お披露目会 大迫先生誕生日

 桜が満開になる頃が、大迫の誕生日だ。
 人望の厚い彼の誕生日祝いは、何時からか花見を兼ねた宴会として開かれる事が定番になっていた。今年の四
月三日も大迫の友人らは、毎年と変わりなく沢山の酒と旨いつまみを用意し、ビニールシートを敷いて主賓の登
場を待っていた。
「そういや、力の奴彼女が出来たって?」
 ふと、一人がそう口を開くと、ざわっと場がどよめいた。
「俺しらねー」
「オレも」
 大学のときに大迫が付き合っていた彼女の事は皆知っているが、その娘と別れてからの話しは初耳だ、知って
る奴は吐け、と体育会系のノリで場が盛り上がる。しばらく何のかんのと言い合った後、おもむろに幹事が口を
開く。
「実はな、口止めされてたんだが、今日彼女ちゃん連れて来るらしいぞ」
「えーっ!マジで?」
「そしてなんと、彼女ちゃんは大迫の…」

 強烈なネタばらしに友人一同が驚きの声を上げた時、大迫と雪代は森林公園入り口に着いた所だった。
「うん!満開だなぁ!」
「えへへ、そうですね!」
 海辺の告白からまだ二週間程しか経っていない二人は、まだまだ恋人同士という雰囲気ではなく兄妹のように
見える。
「でも、良かったんですか?せんせいのお誕生日会なんでしょう」
「こら、せんせいじゃないだろ!」
 甘い声でそういわれると、嬉しさと同じくらい戸惑いや気恥ずかしさが襲ってきて、少女は真っ赤になってし
まう。無自覚な片思いを二年、憧れなのか恋慕なのか解らない思いを持て余して七ヶ月、自分の気持ちに気付い
て苦しんだ三ヶ月。
 その年月に比べ、報われるとは思わなかった想いが叶えられてからはまだ二週間しか経っていないのだ。名前
を呼ぶのも恥ずかしいし、大迫を独占できると意識するだけで胸が苦しくなって涙目になってしまう。
 優しいけれど厳しいせんせいは、名前で呼ばないと許してくれないようだ。真っ直ぐこちらを見返して訂正を
求める姿に、雪代は俯いて小さく呟いた。
「ち、ちから…さん」
「…うーん、まだ仕方ないかぁ!今日は合格だ、行くぞ」
 にかっと歯を見せて笑い、大迫はさりげなく雪代の手を取って歩き出す。
 やはり男の人だからかラグビーや柔道経験者なせいか、彼の手は大きく、厚い。真っ直ぐ伸びた背も、淀みな
い歩き方も何もかもが好きだと思えた。

「あ!悪徳教師が来たぞ!」
「おーい!力ー!」
 主賓の新しい彼女予想を肴に一杯やっていた友人らは、現れた大迫をもみくちゃにした。
「あぁ?、元生徒と付き合ってるんだって?」
「わーるいんだ悪いんだ」
「信じられないです、大迫先輩がそん…な?」
 よよ、とわざとらしく泣きまねをした大迫の後輩が、ふと雪代のほうを見て声を詰まらせた。暮れかけた空に
ぼんやり白く映る桜を背負って立つ少女が、あまりにも可愛かったからだ。他の友人らも一斉に雪代を見て、言
葉を失う。
「あの、…はじめまして」
「…」
 むくつけき大男共の視線を浴びて、雪代は萎縮してしまう。
「―まあ、お前らが言ってるとおりだ。俺の元教え子で、二週間前から付き合ってる雪代だ」
 付き合っている、という言葉に雪代の頬がかあっと赤くなる。まだ、馴れないのだ。
 そんな純な様子を見せ付けられて、座からは溜息が漏れる。
「そりゃお堅い大迫も落ちるわー…」
「こんな子に好きですって言われたらなあ」
「たまらんだろ」
 口々にそういって、今度は羨ましいやつめ、と大迫をぐしゃぐしゃにする。
「雪代ちゃん、ここ座っていいよ。もう暫く力はあの中から出られないだろうから」
「は、はい!」
 ブルーシートに座り手渡されたオレンジジュースを飲みながら、体育会系らしい激しいスキンシップを雪代は
眺めることにした。
 輪の中で笑う大迫は、せんせいとしての顔ではなくごく普通の青年のようだ。すこし、又少しと教師ではない
大迫を知っていく、知っていけることが嬉しくて、雪代は自然と笑顔になっていた。



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