王子様は狼

前のニーナちゃんと設定が異なります。

 ナンパしたりされたりはアタリマエ、皆で遊ぶのも夜遊びするのも大好き。もちろん楽しい事の延長線上、直
ぐ手の届く所にセックスはあって、ハナシの通じない相手と手っ取り早くコミュニケーションするにはセックス
が一番。若くてそれなりのカラダだったら、それはお金にもなるし好きな相手を振り向かせる一番の武器にもな
る、さらに離したくないオトコを繋ぎとめる唯一のか細くつよい鎖にもなる。
 そんな環境にいたのに、やっぱりニーナは処女だった。

 ゴールデンウィークも終わり、夏休みまでのうんざりする二ヶ月が始まった頃。雪隆の部屋に遊びに来たニー
ナは、そわそわと落ち着かない。
「び、びっくりするだろー、とおもって黙ってたんだけど。あのね、わたしね…したことないの」
 ぺちゃっと雪隆の胡坐の上にすわって指をもじもじさせる少女は泣きそうだ。今日はシックな服装をしてきて
ねとお願いしたら、白いシャツにベージュの箱プリーツスカート、タイツというこれでもかという程コンサバな
お嬢様ルックでいらっしゃった。髪の毛もきちんと纏めていて、きっと嵐含め柔道部の連中に見せたら面白い事
になるとは思うものの取りあえずは独り占めする。
 そう一人ニマニマしていた青年は、唐突なその告白にきょとんとする。
「そうなんだ」
 もっと何かしらの反応が来ると思ったのに、王子様のような甘い笑顔を何時ものように浮かべただけで雪隆は
何も言わない。
「そうなんだ、って…」
「別にびっくりはしないよ」
 その言葉に、ニーナはしゅんとする。見た目は派手なのに処女である事がまるわかりだったのか、と思うと恥
ずかしくなってくる。
「だって僕のニーナは、マジメでイイコだもん」
「な、なにソレ!」
 図星を指されてばたばた暴れるのを、ぎゅっと抱き締められる。そうなのだ、モラルに反する事は嫌いだし年
上は敬いたいし、勉強や運動など一般的な評価基準は高いレベルでいたい。別に王子様を待っていたわけではな
いけれど、だれでもかれでもに自分を安売りする気持ちもない。
「だ、だいたいユキくんが、キスとか…セ、…クスとか、全然してこないから、わたし…ぅ…」
「泣かないで、ほら」
「泣いてないもん!」
 よしよしと撫でられ、かわいいかわいいと扱われるのが無性にいらだたしい。
 家ではお姉ちゃんだし、他の場面でも立ち回り的に甘える役を与えられる事はなかった。しかし柔道部に引き
込まれてからは、嵐と雪隆から存分に妹扱いされてしまい戸惑うばかりだ。
「要するに旬は、僕に食べられたいの?」
 至近距離でそう囁かれて、ぞわっと髪の毛や肌がそそけだつ。柔道の王子様なんて呼ばれていていつもは甘い
笑みをだだ漏れさせている雪隆はしかし、獰猛な本性を胸に飼っている。
 分かりやすい例を挙げると、柔道のスタイルは非常に好戦的だし、対戦型のスポーツをやらせると常にアタッカーだ。それに、ニーナは一
度だけ見たことがあるのだ。

 一年ほど前。
 彼と待ち合わせをしていたときに中学時代の夜遊び仲間とその彼氏が絡んできて、ニーナを強制的にアヤシイ
クラブへと連れて行こうとした。腕をつかまれて助けてと叫ぼうとした時、現れた雪隆は何時ものように笑って
いた。
「旬は、今から僕とデートなんだけど」
「ンだァ?オイ、やたらキレーなニーチャンだなぁ!」
「ニーナのカレシぃ?マジ美形なんですけど!キャハハハ!」
 何がおかしいのか大笑いする彼らは、雪隆を優男と侮ったのかニーナの腕を引っ張り歩き出そうとする。
「ちょっと、あっち」
「なんだぁ、ケガすんぞ!」
 易々とニーナを奪い返した雪隆は、周囲の視線を集め始めている事を気にして路地へと相手を誘う。弱い相手
が自ら袋小路へと誘っているのだ、相手が乗らないわけがない。
 ニーナはそこで待っててと路地の入り口を指した雪隆を、下品に舌を出した男が今にも殴ろうとしていた。
 無造作に振り返り男の腹を殴った雪隆は、ゲロを吐きながら倒れる相手の腹を何度も踏み潰し、挙句生ゴミ置
き場に蹴り飛ばした。
「ゴミはゴミらしくしてればいいのに。僕の旬に近づかないでくれる?」
「う…ぅあ…!」
 破れた生ごみの袋からは、残飯やどろりとした液体が滲み出す。それに遠慮容赦なく男の顔を押し付け、雪隆
は笑う。様子を伺っていた女は腰を抜かし、唯でさえでさえ短いスカートがずり上がり下着が丸見えだった。
「キミ、脚閉じなよ。そんな汚いモノ見たくないんだけど?」
「ひぃ!」
 その悲鳴に、ニーナは思わず路地を覗き込んでしまった。一瞬だけ惨事が見えたような気がしたが、早足で路
地を出てきた雪隆にぎゅっと抱き締められて誤魔化されてしまう。
「いこ、ニーナ。限定パフェ終っちゃうよ」
「え…、あ、うん」

 その後も特に報復等はなくニーナは安穏と日々を過ごす事ができたのだが、ふと怖い話を嵐と大迫の会話から
知ってしまったのだ。
「ユキがなあ、ありえないとは言えないよな」
「はばたきの駅裏で琉夏と琥一と一緒に大喧嘩したんだぞ。相手も相当ワルみたいだけどな!」
 ふと、自分の生活が守られているのは、あの問題児二人と雪隆が何かしらの相手をシめたおかげなのかと背筋が寒くなった。

 獰猛さを、薄皮一枚のやさしい王子様面に秘めている。
 そんな部分を知っても、ニーナは雪隆にめろめろだった。大体が一目ぼれなのだ。どんな一面を知っても好き
な気持ちは溢れるばかり、あの鈍い嵐ですらニーナの気持ちには気付いていたのだ。
 あんまり思い悩んで痩せたニーナを見かねた嵐が、お膳立てしてくれてやっとだいすきだと雪隆が卒業する日
に告白できたのだった。
「嵐じゃなくて、僕でいいの?」
「なんで?嵐サンはゼンゼンそんなんじゃ…」
「そう…か」
 彼は、彼なりに何か色々考えていたようだ。そして、告白の余韻で感情が爆発して泣きそうになっているニー
ナを抱き締めて、キスしてくれたのだった。



「あ、あれっきりキスも、してくれないし。大体皆、男はセックスのことしか考えてないって、トモダチが…」
「ふーん?」
 あわあわと色々言い募るニーナを見て、雪隆は胸をときめかせていた。
 美人で頭もよく、しかし気取らず友人も多いと今年のローズクイーン候補ナンバーワン、しかも一見して
派手で恋愛に慣れていそうな彼女が、こんなに純情でイッパイイッパイだということは、嵐と雪隆しか知らない
のだ。
「僕は、別にそういったことしなくても平気だよ?」
「あ、あぅ…」
 甘いご面相と優しい猫かぶりに釣られアホみたいにかぱかぱ脚を開く女共のおかげで、雪隆は十八歳にしてセ
ックスに飽いていた。勿論、ニーナは可愛いしいつでも抱ける気持ちはある。
「抱いて、ほしいの?」
 じっと見つめて繰り返し聞くと、精一杯と言った様子で彼女はこくりと頷いた。

 ふわっと体が浮いたかと思うと、どさりと柔らかいものの上に下ろされた。一瞬何が起こったか分からなかっ
たが、ぎしりと圧し掛かってくる雪隆に口付けられ、セックスが始まったのだとびしりと体を緊張させる。
「旬の事好きだから。優しくはしないよ」
「ふ、ふつう…優しくする、んじゃ…」
 思う様口付けられ気付けばブラウスのボタンも外されていて、ニーナはゾッとする。
「僕が、優しい男じゃないのはしってるだろ?」
「う…」
 雪隆のニィと口角を上げる笑い方は、下手に美形なだけあって奇妙な凄みがでる。
「カワイー、ね?勝負下着?」
「そ、そぅだけど…」
 淡いピンクのふんわりした下着はニーナのつんとした胸を半分ほど覆い、細めの腰を華奢なレースで飾ってい
た。が、下着には触れず、露出したお腹やスカートに包まれたままの太股を掌で撫で摩る。
「ん、んん…、ぅ」
「電気消す?」
 恥ずかしそうに両手で顔を隠したままのニーナに、そういえばと雪隆は声を掛ける。
「できれば…オネガイシマス…」
「何で敬語なの、旬は面白いね」
 くすくす笑うと、彼女は恥ずかしさが臨界点に達したのか、掛け布団に丸まって隅の方に団子になってしまう。
 ぱちんと電気を消して雪隆はベッドに腰掛け、ふとん団子を優しく撫でた。
「焦らなくていい」
「…だって、ユキくん超もてるし…、不安なんだもん…」
 それが本音か、と雪隆は低く笑う。ぎし、とベッドに寝転び布団ごと少女を抱き締める。
「大事だから、手を出せないんだよ?」
 そういながら、さわりとウエストや胸をなぞる。そのやわらかな愛撫に少しだけ顔を出した彼女は、涙目だっ
た。薄闇の中でも光るその綺麗な目に吸い寄せられるようにキスをすると、冷たい涙がほろりとあふれた。



 ニーナは初めての割には、苦痛なく雪隆を迎え入れることが出来た。ただ、それ以前にありとあらゆる性感帯
を発見されては吸ったり噛んだり摩られたりしたので、息も絶え絶えだ。
「ふー…、っ、ふー…っ」
「…どう?」
 真っ裸で脚を開き、男を挟んでいるということすら恥ずかしいのにどうもこうもない。そしてやはり強烈な違
和感と吐き気が、少女を支配していた。
「き…もちわる…ぃ」
 正直に答えると、いいこいいこと頭をなでられる。
「素直なのはイイコトだよ」
 そう言うと、ゆっくりゆっくり捻じ込まれた陰茎がずるんと勢いよく抜かれる。その擦れる感覚がぞくぞくと
背筋を震えさせて、ニーナの腰が浮く。
「…ぁあ…ああぁ」
「クセになるまでやるよ」
 ずぶずぶとゆっくり捻じ込まれ、勢いよく引き抜かれることを繰り返すうちに、どんどん内壁が敏感になって
きて気持ち悪さとぞくぞくがニーナを翻弄する。
「あぁう…ぁ、ふ、ぁ…」
 中に塗りこめられさらに外側にも大量にぶちまけられたローションだけでなく、体の奥から溢れてくる液体が
にちにちと音を立て始める。
「膣イキできそうだね、良かった」
「ちついき…?な…、何ソレっ…」
 何度も何度も出し入れされ、敏感な皮膚や神経を弄られた時とは違う、気持ち悪さと紙一重の衝撃がニーナを
襲う。しつこく胸を弄られて泣きながら叫んだ時や、鎖骨や耳に腰骨にキスマークをつけられながら痙攣した衝
撃、クリトリスを剥かれて舐められて失神しかけた先程より凄い感覚があるのかと怖いのにぞくぞくする。
「あ、あぁ…ぁ!き、てる…っ!」
 本気を出し始めたらしい彼の動きが、速く的確なものになっていく。あつくてかたいものがずるずぶと容赦な
く膣を擦り、下腹がきゅんきゅんと切なく生理痛のように甘く重く痛む。
「い…たぁい!きもちわる…、しんじゃ、う…!」
「旬、死んじゃうの?」
「しんじゃうのぉ…、や、やぁぁ!!」
 自分に何が起きたのかもわからずくたあっと糸が切れたようにベッドに沈むニーナの脚を、思い切り開かせて
さらに深く捻じ込む。
「お、おく、おなか…やぶれちゃう…」
「破れないよ、ほら、僕のがニーナの子宮に届いてるんだ」
 ごりゅごりゅと先端の太い部分でつきあたりを刺激してやると、小さな悲鳴を上げてニーナは目を見開いた。
「ゴムなしでね、ここに精液そそぐと妊娠しちゃうんだよ?」
「ふ、ふぇ…、しきゅ…う、にんしん…」
 とろっとした表情で、訳もわからずにオウム返しするニーナは頬を真っ赤にしている。いたぶられた全身が発
情して、処女を失って直ぐだというのに強制的に高められた快感に浸かりきっている。
「ほら、イイだろ、…っつ、ふ」
「あ、くふっ、うんっ、しきゅ…う、イイの…っ」
 息も絶え絶えにごぽっと愛液をこぼしたニーナは、しきりにお腹を摩っている。無意識にしても可愛らしすぎ
る行動に、雪隆もびゅるっと精子をゴムにぶちまけた。まだまだ感覚の鈍い内部では射精を感じ取れないらしく、
彼女はとろっと惚けたままだ。それを良いことに、雪隆は責める動きを再会させる。
「ま、まぁだ…、ユキく…まだ?」
「うん、まだ」
 大嘘を真顔で吐き、耐えようとする彼女を優しくなでてやった。


「ホントーに、優しくなかった…」
 ぷすーっと膨れて、また布団団子になってしまったニーナは先程からぶつぶつとソレばかり言っている。
「最初に言ったじゃないか」
 そうやって苦笑し宥めるように触れると、団子は益々丸まってしまう。
「だから、僕じゃなくて嵐にしておけと言ったんだ」
 雪隆がそうちいさく呟いた声が、ニーナの耳に届いた。でも、ニーナがすきなのは雪隆なのだ、街で一目ぼれしたときからずっとずっと好きで、
王子様な彼も、柔道部でやんちゃにはしゃぐ彼も、凶暴な彼も、知れば知るほどぜんぶ好きになっていく。
「ユキくんがすき…」
「…旬は、しょうがない子だね」
 そっと背中に寄り添う感触がして、そのままぎゅっと抱き締められる。その男の体温に安心して、とろりと眠気が襲ってくるのにニーナは身を任せた。 


わるいやつ

ニタニタしながらスマートフォンを扱う雪隆を、嵐は気味悪げに見やる。
性格は全然違うし趣味も違う二人はしかし気が合い、別の大学に進学しても頻繁に連絡を取り合っていた。
今日も、何とはなしに二人で飯を食べているのだが。

「ねえ嵐見てよ、これ最近のベストショット」
「いい」
拒否しても無理矢理見せつけられるその液晶には、後輩である新名が笑顔で写っていた。
「あいつが美人なのはいつもだろうが」
「そりゃそうだけど」
見せつけて満足したのか、またニヤニヤと操作し始める。

SDカードが数枚埋まるほどの新名の写真が、あのスマートフォンの中には入っている。
「お前は俺にのろける万分の一でもいいから、あいつに好きだって言ってやれよ」
「やだ」
その即答に、ああこれが俗に言う悪い男なんだなと、嵐は一つ学習した。



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