Culture shock weekenders

「え?なめるのって、あの、普通じゃないの?」
 無知で無垢なのを良いことに、あの男は散々雪子に歪んだ知識を植えつけているようだった。
「フェラとか頼まれないとしないって!フーゾクでも別料金だし!」
「あぅ…、だって、あの、玉緒さんもしてくれるから」
 何度かメールを交換した後、あまりの雪子とカレシの濃さに驚いた少女は、ジックリ話そうと自室に真面目な
クラスメイトを招いた。もう付き合い始めて一年ちょっとになるらしく、お泊りや旅行なんかも行っているらし
かった。正直言ってちょっとショックだ。
「ほんと、へんだなあって気付かなかったの?ぶっちゃけ話するのアタシが初めてなんでしょ?」
 ふるふる、と首を振った後雪子はことんと首をかしげた。
「…お尻は、ちょっとへんだなあと思った」
「――!ちょ…っと、ソレマジ?真面目に言ってるの?」
 本当に、ちょこんと座ってまじめーに授業を受けているこの子が!お尻まで開発されちゃってるとか誰が思い
ますか?みなさん!、と叫びたい。
 だが、嘘をつく相手には嘘を返すが、ホントのことしか言わないし、信頼してものを言ってくれている雪子の
話は誰にも漏らさない決意がある。
「あ、っと、あのね、アタシさけっこう色々やっちゃてるわけ。クラブでとかヤリ目だけとかおっちゃん相手と
かね。でも、お尻はナイ、いやほんとナシ」
「え?そ、そんなに、へん、かなぁ?きもち、いいときもあるよ?」
 こりゃだめだ。本当にだめだ。もう少し早く気付いてやればよかったとなぜか後悔する。調教されてしまって
いる。
「ツラはあんなに爽やかイケメンなのに、おっそろしい奴…、どこで捕まったの?」
「え…?」
 どこでも何も、玉緒は元生徒会長だ。クラスメイトも何度も見ているはずなのに、気付かなかったんだろうか。
「あーいう変なのって超頭が良いんだよね大体。予備校とか?」
「ううん、はば学の先輩だよ。偶然知り合ったの」
 嘘は言っていない。職員室前でプリントをぶちまけた雪子を助けてくれたのが最初なのだから。
「あーあんなのいたっけ?イケメンは大体網羅してるんだけどな」
「私服と制服で結構印象違うから、わかんないかも」
 適当にごまかすと、ふうんと納得された。
 そこで、ふと気付いた。生徒会会長だろうが何だろうが、気にしなければ全く記憶にも残らないのだ。いちい
ち玉緒を見つけて、ドキドキして、目が合っていたのは雪子の過剰な気持ちが原因だったのだ。
「何赤くなってんの…、ってアレ?出会いとか思い出してるわけ?」
「…うん」
 教えてよー、という彼女に、かいつまんで説明する。なぜか目が合うことが多かった玉緒は、雪子が二年に上
がる頃には全体集会中にも必ず雪子を見つけて真っ直ぐ目線を合わせてきた。全ては偶然だと思っていた雪子は
素直に小さく笑い返していた。
 そして、二年の文化祭のキャンプファイアーの時に呼び出されてキスをされたのだった。
「最初から?マジで?まともに喋ったことも無かったんでしょ?」
「うん、ぎゅって抱き締められて、僕のこと好きだよね?って」
「やべぇ、ガチだ。ガチ策士だ。アタシケンカ売っちゃったよ…」
「あ、いや、その前にも、ちょっとあった。落ち込んでるみたいだったから、無理しないでくださいって、そん
なに頑張らなくてもだいじょうぶですよ、って挨拶と一緒に言ったことがある」
 おそらくそれが直接的な原因だろう、と少女は思った。安易に頑張れといわない賢さと、出過ぎない態度。征
服欲と満たして安らぎも与える女を賢い男が逃すわけがない。
「あーあ、ゆっこちゃん捕まっちゃったね!」
「捕まった…?」
「もうお嫁さん確定コースだよー」
 そう言っても雪子はきょとんとしている。
「お嫁さんとか、絶対ないよ。玉緒さん素敵な人だから大学でもバイト先でも、もててるみたいだし…」
 きゅっとクッションを抱き締めて、ちょっと泣きそうな顔になっている。そんな雪子を見ていると、芯から怒
りがわいてくる。好き勝手犯した挙句、騙して付け込んで信じ込ませて、なおかつ不安にさせているなんて世間
は騙せても私は許さない、そう思う。
「でも好きなんだ」
「うん、だいすき…」
 雪子はすん、と鼻を鳴らす。ごめんね、と言って目を擦っても初めて人に打ち明けたから、気が緩んでしまっ
たのか涙がこみ上げてくる。
 よしよし、となでてくれるきれいな手が嬉しかった。

 その後一緒の布団に包まり、もぞもぞとテレビドラマのDVDを見る。普段は恋愛ドラマを見ない雪子でも、
二人で話しながら見るととても面白く感じたし、共感して泣いてしまった。
「ね、不安になったらいつでも相談してね」
「うん」
 ようやく落ち着いた雪子は、素直にそう返し、ちょっとした疑問を口にした。
「ねえ、本当にその、舐めるのって普通じゃないの?」
「うーん、お願いされてやるもんだと思うよ…?フェラとクンニって名前が付いてるくらいだし」
 やたら食い下がる雪子に同じ答えを返す。
「つか、そんなにいつもやってんの?ちょっと聞きたいんだけど」
「え、えぇ…」
 ドラマはもう最終話が終わり、DVDのメニュー画面に戻っている。暗い部屋で、ふたり布団に包まっている
状況が雪子の口をあけさせた。

 最初、生徒会室に連れ込まれた時から舐めてと言われたのでそうした。けして気持ちのいい行為ではなかった
が、玉緒が気持ちいいならそれでいいと思った。
 その後セックスの快楽を教え込まれるうちに、パブロフの犬のように奉仕と己の快楽が結びついた。
「で、上手くできたらご褒美がもらえるようになったの」
 滔々と語られる内容は、経験豊富な少女でも引くレベルのものだ。
「ご褒美って、犬じゃないんだから…」
 何かおかしいの?と見上げてくる雪子に説明するのも面倒くさいが、十分に歪んでいる。
「で、ご褒美って?」
「頭なでてくれたり、いじわる言われなかったり、キスしたいときにしてくれたりとかかなぁ」
 道具を使って皮の衣装に身を包むSMよりたちが悪く、恐ろしい。
「いじわるって、何言われるの」
「色々言われるから…」


 電車の中で散々弄られたのに、玉緒が一人暮らしをするマンションまで歩かされた。
 手は繋いでくれたものの、なんども立ち止まり遂にはしゃがんでしまう雪子を気遣いながらも、タクシーに乗
ったり休憩を挟むことはなかった。
 半泣きになりながらも内股でなんとか玄関までたどり着いた雪子を、玉緒は優しく抱き締めて労ってくれる。
「たまおさん…っ」
「よく頑張ったね」
 はぁと深く息を吐く間もなく靴も脱がずに深くキスされる。気持ちよくて仕方がないそれに、うっとりと酔い
完全に男に体重を預ける。
 ふわっと体が浮いたかと思うと、玉緒は少女を抱き上げて靴を投げ捨て、ワンルームの部屋の隅においてある
ベッドに倒れこんだ。
「あっち向いて、足、開いて」
 男の上に乗っている状況で、そう指示される。指で指すような体勢をとると、玉緒の顔に向かって秘所を晒す
ことになる。
「や…」
「やじゃないだろう?」
 にっこりと笑って言外に命じられる。このマンションまでの辛く長い道のりを思うと、逆らう気が失せた。
 のそのそと体を反転させ、言われたとおりの体勢をとる。
「うわぁ、下着の意味ないねコレ」
「…っ、ごめん、なさぃ」
 すっかり染みになったそこに、ふっと息をかけられる。それだけでひくんと震えてしまった。
「何で謝るんだ、ここまで歩いてきたご褒美だよ?」
 下着を下げると、ふるっとした白い尻が露になる。内側に潜む赤い部分との比較がとても美しいし、ひくひく
蠢いている尻穴もかわいいと思えた。
 かぷりと何度も尻に歯を立て太股を摩ってやるとそれだけで雪子は甘く鳴いた。
「はぁ―、ぅ」
「キモチイイ?」
 体を捻ってこくこくと頷く様子が健気でかわいい。
 正直に言うと、玉緒をこういった嗜虐に走らせているのは、雪子の異常なまでの従順さだと思う。隠された嗜
好同士がぴたりと出会ってしまったのだ。
「や!やぁ!はぁん」
 じゅっ、と涎をたらす割れ目を吸ってやると、小さく叫んでべたりと少女の体が落ちた。玉緒に支えられてい
る腰だけが高く上がった姿勢だ。彼女が制服をきちんと着たままななのがもどかしかった。
 今日は散々に苛めたのでもうひたすら気持ちよくしてやろうと思い、赤くうるんだひだやぷっくりと膨らんだ
芽を優しく食んでやる。
「はう、ぁん、ああんっ」
 感じるところを優しく刺激されて、普段はあまり上げない嬌声が漏れてしまう。舌がナカに入ってきたときは
さすがに驚いたが、なんとも言えない感触に快楽が募るばかりだった。
 振り返ることもできなくなると、熱と涙で霞む視界に、僅かに持ち上がった男の股間が映った。
 されるばかりでは気が狂いそうだし、玉緒が興奮してくれていることが嬉しかった。
 逆さまからジッパーを開けるのは結構難しいことを知りながらも、何とか前をくつろげるが間断なく与えられ
る快感に手が震えてそれ以上ができない。
「しなくて、いいよ?」
「…ぅ」
 潤った部分にキスをされ、はぁ、はぁ、と息が荒くなる。もう気持ちがよすぎて、ずっとイっているんじゃな
いかとおぼろげに思う。
 口を離されて、内股にキスマークを付け始めたらしい玉緒の行動に、ほんの少し体に力が戻る。
 大きいか小さいかなんて彼以外としたことがないから分からないそれを、下着から取り出してちゅっと口づけ
る。逆から銜えると普段とは違って変な感じがした。裏筋を舐められるのが好きなようだからいつもはそこから
始めるのだが、今日はとてもやりにくい。舌を使うのはあきらめ、ちゅっちゅっとついばむように筋を食む。
「う…」
 はぁっ、と熱い息が内股に当たり、むくむくと大きくなるそれに満足感を覚える。
 上手にできて気持ちいいセックスを提供できれば、少しでも長い間傍にいてくれるんじゃないか。無意識下で
のそういった考えが、雪子を極端な被虐性と奉仕を引き出す。
 じゅぶっ、と出来る限り飲み込んで性器のように口を使うのにも慣れてきた。
「雪子、もういいよ」
 玉緒は体を起こし、少女をベッドへ横たえる。きょとんとしている少女をぎゅっと抱き締めた。
「ごめん」
「玉緒さん…?」
「意地悪してごめん、なんで普通に出来ないんだろう、本当に…僕は」
 彼女は、もっと優しい奴ときちんとした愛情溢れるセックスをして幸せになるべきだ。暴走する異常な欲に従
わせている今の状況は、よくない。
 そう思いながらも、彼女のいない生活を思い描くと地獄のような苦しみを覚えた。
「玉緒さん、泣かないで」
 涙は流れていないのに、聡くて優しい彼女は玉緒の頭をなでてくれる。
「好きだ、ごめん、離してあげられない」
「はい、離さないでください」
 にこりと微笑まれると、胸が締め付けられるようになる。もっとそのぬくもりを感じたくて、制服に手を掛け
る。ブレザーとワイシャツのボタンを外し、簡素なキャミソールと下着を脱がせる。雪子も、男の服に触れて脱
いで欲しそうに乱す。
 そういえば真っ裸で抱き合うのは久しぶりだな、と玉緒は頭を抱えた。人間の体は実に不思議だ。それだけで
心地よい温度を作り出し、温めてくれる。
 嗜虐心も薄れるから、今度からはなるべく裸になってから抱き合おう、そう思った。


「あれ、そんなに意地悪じゃなかったかも?」
「終わりよければ全てよし、じゃねーよ!目を覚ましてゆっこ!シックスナインなんかさらりとしないで!」
 雪子は拒否することを知らないのだ。そして何でも許してしまう。
「イヤ!怖い!ゆっこ、監禁とかされたらほんとすぐ呼んでね、三日以上外に出なかったら監禁よ!」
「え、ええ?」
 痴漢といい今の話といい、イジワルッ、もうっ!というレベルの話ではない。異様に根が深い。
「なにかおかしいと思ったら、すぐ連絡よ」
「わ、わかった」
 勢いに押されてこくこく頷くが、雪子はクラスメイトがそんなにあせっているのが何故だか分からない。しか
し彼女の思いやりというか優しさは十分に伝わった。
「今日はありがとう。ずっと誰にも言ってなかったから、すごくすっきりした」
 雪子は布団の中できゅっと手を握ってふわりと笑ってくれる。心からの笑顔に、少女の心が温かくなった。こ
れを手放したくないんだな、と実感する。
 話がひと段落したところで時計を見ると、もう深夜の二時を過ぎていた。唐突に眠気が襲ってくる。
「っ、ふぁー」
「寝るかぁ」
 そうだね、と言ってテレビを消した。
 どちらにせよ、あの男には一度釘を刺すべきだと誓いながら少女は眠りに落ちた。



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