Don't cry baby 1

※Don't cry baby 0の後日談になりますが、0を読まなくても話は分かるようになっています。
※桜井の両親が出てきます。


 桜井の家は、豪邸ではないがそこそこ立派な構えだ。現在の主人はアメリカ風が趣味であるが、地主として代々
続いた家は和風の二階建てで狭いながらも綺麗な日本庭園がある。昔はともかく、今の琥一にはあまり似合わな
いかな、と思っていた沙雪の予想に反して実家に帰った彼はすこぶる和式の生活に馴染んだ。
 高校最後のあの事件の際に、彼の両親に初めて会った。やつれてはいるが芯の強そうな母親と琥一とよく似た
父親。沙雪のことを覚えていた二人は、懐かしいなと目を細めてくれた。
 卒業前後は余りにもいろいろな事がありすぎて、いまでもあれは夢だったんじゃないかと思う。琉夏がとりあ
えず独立し、ウエストビーチが取り壊され、琥一は実家に戻った。
 髪を短くして真面目に勉強する琥一は満ち足りて見える。若社長などと言われるのを非常にいやがり、桜井と
関わりのない解体工事現場や大工のアルバイトを始めた。それが性に合っているらしく日に日に健康的になって
いくのがちょっと可笑しい。

 そして、夏。
 忙しい毎日に、琥一はすぐに眠ってしまうようになった。桜井の両親にも気に入られ、足繁く桜井家に通う沙
雪をいつも抱き締めたままうつらうつらと夢の中に行ってしまう。
 今日も布団の上で正座をした少女にしがみ付くように眠りに落ちてしまった。
「まあ、今日も琥一寝ちゃったの」
 沙雪にと冷たいお茶を持ってきてくれた桜井夫人は目じりを下げる。そして少女が手に持った葉書に気付き、
あらと声を上げた。
「沙雪ちゃん、それはなにかしら」
「えっと、コウくんの中学からのお友達に赤ちゃんが出来ました!」
 どうぞ、と渡した葉書には、でれでれの両親とまだ生まれたばかりの赤ちゃんの写真が載っていた。
 ほう、とため息を吐きながらしげしげと葉書を眺めた夫人は、ありがとうと沙雪に葉書を返した。
「沙雪ちゃん、いつでもお嫁に来ていいのよ」
 急な発言に沙雪はお茶を吹きそうになる。
「琥一と沙雪ちゃんの子供は絶対にかわいいわ。今から楽しみねぇ」
 今回は本格的にげほげほと噎せる少女の背中を摩ってやると、いえ、そんな、まだまだ先の話で、としどろも
どろに返事をした。
「この葉書のひと、前にここへお野菜届けてくれた八百屋さんだわ」
「そ、そうなんです、夫婦で親を手伝って、げほっ、稼いで…」
 だからまだ、見習いと保育士を目指す学生である私達は、とまだまだ続く言葉に、ますます夫人は笑みを深め
る。素直でかわいい。
「楽しみにしてるわよ」
 そういって去っていく足音が聞こえなくなったとき、沙雪の膝の上で琥一が目を開けた。
「勝手なこと言ってんじゃねェ…っ!」
「起きてたの?」
 頭上であれだけ騒がれて起きない方がおかしいだろ、と額を指ではじいてやる。
「あいたぁ、やったな!」
 仕返しにべちんと両手で頬を叩かれる。結構痛かったがそれで完全に目が覚めた。
「コウくん、これ」
 先程桜井婦人の手に渡った葉書を、今度は琥一に見せる。
「おうおう、でれでれしやがって」
「ね、幸せそうでしょ。いいなあ」
 膝枕の姿勢になっていた琥一はむくりと起き上がり、沙雪を正面から抱き締めた。
「最近お前のこと、あんま構ってねぇな」
「ううん、気にしないで」
 それでも久しぶりに琥一の匂いに包まれて、沙雪はほっとする。そのまま顔を上向かされて、くちづけられた。
久しぶりだからか、それだけでびりびりするような気持ちよさが背筋を抜ける。
「コウくん、無理しないで」
「大丈夫だ」
 まだ夜の九時だが、朝早くから働き夕方には飯を済ませてしまう生活ではもう眠る時間だった。体力と筋力の
有り余る琥一でも、やはり肉体労働は堪える。もう少し暑さが引いてもっと仕事の要領を掴んだら、ベテランの
親父達のように、仕事後飲みに行ったりできるだろうか。
 がっつく様な気持ちも起こらず、膝立ちになった沙雪の唇に何度も触れる。
 穏やかな琥一の様子に、やっぱり疲れてるのかなと沙雪は心配になる。ストンと男が胡坐をかいた上に座って、
上向いて見つめる。
「あのね、お話してもいい?」
「俺は園児じゃねぇぞ」
 思わず出る先生口調に、琥一が笑う。
 ぶうっとふくれた彼女は、それでも話を始めた。ピアノを弾いたり図画工作をしたり、礼儀作法を学んだりと、
保育士学校とはかなり幅広いことを学ぶらしい。
「オメェ、壊滅的に絵が下手だったよな」
「…言わないで。いいの、ピアノ弾けるし歌は褒められるんだから」
 以前友達らと一緒に中庭で花をスケッチしている彼女を見たことがあったが、それはそれは酷かった。何で見
たまま描かねぇんだよと思わず言うと、じゃあコウくん描いてよ!と逆切れされなぜか女子に囲まれてスケッチ
をする羽目になった。
 正味、琥一は絵が上手かった。だるそうにボールペンでざっと描いただけだったのに、目の前の花がそのまま
紙面に書き出されていた。雰囲気は無いが、写実的な絵。
「うそ、上手いじゃない」
「桜井琥一は、絵が上手い…と」
「意外ー」
 足を組んでベンチに座る琥一に、沙雪と友人達がまとわりつく。
「ほら、たかるな、退けオメェら」
「コウくん照れてる」
 照れてねぇよ、と琥一は捨て台詞を残して大股で去った。

 その時のことを思い出して、二人で笑う。そのまま布団に転がって、それでもまだまだ笑いあう。
 不意に沙雪がシーツに頬をつけ、動きを止めた。
「この布団、コウくんの匂いがするねぇ」
「当たり前だろバァカ」
 欲しいなあ、と無邪気に言った彼女に琥一は固まった。やはり淋しいのだ。
 ぎゅうっとそのまま抱き締めても、なにも抵抗しない。琥一が欲しいからではなく、彼女が欲しがっているか
ら、抱く。今までに無い事だが不思議と悪い気はしなかった。

 一旦始めると疲れなど何処かに吹き飛び、久しぶりの柔らかな体に酔った。
 また琥一の足の上に座った沙雪も、ぎゅっとしがみ付いたまま離れない。正直やりにくいのだが、ずっとキス
してて、とのおねだりを突っぱねることも出来ない。
 張りのある尻を下着の上から堪能して、その中心にも手を伸ばす。熱くなったそこは軽く布越し触れた指先に
もびくんと反応した。
「なんっ…か、きょう、へん」
「ビクビクしてんな」
 体が勝手に琥一を欲しがっているみたいだ、と朦朧とする中沙雪は思った。ちょっと触られただけで、もう腰
に力が入らない。一緒に寝るかもとおもってショートパンツに大き目のTシャツという格好をしてきたから、簡
単に衣服を乱されてしまう。
 怪我が付き物の仕事だから、傷だらけの琥一の掌はざらざらしていてちょっと刺激的だ。ざらっとした感触は
沙雪の下腹やあばらあたりをふにふにと執拗に触っていく。
「良かったな、肉が戻ってるぞ」
「ぅれしく、なぁ…いっ」
「俺はこれっ位のが好きだからなァ」
 以前少しやせてしまった体重は、元に戻っていた。琥一はそれを喜んで、色気の無い手つきで沙雪の全身を揉
みまくった。普段だったらくすぐったいだけななのに、と少女は敏感に反応してしまう自分の体を呪う。
 マッサージ並みの手つきなのに、沙雪はもう息も絶え絶えにくちをぱくぱくさせている。
「ククッ、発情期か?」
「はぁ、はぁ…っ」
「女の方がやけにサカるときは、実際妊娠しやすいんだとよ」
 子供、欲しいか?と重く響く声でからかう様に聞かれる。なんとかこっくり頷いて、でもまだだめ、と懸命に
伝えると、琥一は照れたような驚いたようななんともいえない顔をしていた。
 まだということはいつかがあるという事だ。
 自分で聞いておきながら、とても居た堪れなくなった琥一は適当に濁すことにした。
「ま、おいおいな」
「…なあに?」
 あーもう喋んなと深くくちづけて力が抜けたところを持ち上げ、少しずつ沙雪の体内に自身の熱を打ち込んで
いく。
「ぁああ、ぅや、いっ―つぅ」
 体格差を考えると対面座位の姿勢が一番イイのだけれど、衝撃は非常に強い。しかし馴らさないと何時までた
っても前進できないので、沙雪はあえて痛みに耐える。それでも、去年よりずっとスムーズに収め切ることが出
来るようになっている。
「っつ、すっげ」
 興奮にびくびくとのたうっている少女の肉は、うねるように琥一を煽った。
「ね…ねぇ、もう、おなかがきもちーいのっ、なんで?」
「しゃべんなっっつてんだろ」
 少し揺らしてやるだけで、高い声で鳴く。この分だと何もしなくても、ナカへの刺激だけで彼女は達してしま
うかもしれない。
「長かったなぁ」
 過保護の自覚はあるから、琥一は思わずため息を吐いた。約一年かけて女一人を開発したなど他人には絶対に
言えない。
 案の定、初めて女の絶頂を経験した彼女は、琥一の胸に崩れ落ちてぼろぼろ泣き始めた。それが可愛くて、や
っぱり琥一は手を出してしまう。絶頂が冷めないうちにふれてやると、すぐに彼女の体はまた燃え上がる。
 途中からは琥一も、初めて理性を手放して彼女を貪った。

「琥一」
 翌日。熱を出して客用の布団でうなる沙雪の前には、鬼のような形相をした桜井の母が正座をしていた。
「大体の事情はわかります。特に咎めもしません」
 いっそ怒ってくれと琥一は俯いた。
「ただ、限度を知りなさいね?」
「…わかりました」

 怒られている長男をちらりと襖から覗いた桜井家当主は、昔々同じ説教をされたなあと逃げるように出勤していった。


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