カウントダウン

紺野と新名とバンビ(雪絵)上位△
バンビは学力特化、紺野が真っ黒です
 
Pre.

 村田雪絵は、図書館の幽霊としてはば学の生ける伝説となっていた。
 入学生代表スピーチで盛大に噛んで詰まって泣いてしまった彼女は、格好の噂の的になった。地味に生きてき
た少女はそれに耐えられず、ごく親しい友人意外には心を閉ざしてしまう。さらに両親に心配をかけまいと不登
校になることも出来ず、保健室登校ならぬ図書館登校しか出来ない日々が続いた。
 ひっそりと、入り口から死角になるテーブルで一日中勉強をするか本を読むかしている彼女は、図書館をよく
利用する人々には結構有名な存在になる。
 夏休み頃には噂は消え、時間が彼女の心の傷を癒していた。話しかけられれば僅かにだが応えるし、その圧倒
的な知識量で勉強の質問には答えた。
 紺野も彼女の知識量に圧倒された一人だった。三年生と一流大の入試問題を討論していたり、海外留学をする
という女生徒の仏語提出書類を直していたり、とその能力は普通の高校生を超えている。
 夏休み明けのある日。彼女はいつもの席で、紺野も好きな作家の新刊を発売日当日に読んでいた。二学期から
は教室へ通うようになり始めた彼女の姿を久しぶりに見て、紺野は思わず声を掛けてしまう。
「…生徒会長」
 びくりと身をすくませ、身を引く彼女にあくまで優しく話しかける。
「それ、朝買ってきたんですか」
 ほんの少し首を縦に動かす。代表作は恋愛小説だが、サスペンスやミステリも書く若手男性作家の本だ。
「僕も、その人好きなんですよ」
「そう…なんですか」
 ほんの少しガードの緩んだ彼女はちらりと紺野を見上げてきた。地味な子だと思っていたが、黒目の綺麗なす
っきりとした顔立ちをしていた。
 もったいない、そう思った。素晴らしい博識と、討論のできる回転の速さに語学力を持ち、万人に好印象をも
たれそうな顔立ちまで揃っているのに、彼女は自虐的に燻っている。
 少しずつ彼女に話しかけ、あえて名簿などで調べなかった名前を教えてもらうのに、一ヶ月。紺野先輩、と呼
んでもらうまでさらに一ヶ月。無表情気味な顔がふわりと笑うのを見るころには、季節は冬になっていた。
 司書として勤務している初老の女性はすっかり彼女のことが気に入り、司書室に招き入れるようになっていた。
特に図書委員などを設置していないはばたき高校の図書室の管理は、司書とパートタイマーの女性何人かで運営
されている。

「あれ、村田さん?」
 閉館間際の図書室で待ち合わせ、彼女に本を貸す約束をしていた紺野は無人の室内に驚く。
 うろうろと一周しても誰もいない。無断侵入かな、と思いつつノックしても返事のない司書室に入ると、長机
に突っ伏して少女が眠っていた。すうすうと眠る彼女の肩には温かそうな布が掛けてあり、鍵は見回りの先生に
お願いしてあるから大丈夫だという旨のメモが置かれていた。
 司書の手伝いをするうちに寝てしまったのだろう。しかしもう下校時刻間際だ、起こさなければならない。
「村田さん、起きて」
 声をかけても、全く起きる気配がない。傍によって覗き込むと、無表情でも怯えた顔でもなく、あどけない表
情で眠っていた。
 かわいい、と思う。野生のウサギみたいだ。警戒心が強くて、でも内に秘めるものは強い。
 何度も躊躇して、そっと肩に触れて揺する。
「ん…ふぁ、ぁ」
 目を何度か瞬かせたあと、小さなあくびをして彼女は起き上がる。ぼんやりした表情で頭をゆらゆらさせ、目
薬をさす彼女は全く紺野の存在に気付いてないらしい。
「起きた?」
「ふぇ、ひっ!」
 びくっと跳ねた少女は、椅子を蹴倒してしまい床に落ちた。
「ご、ごめん。あの、下校時刻だから、起こそうと思って」
「や、やだ、やだ」
 混乱してばたばたと手足を動かす彼女を起こそうと手を伸ばすが、そのまま後ずさって逃げられる。
 壁際まで逃げる姿を追い詰めやさしく頭を撫でてやると、次第に彼女は平静を取り戻していき、すみません…
と萎れてしまった。
「ハプニングとか突発事項に極端に弱いんです」
「ふだんはあんなに冷静なのにね」
 撫でられるがままになっている彼女は、体育座りでぎゅっと身を縮こめる。
「ありがとうございます。もう大丈夫です」
「そう」
 すべらかな髪の感触が名残惜しかったが、立ち上がろうとする彼女の為に何歩か下がる。

 冬の日は落ちるのが早く、二人が外に出た頃には外は夜だった。それでも今日の新刊本が買いたいという彼女
を、紺野は本屋まで送る事にする。自転車の後ろなんて乗ったことないですと言った彼女だったが、なんとか紺
野にぎゅうっとしがみ付くことでバランスが取れたようだった。
 先程初めて肩に触れて髪を撫でこうやって抱きつかれると、ようやく彼女が幻でも幽霊でもないという実感が
湧いてくる。するどい冬の風が頬を切りつけていくが、気にならなかった。

 しかし、上機嫌の紺野を不機嫌にたたき落とす爆弾が本屋で待っていた。

 商店街のはばたきブックストアに着き、嬉しそうに新刊コーナーへ向かう彼女を紺野も追いかける。自転車を
停めていた分のタイムラグで遅れて売り場に着くと、なんと彼女がナンパされていたのだ。
「あ、紺野先輩」
「へ?」
 振り返った茶髪の少年は、目を丸くして紺野を見返してきた。男同士暫く目が合う。
「あのね旬平君、この人がいつも言ってるはば学の生徒会長さん」
 彼女がこれほどまでに男と親しげにしているのは見た事がない。しかも名前で呼んでいるからナンパではない
のだろう。
「…君は?」
「雪絵さんのトモダチです」
 いかにも地味な彼女と、一見してナンパに見える彼が友達とは不自然極まりない。
「えっと、旬平君も、この作家さんが好きなんですよ」
 サイン会の整理券をもらいそこねた彼女を見かねて、彼が譲ってくれてからの付き合いらしい。とは言っても、
本屋でたまにばったり会うぐらいらしいが。
 しかしまっすぐに見てくる彼の視線には、紺野と同じ気持ちが混ざっているような気がしてならない。
 村田雪絵に、自分以外で親しく口を利く男がいる事に対する驚きと僅かな不快感。
 なんとなく居づらくなって、紺野は自分の買い求める本のコーナーへと向かい、会計を済ませて帰路に着く。
胸に湧き上がる不快感をねじ伏せるように紺野はペダルを踏んだ。

 新名も同じく不快を噛み潰していた。
 おどおどしていて地味だけど、とても頭のよい雪絵さんは携帯番号も知らないトモダチだった。
 本読み友達が父親しかいない新名は、偶然にでも知り合えた雪絵によく話しかけた。下の名前しか教えなかっ
たため、仕方なく旬平君と呼んでくれる様子が可愛い。
 何度か会話しているうちに、彼女が信じられないことに一つ年上であることやはば学の生徒であることが分か
る。そして冬に入るあたりから、彼女の話に生徒会長の紺野先輩という人がよく登場するようになった。
 だが新名は完全にそれを女性だと思っていた。雪絵が男と親しくする様子が思い描けなかったからである。
 背が高く、それなりに見栄えのする男が自転車の後ろに彼女を乗せてきたのを見たとき、ぎょっとした。紹介
された後も思わずじろじろと見てしまった。
 軽く会釈して去っていったその男の様子が余裕綽々に見え、人知れず新名は拳を握る。自分だけのものだと勝
手に思っていたものが掻っ攫われたような感覚に喉が渇く。
「旬平君?」
「あ、ああなに雪絵さん」
 彼女の話に適当に相槌を挟みながら、彼女でもなんでもない雪絵に独占欲を働かせるのはおかしい、と黒い感
情に蓋をした。

 そして、入学式。
 在校生代表としてスピーチをする紺野は、新入生の中に『旬平君』を見つけ、僅かに目をすがめた。その視線
を真っ向から受けた新名は、腹に力を入れて静かに睨み返す。

「旬平君が頭いいのは知ってたけど、まさか代表になるなんて」
「いや、僕も君が演台に上がったときはびっくりしたよ」
 さりげない嫌味をこめた紺野の台詞に、新名はへへっと笑う。
「やっと雪絵さんと毎日会えますねー」
 お前の有利はなくなったぞ、と宣言する。
 真ん中に挟まれた雪絵だけが、渦巻く低気圧に気付かずにいた。

<本屋出会いスチル><入学式後険悪スチル>

Pre.テスト一ヶ月前。お前今回も赤取る気か

「雪絵さん…」
「…ユキ先輩」
 司書が使う図書室の横の小さな部屋、通称司書室で少女が突っ伏していた。それを元生徒会長と一年の学年首
位が慰めている。
「なんでっ、学年首位だからって、全校生徒の前で話さなきゃならないのっ」
 ひっくひっくとしゃくりながら、真っ赤な顔でぐずぐず鼻をすする。
「仕方ないじゃないか、そう決まってしまったんだから」
「あきらめましょうよ」
 事の始まりは、先程理事長室に呼び集められて告げられたある企画にあった。
 クリスマスパーティで、各学年の代表として祝辞のようなものを述べなさい。なにそんなに難しく考えないで
いい、私が毎年言っているようなことを君たちが言えばいいんだよ。
 そう理事長は微笑んで言った。パーティにちょっと変化をもたせようとした思い付きだったらしい。
 紺野は全校生徒に向かって話すことには慣れているので、仕事が増えて面倒だなとしか思わなかった。新名が
思ったことも大体一緒だ、ただ服に気合を入れようとは思ったけれど。
 一人だけがくがくと震えて、いやですと口をぱくぱくさせていたのが二年生の雪絵である。地味で本当に勉強
しか出来ない彼女は、入学式の代表スピーチで大失敗をした。その二の舞は絶対に嫌だと思ったのだ。
「いやです、ほかのひとにしてください」
 蚊の鳴く様な声で拒否をする彼女の声は届かない。
 ひたすらやだやだと、普段の無表情はどこへやらとばかりに泣く雪絵の両側に男達は座る。
「ね、テストだと思わないか。勉強なら出きるんだろう」
「そーッすよ、紺野先輩の言うとおり俺らとテスト勉強しようよ」
 紺野は頭を撫でて、新名が背中をあやしてくれる。うっうっという泣き声は次第に引き始め、腫れた瞼で雪絵
はほんの少し頷いた。くそ真面目で明晰な彼女は、当の昔にぐずっても仕方が無い事を悟っていた。
「玉緒さん、旬平君、よろしくお願いします。もう赤点は取りたくないです」

<両側から慰めスチル>

1.テスト六日前。寝てる場合か。
十二月十八日(土)

「傾向と対策、それにテストまでのスケジュールを組んだから」
 雪絵を応援する司書は、快く部屋を貸してくれた。しかし理事長の思いつき依頼が期末直前だったので、結局
対策は後手後手に回ってしまった。
 少しづつスピーチの練習や、あがらない訓練をしたものの最後の一週間で怒涛の仕上げをする羽目になる。
 スピーチ原稿の最終添削と演説法を紺野が、ファッション面と自分に自信をつける方面を新名が受け持ってく
れるらしい。
「ね、私は何とか失敗しなければいいの、このスケジュールじゃ二人とも結構スパルタ…」
 にっこりと笑って紺野はその先の言葉をねじ伏せる。
「テストでいい点を取るため、試験を乗り越えるためじゃなくて、自分のために勉強しなさい、雪絵さんいつも
そう言ってるよね」
「うぅ、ぅー」
 雪絵が唸ると、ぐしゃぐしゃと髪を撫でられる。
「さ、原稿見せて」
 差し出された原稿は、確かに素晴らしい出来だった。やわらかく、女性らしい語り口で程よい長さ。しかし。
「自分が読むと思ってないだろう」
「そ、そんなことないです」
 沙雪にとってスピーチの代筆など慣れた物だが、自分で読む様のものなど書いたことはない。
「まだちょっと、実感が湧いてないみたいだね、目を覚まそうか」
「や、玉緒さん、き、きゃぁー!」

2.テスト五日前。ここは抑えておけよ。
十二月十九日(日)

 今日は新名が、パーティで着る服を選んでくれるらしい。知識と情報として服飾を理解している雪絵はよく言
えばスタンダード、悪く言えば地味でいつも同じような格好をしていた。
 普段来る事のない、きらきらしたブティック・ソフィアに眩暈がする。
「ユキ先輩さ、あんまこういうトコ得意じゃないっしょ。先に幾つか選んどいたから着てみてよ」
「あ、ありがと」
 更衣室に押し込まれて、渡されたそれらを見てみる。全体的に露出は少なく、普通のワンピースに近いものば
かりだった。
 一つ着るたびにカーテンを空け、新名に検分してもらう。
「旬平君、あの、そんなに真剣に見なくても…」
「先輩後ろ向いて、その後靴履いて出てきてよ」
 全く人の話を聞かず、新名は何かぶつぶつ言っては携帯で色々確認している。
 一時間半以上かけて服を選び、へとへとになった雪絵を次に待っていたのは、シモンにいるカレンだった。普
段全く着せ替え人形になってくれない雪絵を弄りまわせる絶好のチャンスとばかりに、靴とアクセサリーをとっ
かえひっかえ合わせまくる。また新名も真剣にそれの相手をするため、なかなか終わらない。

「もう、いやぁ」
 くたっとなった雪絵を、喫茶店の席に座らせて新名は苦笑する。途中からはパーティと全く関係ない着せ替え
になっていたことを、この先輩は気付いていない。
 女の子はそれなりの服を着るだけでちょっと美人に見える、とはよく言うが雪絵はその段じゃなかった。めっ
たに顔を上げないのと無表情なのをどうにかしたなら、確実に美人の部類に入るのだ。
 だが、新名も紺野も先程の友人もあえて雪絵を咲かせようとはしない。そこは何よりも押さえなければならな
い点だった。
「ずるいぼくらは、綺麗な花を独り占め」
「なにそれ、今読んでる本?」
 そうそう、それが面白くってと大嘘をついて、新名はどうやってこの二人きりのデートを延長させようかと策
を練った。

3.テスト四日前。ちょっと早いご褒美。気を抜くな。
十二月二十日(月)

 紺野の仕置きと実際に着る服を選んだことが、どうやら雪絵に実感をもたらしたらしい。根をつめて思い悩む
タイプの彼女は、げっそりとした。それでも今日も今日とて司書室でスピーチ読みの練習をする。
 紺野と新名が図書室に入ると、司書に手招きで呼ばれる。指示されるままに近づくと、司書の女性はため息を
ついた。
「雪絵ちゃん、辛そうよ」
 登校拒否寸前だった雪絵を知っている司書は、心配でならなかった。せっかくそれなりに明るくなった彼女が
また、落ち込むのでないかと日に日に不安は募る。
「休憩したら、って言っても聞いてくれないし」
「…ありがとうございます。気付けませんでした」
 素直に感謝の気持ちを述べ、紺野は深く頭を下げる。新名もそれに倣って辞儀をし、司書室のドアを開ける。
 長机の前に立つ雪絵は、二人にも気が付かないほど集中して原稿を読んでいる。
「ユキ先輩!こんちは」
「雪絵さん」
 そう声をかけてやっと彼女は顔を上げる、確かにその瞳には不安が沈んでいる。
「ごめんね、気付かなかった」
 それでもすぐに原稿に戻ろうとする。
「紺野先輩、今日は中間テストって言ってましたよね」
 そんなことは聞いていないし言ってもいないが、新名に調子を合わせる。
「そうだね、それに合格したらご褒美を上げようか」
「テスト…?」
 雪絵がきょとんとする。
「そうそう、そのまま一回俺らの前で一通り読んで見てよ」
 パイプ椅子を引いて、男二人は腰掛ける。
 怪訝そうな顔のまま、それでも雪絵は流暢にスピーチをした。
「めちゃくちゃ上手いじゃん」
「ほんと、びっくりした」
 ハキハキと口を動かしアナウンサーのような抑揚。よどみない流れに思わず二人は拍手する。
「練習したんだけど、緊張したら、多分ぜんぜん…」
 又しゅんとする雪絵の肩に触れ新名は明るい声を出す。
「中間テストは超合格、ね」
 負けじとさり気に原稿をぐしゃりと握る手に触れて、紺野は慰める。
「ご褒美に、映画見に行かない」
「高校生三人だと一人千円になるんですよね!」
 抜け目ない後輩は、即座に釘を刺す。
「へ、じゃ、じゃあ見たい映画があるんです。やった、うれしいな」
 近いうちに二人でデートをしようと思っていた紺野は、公園の近くにある単館系映画館に雪絵の好きな監督の
新作がかかっているのを知っていたのだ。嬉しそうにコートを着る雪絵に免じて、ここで割り込んできた新名に
嫌味を言うのは止めておいた。
 冬になり寒波を伴いますます激しさを増した低気圧が、雪絵を中心として巻き上がった。

4.テスト三日前。ヤマなんて張るな、外すから。
十二月二十一日(火)

 理事長はパーティの来賓や出席者一覧に目を通していた。先程訪れた少女が見たがっていたものだ。
「どんな人が来るか分かれば、あまり緊張しないかなと思ったんですけど、駄目ですか」
「駄目だよ、これは個人情報だからね」
 本当は見せてもいいのだけれど、変に出席者に気に入られようとすると失敗するのだ。心を鬼にしてすげなく
断る。
 すみませんでした、失礼します、と出て行く彼女はそこまで落胆していなかった。

 彼女が入学式で失敗したことは知っている。どうやらじぶんでその失敗を消化することが出来たようだったの
で、再戦のチャンスを与えた。
 もし失敗しても、半ば無礼講のパーティーだ。それほどのことにはならないし、フォローも考えてある。
「がんばるんだぞ」
 少女が消えたドアに向かい、届かないエールを送った。

5.テスト二日前。今更泣き言言っても、遅い遅い。
十二月二十二日(水)

 パーティ前最後の平日ということで、最終リハーサルで仕上げることにした。
 紺野と新名は制服だが、より本番に近づけるため雪絵だけはドレスにヒールだ。
「雪絵ちゃん綺麗よお」
「バンビ、素敵」
 客役として友人と司書が座っている。カレンだけは、やっぱりアクセはあっちの方が良かったかでも色的にね
え、などと全く違うことを呟いている。
 まず最初は新名、気さくで生徒目線のいいスピーチで、少し喋り方が速いことだけが注意点だった。
 そして、雪絵。一生懸命で一切周囲は見ていないが、分かりやすくきれいな声でひととおりのことを言い終え
る。
 最後は紺野で、別々にするのが面倒な生徒代表挨拶を兼ねて〆る。
「いい。さすが理事長の人選、バランスよくまとまっている」
 みよのお墨付きほど心強いものはない。ほっと雪絵は胸をなでおろす。職業柄講演会などにも多く携わる司書
も、手放しで褒めてくれた。

 折角キューティー3が揃ってるからどっか寄って帰ろっ、と野郎共が何か言う前にカレンは先制した。やつら
は特訓にかこつけて最近バンビを占領しすぎだ。
「どーおバンビ、だいじょぶそ?」
 栗の載ったロールケーキをフォークで刺しながら聞く。
「わからない。でももう、やるしかないよね」
 泣き言を言うには遅すぎる、とマンゴーロールケーキを切り分ける。
 決意のみなぎるその言葉に、カレンもみよも安心する。もし失敗したとしても、前のようには落ち込まないだろう。
「じゃ、バンビの成功を祈ってカンパーイ」
 飲みかけのお冷が三つ、かちんと触れ合った。







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