在学中 バンビが口でするだけ

 母親が作りすぎたビーフシチューの鍋を持って、沙雪は夕闇のガードレール沿いを歩く。幼い頃の琉夏を覚え
ていた母親は様変わりした彼を見ても、まあ、の一言で済ませ、昔と同じように接した。いささか言葉は古いが、
沙雪のボーイフレンドね、と喜んでいる。
 たまにならウエストビーチに泊まることもとやかく言われない。結構な許容ぶりに沙雪のほうが戸惑った。今
日だって、わざと多めに夕食を作ったような気配がある。
 味噌汁が冷めない距離、ではないがそこそこぬるいうちにウエストビーチにつく。外から見た限り人の気配が
なく、バイトかまた遊び歩いているのかな、とドアに手を掛ける。
 施錠はされておらずキィ、とドアが開いた。ああ見えて躾のいい二人は戸締りをきちんとするので、どちらか
が中に居るらしい。
「おじゃまします…」
 そっと中に入り、そろそろ勝手の分かってきた業務用キッチンを使う。ガスも通り、琥一が粗雑ながらも自炊
をするため、一通りの料理は出来るようになっている。それでもいくらかの調理器具は沙雪が持ち込んだ。
 鍋をコンロに置き、住人を探しに階段を上がる。玄関がない不便はこんなところにもあるのか、と溜息をつく。
「琉夏君、琥一君、いるの?」
 やはり返事はなく、テラス状の二階に顔を出す。開け放した窓のカーテンがひらひらと舞っていて、その直下
にあるベッドで琉夏が眠っていた。薄暗く沈んだ室内に、夏の明るい夜の光が差し込んで、青年の白髪を浮かび
上がらせていた。タオルケットを抱き枕のように抱え、横向きに眠る彼は穏やかだった。
 そっと近づいて、覗き込む。沙雪自身おぼろげな記憶だが、たしかに母親の言うとおり、あの天使のようだっ
た頃と何も変わってないのかもしれない。
 手を伸ばし、髪に触れる。汗ばんだそれをやさしく梳いてやると、不意に手首をつかまれ沙雪は心のそこから
驚く。
「つかまえた」
 ばちりと開いた色素の薄い瞳が見上げてくる。そのまま強く引かれ、琉夏の体の上に引き倒される。
「っ、ちょっ…と、琉夏君、起きてたの?」
「寝たふりしてた」
 もう!と憤る彼女をぎゅうっと抱き締める。彼女自身の体臭や汗のにおいに混じって、なにか煮込み料理のよ
うなにおいがした。
「美味しそうなにおいがする」
 肩口に鼻を擦り付けたまま、もごもごと言う琉夏に沙雪はあきれ半分に答える。
「ビーフシチュー、持ってきたの。琥一君と琉夏君に食べてもらおうと思って」
 ラッキー、と大げさに彼は喜ぶ。
「そういえば琥一君は」
「バイト先の懇親会か何かで今日は午前様予定だそーで。よってシチューは俺一人で全部食う」
 あきれながらも用意しないと、と体を起こそうとするが青年の腕が腰にぎっちりからみつき、身を離すことが
許されない。
「琉夏君ってば!」
「だって、折角沙雪が夜這いしてくれたんだもん、ね?」
 可愛らしく小首をかしげ、掌が尻に伸びる。首筋にも吸い付き跡をつけ、琉夏は鮮やかな手管で空気を塗り替
えていく。
「ごめん琉夏君、今日はダメ」
 なんのかんの言いながらいつもは流されてくれる沙雪が、強く拒否をする。ついばむようなキスは受けてくれ
るのに、何故だろう。突っぱねられたわけではないので、そのまま下着に手を伸ばすといつもと違う感触がした。
「あー、おんなのこの日?」
「なんでそんなに恥ずかしい言い方するの」
 真っ赤になって半泣きになっている沙雪は、申し訳なさそうにキスをした。襲ったのは琉夏なのに何故そんな
に罪悪感を持っているのか。
「うーん、やる気満々だったのになあ」
 正直、最中でも琉夏は全く構わない。さらに、ホテルなどであれば汚したままで帰ることが出来るので、プレ
イの一種だと思っている。しかし、沙雪の精神を害するつもりはさらさらないので今日はあきらめることにした。
 腕を離しても沙雪は琉夏の上から退かず何か思案をしているようで、さらさらと落ちる髪の毛が琉夏の肩をく
すぐっていく。暫くそのまま体温を感じていると、不意にがばりと彼女は顔を上げた。
「琉夏君、あの、えっと」
「なに」
「口でも、いい?」
 真っ赤になった沙雪に、斜め上の返事を返される。
「オマエがそうしたいなら…俺は大歓迎だけど」
 顔がにやけるのを押さえられない。大事にしすぎていまだバックやドギーすらしたことのない彼女が、フェラ
チオ。これはたまらないものがある。
「やり方がわかんないから、教えてね」
 そう上目遣いで言われるだけでどうにかなりそうだった。琉夏がベッドの縁に腰掛け、沙雪は床に降りる。正
座の足を横に開いたようなかたちで床にぺたりと座り込み、先程の接触で僅かに持ち上がる琉夏のジーンズをじ
っと見つめている。
「見てるだけ?」
 からかうように言ってやると、震える手でジッパーを下ろされる。汗で張り付いているボクサータイプの下着
を下げようと、ゴム部分に小さく爪を立てられるのもたまらない。
「ふわぁ」
 変な声を上げて、沙雪は少し上げていた腰をまたぺたりと床に落とした。何回か抱き合ってはいるものの、そ
れを直視するのは初めてでぎょっとする。
 ゆるく持ち上がっているそれは記憶の彼方に沈んでいる父や祖父のものとは全然違うし、なによりあまり生気
のない人形じみた琉夏に、こんなものがついているのはそぐわない様な気がした。
「えっと、どうしたら、いいの?」
「触って」
 単刀直入で身も蓋もない言葉に、沙雪は戸惑いを深くする。しかしこのままというわけにも行かないので、手
を伸ばし触れてみる。
 そっと指で先のほうに触れる彼女に、琉夏は笑いがこみ上げそうになる。感触と体温に驚いて手を離したよう
だったが、すぐに両手でやわらかく包まれる。クレープかなにか柔らかなお菓子を持つような手つき。そんな風
にやわやわと握られるだけで、恐ろしいまでに反応してしまう自分を呪う。
「すごい」
 あっという間に上向き、より生々しい形状に成長したそれに沙雪は思わず声を上げる。見上げると、琉夏も気
持ちよさそうに目を眇めている。少し勇気を出して下生えのほうに手を伸ばし、根元の方と陰嚢に触れてみると
あからさまに青年に体が跳ねた。
「ちょ…っと、不意打ち…っ」
「ごめん、痛かった?」
 違う、と苦しそうに声を上げ、そのままお願いと琉夏が呻いた。不思議な感触のそこを片手で柔らかく揉んで、
もう片方ではつっと何度もさおの部分を撫ぜる。どんどん大きくなるそれは硬くなり、思わず沙雪は硬度を確か
めるようにぎゅっと先端を握った。
「ごめん沙雪ちゃん、もーだめ」
 鼻先にあった琉夏のそれが脈打ったかと思うと、ひくひくしていた先端の孔から勢いよく精液が噴きだした。
「わ、わぁっ」
 もろにそれを顔に浴びた沙雪はその青臭さに驚く。拭おうと猫のように手で顔を擦るも、薄く伸びて擦り付け
るだけになってしまう。図らずも顔射してしまった琉夏は、なにか拭うものをとベッドの周囲を探ろうとするも、
余りにも淫猥な沙雪の姿に釘付けになる。
「へんな臭い…」
 味もへん。白濁のついた唇をぺろりと舐め、ぼそりとつぶやく彼女にすぐに欲が蘇る。またしも勃ち上がって
しまった陰茎が、大分とろんと欲に染まってきた沙雪の前に晒される。
「じゃあ、くちでするね」
「う、うん、オッケー」
 脱ぎ散らかしていたTシャツで乱暴に彼女の顔を拭うと、少しむくれた顔が睨んできた。
「ほんとにわかんないから、ちゃんと言ってね」
 ちゅっと先端にくちづけられる。手でしたときと同じように、顔を動かしながら先端から根元の方に向かい舌
でなぞられる。たまにれろりと飴でも舐めるようにされるのがたまらない。根元までくると、ざらりと下生えま
で舐められたのには心底驚いた。馴れた女でも中々しない行為に熱が上がる。
「ね、沙雪ちゃん、くわえて」
 このままだとまた暴発してしまいそうなので、さっさと新しいステップに進ませることにする。いったん口を
離し、上目遣いでこっくりと頷いた彼女の従順な様子にやっぱりヤるか、等と言う考えまでちらりと過ぎる。
 フルートを吹くようによこぐわえにされたときは、正直そう来たか!と心の中で手を打った。しゃぶれともい
えないし、どうするか。
「るふぁくん?」
「ちょ、銜えたまま、喋らないで」
 横から銜えている姿勢なので、琉夏のそれが沙雪の頬にぴたぴたとあたっている。彼女の唾液と先ばしりがま
た彼女の顔を汚していた。
「…っ」
 あまりの光景に容赦なく熱が上がる。あくまで琉夏のためだけに奉仕をしている従順な少女は、懸命だ。
 その顔を両手で挟み、口淫を中断させる。赤く染まった頬を撫でて膝を立たせ、濡れた唇にキスをする。深い
口付けにうっとりとした少女は、それでも意地を見せた。
「ね、さいごまでさせて?」
 至近距離で鼻先を触れさせたまま囁かれ、琉夏は退路を失った。まるで片言のように、どもりながら指示を出
す。
「じゃあ、こう、アイスキャンデー銜えるみたいにぱくっと…オネガイシマス」
 思い切り口を開くことはできず、先端の膨らんだ部分だけを沙雪は銜える。むにむにとペニスの形に唇がゆが
み、そのままじゅっと吸われた。
「―――っ!」
 衝撃に琉夏が腰を動かしたせいで、沙雪は口中にそれを深く突き立てられてしまう。いきなりのことに少女の
喉が、それを排除しようと収縮を繰り返す。
「っぐ、げほっん!ぅえ!」
「ごめん沙雪ちゃん!」
 喉を衝かれえずく彼女に琉夏はすぐさま腰を引こうとするが、それを押しとどめるかのように腰に触れられる。
涙を浮かべたまま見上げてくるその健気な視線に、青年の欲は決壊した。
「っ!あー、ぁ、わりぃ」
 沙雪の喉に、先程とは比べ物にならない勢いで白濁が注ぎ込まれる。それに耐えかねて、少女は口から陰茎を
半分ほど出してしまうが、それでも今度は口内に精液はぶちまけられる。何度か打ち震えたそれが放出をやめた
あと先端をまたちゅっと吸われ、琉夏はあわてて腰を引く。ぬるりと唇から出たそれは、二度の放出を経てやっ
と少し大人しくなっていた。
「ほら、これにぺってして」
 先程顔を拭いたシャツを大慌てで沙雪の前に広げ、精液を吐き出すように言う。少し迷ったあと、大人しく口
の中のものを出した彼女は、それでも喉や口奥に出されたものをこくんと飲み込んだ。
「飲みにくい…」
「別に飲まなくていいんだって」
 だって、と言いよどむ彼女はひどく淫猥だ。暫くこのままでいると際限なく行為にのめりこみそうで、口ゆす
ごうよ、と彼女を促した。

 入念に台所で口をゆすぎ、消毒とばかりにもらい物の強い酒を含まされた沙雪は現在、ぐったりした様子の琉
夏にビーフシチューを用意していた。
「えっと、ヨくなかった?」
 シチューを置くと同時に、琉夏に伺ってみると物凄い勢いで首が振られる。
 ならよかった、と安心したようにボックス席の向かい側にすわり、自分もシチューを少し口にする沙雪を青年
は直視できない。普通にセックスするよりこれは恥ずかしい。小さな銀のスプーンを銜える唇と、ぼんのすこし
ちらりと見える舌がつい十分前まで自分のモノをしゃぶっていたのだ。
「美味しくない?何か消化のいいものでもつくろうか」
「いや、すっげーおいしい」
 頭を振り一心に食べ始める。
 今日は、一刻も早く沙雪に帰ってもらおう。そうじゃないと心臓に悪い。



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