って、うん、美味しい」
 そうかそうか、と喜ぶ従業員はなんとお土産まで持たせてくれた。食べた分の代金も払ってないのに、と固辞
する二人に余計ぐっと来たらしく押し付けられてしまう。

「ラッキー、だったんですかね?」
 ビニール袋を提げる玉緒の横をゆっくり歩く雪子は少し思案顔だ。まだ二人に向かってめえめえ言う山羊舎を
通り抜け外に出ると、短い晩秋の日は暮れかけていた。
「好意は受け取っておこう、それに回りに配ったら宣伝になるんじゃないかな」
「あ、それもそうですね」
 暗くなると危ないから、とそのまま駐車場に向かうことにする。殆ど行きかう人も無く、家畜も厩舎に入って
しまっているようだった。日が落ちるとさすがに寒く、高所のため風も強い。ぶるっとふるえた雪子は、不意に
友人の言葉を思い出す。
 もっと、積極的に。そのために自分を磨くのよ、と。
 手を繋いでもらうのを待たず、勇気を出して荷物を持っていないほうの男の腕にきゅっとしがみ付いてみる。
ごわっとしたコートの感触がした。
「きょ、今日は楽しかったです、連れてきていただいて、ありがとうございます」
 抱きついたくせに物凄く敬語というギャップと、ずっと控えめに匂う甘い香り。見上げてくる瞳は恥ずかしそ
うに笑っていた。
「あんまりやすやすと、こういうことするんじゃない」
「あ…」
 言葉がきつくなってしまい、彼女は体を離そうとする。
「ごめん、違う。嬉しいんだけど、その」
 どんどん涙が溜まる瞳に、凄まじい罪悪感を覚え、周囲に誰もいないことだしと雪子のあごをすくって口付け
た。少し唇を舐めて、すぐに離す。先程まで食べていたあまいミルクの味がした、その味にすらぐらりとする。
「こういうこと、したくなるから」
「ぁ…はぃ」
「うん。僕は君が思っているほど大人でも紳士でもないからね?」
「それは…」
 知ってます、とはいえない。それでも、二人くっついたまま車まで戻る。もともとぱらりとしか車がいなかっ
た客用駐車場には、もう玉緒の車しか残っておらず、うっそうと茂る周囲の木の陰が暗く落ちていた。
「車の中冷えてるなぁ」
 助手席のドアを開けて雪子を乗せたとき、中からひんやりとした空気が流れ出た。さっさと運転席に乗り込む
と、エンジンのキーを回し暖房を入れる。ごおっ、と風が吹き出し車が温まるまで暫く待つことにした。手を擦
り合わせながらも、二人で次のドライブの計画を話し合う。
 車内時計の表示が七時を回ると、駐車場を照らしていた投光機の光が消えた。計器の光だけが車内を照らして
いる。本当に、ドラマみたいでロマンチックだなあと雪子はうっとりする。幸せすぎて死んでしまいそうだ。だ
らしなく表情が歪んでいるのが分かり、ほおを押さえた。
 そんな幸せそうな様子が可愛くて、まだシートベルトをしていない身を起こし軽くキスを落とした。
 とろっと溶けた表情で、素直にキスを受ける彼女の唇はやはり甘い。
「たまおさん」
 雰囲気に酔っているのか、彼女は両手を差し出してくる。シートから乗り出すようにして、助手席に雪子を縫
いとめる。
「ん…ぅ、ふぁ、ぁ」
 何度も舌を絡め、彼女のペースに合わせて食んでやると小さな体がシートに沈んだ。
 甘い。実際の味覚としての甘さと、彼女から匂う甘いにおい、そして楽しく幸福な一日の甘さ。
 ほの明るい闇の中唇の間につぅ、と糸が引くのがはっきり見えた。

「くるま、よごれちゃ…うっ」
「大丈夫」
 甘い毒が全身に回り、理性を溶かす。珍しく玉緒より雪子のほうが最初から積極的だった。
 おいで、と言って抱き上げてやると、素直に運転席へと移動してきた。ハンドルに背を打つといけないからと
シートを軽く倒し、抱き締める。その間にもずっと触れるだけのキスを繰り返している。
 小柄な彼女は玉緒の腕の中にすっぽり納まってしまう、だからそこまで窮屈さは感じない。
「は…」
 抱き締めているだけでも十分だったし、これから実家に車を返した後、紺野の部屋に戻って思う存分抱き合う
のがベストだと、脳内では考える。
 しかし、バニラアイスのように溶けた彼女がはなつ甘い誘惑に勝てそうにも無い。
「んんっ、ひぁ」
 男の手が胸を探る。露になっているのは首だけだからそこを何度も甘噛みされた。厚手のカーディガンをかい
くぐり、カッターシャツの上から触れられるだけなのに、気持ちがいい。
「ちょっと、起きて」
 はいばんざい、といわれて素直に腕を上げるとぼすんと天井に手が当たったが、邪魔に思っていた上着を脱が
された。
 手を打った衝撃ではたと雪子は少し正気に戻った。ここは外で、車内だ。車はいわば全面窓なので、覗かれた
ら丸見えではないか。周囲は真っ暗でおまけに木が茂っているから易々と人は来ないだろうが、真っ当ではない。
 しかし、そのままシャツのボタンも外されて、素肌と下着が露になる。
 まあ、いいか、きもちよくて幸せだから。珍しく悩まずに、すとんと少女はあきらめた。
「ふぅん…」
 玉緒が何やら唸っている。
 今日着けている下着は、友人から贈られた物で、緑色のビロード地に白いバテンレースが控えめについている
ものだった。雪子が初めて持つ、勝負下着だ。
 かちん、と簡単に下着は外れる。両側に分かれた生地からあっさりとひかえめな乳房がこぼれた。
「いいな、これ。すごくかわいい」
 暗い中でも、至近距離であれば何時もとは全然違う下着であることは分かる、そしてそれが彼女の好みと言う
より玉緒の好みであると言うことも。
「え、ぁ…りがとうございます…?」
 ちゅ、と胸にキスをされながら言われると戸惑ってしまう。便利だからかな、なんて思ってしまう自分が恥ず
かしかった。
「ぁ…ん、あんっ、あ」
 手に収まってしまうサイズの胸をやわやわと揉んで先端をやわらかく食むと、髪の毛をぐしゃっと掻き乱され
る。
 目を瞑って声を上げる様子も可愛かったが、ふと目をやったバックミラーに闇の中うっすら映る背中と腰の動
きがいやらしい。シャツ越しにだが、ミラーを見たまま背筋をなぞるってやると、手の動きに合わせてくうっと
体が反った。
「あ、――あ、はぁ」
「なるほど」
 新しい弱点の発見と言う奴だ。きもちいい?と聞いてやると、涙目の雪子はこくんと頷いた。
「ごめんなさい、きょうは、なんか、私ばっかりっ」
「気にしないで」
 明るければ、サイドミラーでも見えるのかと思い、室内灯を付けてみる。揺れる頭から肩のラインが綺麗に見
えた。
「あ、あのっ、点けたら外から見えちゃ…」
 暴れることは出来ないから、せめて窓から隠れようと男の胸にきゅっとしがみ付く。さすがに玉緒まで服を脱
ぐことはためらわれたので、胸の感触を楽しめ無い事を勿体無く感じる。
 小動物のように丸まって見上げてくる様子が見えなくなるのは惜しかったが、又明かりを消した。
 これはもう、お持ち帰りして朝までコースだと、心を決める。しかし、カーセックスの機会なんて早々やって
くるものではないだろうしな、勿体無いという気持ちも起こる。
 暫く、温風が吹き出す音と雪子の吐息だけが空間を支配した。
「さいごまで、出来る?」
 わざとするかしないかではなく出来るか出来ないかで聞いた。かなり辛いとか痛い状況でなければ、彼女は出
来ると言うだろう。
「はい」
 その答えを引き金に、下半身に手を伸ばす。服を着たまま密着した体の間に手を差し入れ、彼女のショートパ
ンツを探る。しかし手の感覚だけでは上手くくつろげる事が出来ない。
「これ、前どうなってるの?」
「え、えと、ゴムと、紐で締めてます」
 解きます、と言ってもぞもぞと彼女の手がそこに伸びる。玉緒の手と雪子の手が一瞬絡んで、ほどけた。
「…ど、どうぞ」
「ははっ、ありがとう」
 体を支えるように、シートの両脇に手をついた彼女は照れている。まだまだタイツに下着と関門は多く本当は
彼女に全て下ろさせたかったが、今は断念する。後でじっくり見たら良い事だ。
 手早く一気にずりさげ、濡れた感触のするそこに指を這わせる。どうしても無理な体勢で行為は性急になって
しまうから、せめてきちんと馴らしてやろうと人差し指と薬指でひだを広げ、中指で入り口を嬲った。
 はぁー、はぁー、と荒くなる少女の熱い吐息が首筋にかかる。こりこりと芽を刺激してやると手に力が入らな
くなったらしい雪子が、がくりと玉緒の体の上に落ちてきた。
 その様子に男も煽られる。
「はぁ、も、挿れる、よ」
「ぁ、はぁい…」
 少女の液で塗れていないほうの手で、自分の鞄を足元から探り、財布を取り出す。
「ごめん雪子、出して」
 んっ、と頷いてそれを受け取り、一番内側のカード入れからゴムを取り出す。玉緒に財布を返し、震える手と
歯を使い封を切る。
 一旦のそのそと足元のスペースに体を寄せ、反応を見せる陰茎を取り出してゴムをつけようとした。
「ぅ…ん、ん、あれ?」
「ほら、貸して」
 意外と見えない中つけるのは難しく、何度も手が滑ってしまう。それが焦れるような刺激になって、男はゴム
を奪い取ってさっさと着けてしまった。
「も、もう…」
「なに?」
 何だかそれが無性に悔しくて、雪子はぷうと膨れてしまう。おいでと手を引かれるのにちょっと逆らうと、が
ん、とハンドルに背を打ってしまった。一瞬息が止まる。
「っつー!」
 ほら、暴れないの、と背筋をなでられる。かなり痛くて涙が出てしまう。
「ね、狭いから。おいで」
 心配するように見つめながらも、腰の位置を合わせゆっくりと侵略を始める。
 忙しなくなる二人の呼吸に、車内の温度が上がる。むっとするような性交の空気と暖房で、すっかり車の窓は
曇ってしまった。
「あつぃ…、たまおさん、だんぼう…」
「ん、でも、終わったらっ、多分冷えるから…」
 雪子の肌からは玉のような汗が落ち、触れている玉緒のセーターやコートを濡らしているような気配がする。
僅かな動きで中を抉る雄の感触に跳ねる尻も汗で滑った。
 自分でも腰を押し付けてくるようになった雪子の動きに任せ、唯一裸の胸元に触れて舌で舐める。あまり塩辛
く無い汗がいく筋も流れ、ふるふると頼りなげに揺れる白い乳房も濡れていて、そのまま舐めあげる。
 玉緒の肩を握っている小さな手にぎゅうっと力が入り、縋られる。眼鏡も曇りがちになり、ぬぐうのが面倒で
外してダッシュボードに投げた。
 今、バックミラーが見れたら絶景だろうになと思いながら、ぜいぜいと息を上げる雪子の限界と己の限界が近
づいているのを感じる。
 痺れるような、下半身を持っていかれそうな締め付けに足に力が入る。ずるりとマットをずらしてしまい、が
つんとブレーキに足をぶつける。狭い足元のスペースで、雪子のブーツの足も少し蹴ってしまう。
「ぁー、あ、はぁー」
「も、ちょい、ゆきここっち」
 ぼんやりと真っ赤になった顔を上げた彼女は、呼ばれるままにほんの少しずり上がる。
 何とか届くようになった頬を両手で包んで、溺れるような呼吸を繰り返す唇を塞ぐ。熱すぎる頬の熱はあっと
いう間に手に移り、境目が分からなくなる。
「ん、――ぅ―」
 酸欠と絶頂が同時に襲い掛かり、雪子の思考はブラックアウトした。
 玉緒も少し遅れてゴムの中に吐き出し、ぐったりした彼女を抱き上げて服を直して助手席に寝かせてやる。

 五分ほど周囲と雪子の様子をうかがった後、ウィンドウを全開にして暖房を切り、運転席のドアを開ける。冷
たい風が車内に入って、情事の名残を一掃していった。とっさにシートに敷いていたブランケットのおかげで、
車の被害は無いようだ。
 ただ、あちこちぶつけた二人の体と汗に塗れた服が不安だった。車外に出て、軽く体を伸ばすと変な音がした。
 思ったより夢中になってしまった事を、少し後悔する。
「―玉緒さん?どこですか?」
 雪子の声が車内から聞こえる。普段殆ど甘えることのない彼女の鼻にかかった声は寝ぼけている時のものだ。
「ごめん、ここにいるよ」
「もう、かってに、いなくならないでくださいっ」
 ぷぅっと膨れる様子がかわいい。腕を引っ張られて、車内に入る。
 ぐずる彼女の頭を撫で、どうにかシートベルトを付けさせて、車を発進する。
 すぐにすうすうと寝息が聞こえ始めたことを確認し、男はアクセルを深く踏み込んだ。
 遊園地限定のスピード狂、そうは言っているが、車に誰も乗せていないときにはかなりスピードを上げて運転してしまう。
暴走や無茶はしないが、とろとろ走るのは性に合わない。将来ライセンスや国際免許を取っても良いかな、と思う
ほどに玉緒は車の運転が好きだった。

 夜道を飛ばしていると、普段のしがらみや悩みが景色と一緒に後ろへ流れていくような気がして気分が良い。
又、運転に集中するため頭を真っ白に出来る。
 一路、はばたき市まで。サンデードライバー達の群れを抜くため、玉緒はハンドルを切った。


 背中にべったり出来た青あざを体育の時間に発見され、さらに全身の変な筋肉痛でぎしぎし動く雪子が、
また酷い事をされたのかと友人に詰問される。
 上手く誤魔化そうとしたがやっぱり誤魔化せず、車での出来事を一通り話す羽目になるのは、幸せな夜が明けた先のお話。




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