卒業後。オリジナルモブとして藍沢の編集が出張ってます。
おっさんくさいです。

 初恋の行く道、映画化。しかも実力派の若手監督が、心底藍沢の作品に惚れて立ち上げた企画だった。役者や
映画関係者全員が一丸となり、大作ではないがとても良い作品が出来つつある。
 藍沢は元々映像化にはあまり興味が無いが、誠心誠意ぶつかってくる映画スタッフ達には好感を抱いていた。
藍沢先生にも是非見て頂きたい、ということで何度か撮影にも立ち会った。
 そしてクランクアップ後。
 打ち上げと称して開かれた飲み会の席で、藍沢は主演の少女に告白された。スタッフは皆彼女を応援している
のだろう、周りには誰もいない。読者モデル兼劇団所属という彼女は、薄く華奢で小さなまるい頭をしていた。
長いまつげを瞬き、何度か見た真剣な演技より熱っぽい様子で藍沢さんの事が好きですと呟いた。
 この出会いが一年早かったら、藍沢は迷うことなく彼女を連れ帰っただろう。そして適当に愛情を与えて飼い
殺しの便利な女にしたはずだ。
 だが、彼はもう天使を見つけてしまった。

「はぁ、あの女優さんの告白を断ったんですか」
 某出版社、文芸部。後々の問題になってはいけないと、初恋の行く道担当の編集部員に事の始終を伝えた藍沢
に周囲からため息が漏れる。
「勿体無い、おれだったらそこで冷静になれないよ」
「そうだよなあ」
 方々から出る文句とも羨望ともつかない声に担当は苦笑する。
「雪代さん一筋ですからね」
「…まあな」
 照れた様にそっぽを向く藍沢はぼそりとそう呟いた。

 数ヶ月前、藍沢を受け持っていた女性編集者から彼の担当を引継ぐ際、女癖についてくどいほどに念を押され
た事が嘘のようだ。
 そこそこ良いルックスで売れっ子の小説家、と言うだけで股を開く女は意外と多いものらしい。高校生からそ
れなりの人妻までそれはもう来るもの拒まずとっかえひっかえ、別名義で官能小説も書いていた時期があると言
われた。
 だから、藍沢の自宅に初めて訪問するときはかなり気合を要した。一応電話でアポは取っておいたものの、半
裸の女性が出てきても驚かないぞと意気込んだ編集を招きいれたのは、大人しそうな少女だった。
 藍沢から原稿のデータを貰い、色々な打ち合わせやインタビューの日程調整を二人で行っているときも、彼女
は一度控えめにコーヒーを出しただけで、少し離れた場所で本を読んでいるだけだった。その楚々とした様子に
まるで昔の文学少女だな、とちらちら目をやると不意に藍沢も顔を上げた。
「あれは俺のだ」
 手を出すなよ、と年甲斐も臆面も無い露骨な独占欲を口にした男に編集は瞠目する。本人も大人げの無さには
たと気付いたらしくうっすらと赤くなって口篭る。
「雪代」
 藍沢に名前を呼ばれた少女は、音も立てずに立ち上がりこちらへ近寄ってきた。手招きと目線で藍沢と並んで
ソファに座るよう促され、遠慮がちに浅く腰掛ける。
「はじめまして」
 僅かに笑身を口元に刷き小さくそう言われると、つい編集はぼうっとしてしまう。これは本当に希少種だ、彼
が幼い頃あこがれた深窓が似合う文学少女。一応社会人らしく挨拶を返し、藍沢の話題で少し盛り上がる。彼女
の手元にある本は岩波文庫の赤い詩集で、金属製のしおりが挟まっている。
 どこでこんな娘を拾ってきたのか。前任の女性は引継ぎ直前に、姪っ子がどうのとか文句を言っていたような
気がするが本当にそうなのか。
「じゃあ、また来月よろしくお願いします」
 気になることは山とあれど、着任したばかりの編集と売れっ子作家はそれほど親しく口を利けるようになって
いない。長居をしないよう切り上げると、藍沢と少女―雪代さん、は玄関で見送ってくれた。
 
 帰る道々、編集はあらぬ想像に悩まされることになる。冷静に考えると、あの二人は肉体関係があるのではな
いか。俺のだ、と断言した様子からそれはありありと伺える。文章を商売とする者のたくましい想像力が、妄想
を組み立てる。

「せんせぇ、せんせ…」
 先程まで編集が座っていたソファで、雪代は自慰をしている。藍沢によく見えるように広げた足の間にはふと
い異物がねじ込まれていて、少女はそれを自分で動かしている。
「よく我慢できたな」
 そう男が笑うと、それだけで細い体がしなる。出版社の人間が来てから帰るまで、決してぼろを出さないこと。
それが約束だった。
「っ、ぁああぁあああ」
 藍沢が手中でリモコンを操作すると挿れられたものが暴れだす。腰を突き出すように跳ねた雪代はがくがくと
震えている。
「ご…褒美、やく、そく…ぅ」
 とぎれとぎれに伝える声に、男はにやりとわらう。
「おねだりが早すぎるんじゃないか」
 立ち上がって少女に近づくと、男は残酷な命令を下す。
「どれだけ気持ちよかったのか教えてくれ。きちんと、な」
 そしてリモコンのスイッチを落とす。目の焦点の合っていない雪代の頬を軽くたたいてやり、目を合わせて言
葉で誘導する。
「さいしょは痛がってたよな?」
「は、ぃ。いきなり押さえつけられて、挿れられたから、痛くて」
「でも、すぐに馴れたよな」
「せんせいのことが、すきだから、むりやりされてもっ…ひ、ぁ!ごりごり、しないでぇ」
 露出しているおもちゃの底部分を動かしてやると、ぐちゅっと音が鳴る。目線で続きを促す藍沢に、唇を何度
も舐めながら雪代は懸命に言葉をつむぐ。
「で、それで、いれたままたちあがると、わたしの…ナカの圧力で、出てしまいそうになるから」
 男の手でソレはなんども奥に押し込まれた。痛みを伴う快感に少しずつ膣は馴れ、何度目か押し込まれたあと
下着を穿ける様になる。
「そしたらぁ、布で…がこすれて」
「なにがだ」
 言いよどむ少女に又振動が襲い掛かる。
「あ、ああぅ、いいます、いいますから止めて!」
 クリトリスが、こすれて、気持ちよくなってしまいました。そう言うと、そのときのことを思い出したのか雪
代はぶるっと震えて、ぐったりしてしまう。
「ぁ――あ、ぁ」
「自分の話で気持ちよくなったのか、変態だな」
 涼しい顔で答える男は、何の前置きもなく思い切りそれを彼女の股から引き出す。
「っきゃぁぁ、や、やぁ」
 大量の粘液と一緒に引きずり出されたグロテスクなそれは、無造作に床に投げ捨てられる。
「ほら、ご褒美だ」
 赤黒い藍沢のモノが、咥えるものを失った孔に―――


「ぼーっとしてんじゃねぇぞ兄ちゃん!」
 どん、と自転車にぶつかられ編集の夢想は立ち消えた。『とらわれた文学少女―調教―』と言うタイトルでも
つきそうな親父くさい妄想内容に、自分でも動揺する。
 崩れた所のある藍沢と清廉な少女と言う組み合わせがよほど脳に来たのか、と悲しくなり、よたよたとバス停
のベンチに座り込む。僕の脳みそがどうかしているんだ。きっと藍沢先生はあの子をとても大事にしていて、彼
の作品のように温かい愛情を注いでいるはずだ。
 そう言い聞かせバスを待ちながら鞄の中を整理していると、仕事用のフォルダーが一つ無い事に気付いた。
何処かに落としていたらまずいものなので、藍沢の携帯に連絡し、忘れていないかどうかを聞こうとするが中々
出ない。
 後一コール出なかったら切ろう、と思ったときに回線が繋がった。
「あの、藍沢せん…」
「今取り込み中だ!」
 藍沢がそう叫んだだけで、電話はブツッと切れた。
「まさか…ね」
 携帯電話を見つめながら編集は、必死にさっきの妄想を脳内から消そうと唸った。




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