一応お題
嵐くんとバンビちゃんがテレビの前でいつもと違う相手にドキドキしちゃう、シリアスな作品をかいてみましょう。
大分違う話になりました。


 嵐は働く事が好きらしい。
 プール・海の監視員は夏ひっぱりだこだから、夏季休暇は通常の温水プールに加えあちらこちらで短期のアル
バイトを繰り返している。
 今日ははばたき山遊園地の特設プールで朝から昼までアルバイト、だという事だった。その後特に用事も部活
もないらしいので、深雪はお弁当を下げて山行きのバスに揺られている。車内は夏の強すぎる日差しとのコント
ラストで暗く沈んでいて、家族連れが出かける時間も過ぎているので人が少なく、外からの蝉の声がひどく大き
く聞こえた。バス停に止まるたびにもわっと熱気が入り込んできて、外の暑さを知らせてくる。
 こんなに暑くて、嵐くん大丈夫なのかな。ふと、もともと塩素抜けしている髪が最近益々脱色してきている彼
の事を思う。きっと、抜け目のない彼の事だから体調管理は万全なのだろうが、やはり心配になる。
 間延びしたアナウンスが遊園地前を告げ、ざわつく施設の前に停車する。遊園地に着いた事をメールすると、
直ぐに電話がかかってきた。
『腹減った』
「うん、だと思った」
 お弁当は塩味を強くして、お重に詰めてきている。麦茶も大きな水筒を下げてきたのだ。
 貰っていた優待券で入場し、強烈な日差しに眩暈がしながらも駆け回る子供を避けながらプールのほうまで歩
く。
 はば学やはね学の生徒らしいカップルもちらほらいて、皆首にタオルを巻き手を繋いで歩いていた。羨ましい
わけではないけれど、いかにもカップルといった振る舞いを少し羨ましく思ってしまう。
 冬はスケート場、夏はプールになるスペースは奥まった場所にあり、たどり着く頃には汗だくになっていた。
「あらしくん…!」
「深雪、こっちだ」
 プールの外にあるパラソルが林立するスペースには、レジャー施設にありがちなプラスチック形成の白い椅子
とテーブルが並んでおり、大きな氷とファンが設置してある。
「ここ、涼しいぞ」
「わぁ、ほんとだ」
 タンクトップにハーフパンツ、ビーチサンダルといった軽装の嵐は、氷に近い席を取っておいてくれたらしい。
 ひんやりとした空気に浸るのもそこそこに、お重をテーブルの上において、てきぱきと取り皿などを準備して
いく。
「不二山、いいモンくってんなー」
「ッス」
 不意に気さくそうな声が響き、アロハにサングラス姿の男が現れる。先輩や年長者にモテる…、いや気に入ら
れやすい嵐のことだ、アルバイト先の先輩だろうと気にもせず深雪は弁当の蓋を開いた。
 少し匂いを嗅いでも、ちゃんと保冷バッグに入れてきたから痛んでいない。
「はい、どうぞ。あのいかがですか?」
「いーの?ってか彼女ちゃんのベントーとか食って良いの?」
 胡散臭い見た目に反して義理堅いらしいアロハ男は、嵐に伺いをたてる。
「いーっすよ、コイツの弁当ウマイっすから」
 直截な褒め言葉に、かぁっと頬が熱くなる。
 じゃあ遠慮なくと売店から紙皿と箸を貰って来た男は、から揚げに手を伸ばす。
「…うめぇ」
「でしょう」
 からあげ、卵焼き、たこさんウィンナとボイルウィンナ、すのもの、サニーレタスにひじきの煮たの。ほうれ
ん草とベーコンのソテーとエビフライ、ミニトマトとアスパラにポテトサラダ。ご飯は、いなりずしがみっちり
十二個。あとは別にビニールにゆでた枝豆がある。
 どうせ大量に食べるからと午前中いっぱいを使って沢山料理したのだ。というか、調理が趣味に近いので楽し
みながら作っていたらつい作りすぎたというほうが正しい。
「これはビールが欲しい味だなっ、お前ら飲むか」
 いいえ、と首を振る二人を置いて上機嫌に男は生ビールを取りに行く。
「でも、ホントうめぇ」
 ある程度腹は満たされたのだろう、がっつくことを止めた嵐は、麦茶を呷りながら笑顔を向けてくる。
「そ、そう?ありがとう」
 彼の笑顔は結構珍しいので、少しどきんとして深雪ははにかんでしまう。やはり、味付けを濃い目にしたのが
良かったのかなと満足する。
 ドンとビールをテーブルに置いた男もひょいひょいと弁当を平らげていく。
「いい嫁さんだなあ、オイ」
「よ、嫁だなんて。そんな、ねぇ嵐くん」
 そんなことはないぞ、と何時もの調子でとぼけてくれるかと思ったのに。
「押忍」
 真顔で頷かれては、深雪は赤くなるしかない。恥ずかしい、恥ずかしくて仕方がないと
ぎゅっとワンピースを握って俯く。
「は、カワイーなァ。照れてる」
 ぐり、と男に頭を撫でられてその大きな掌に驚く。頭を撫でられたのなんて、何時ぶりだろう。
 やがて綺麗になくなったお重を深雪が片付け、嵐が水筒すすいでいると、男がなにやら荷物を持ってプールの
ほうから手招きしてきた。
「腹いっぱいで眠いだろ、休憩室使って良いぞ」
 従業員用出入り口をあっさりと開き、クーラーの効いた室内に案内される。畳敷きに茣蓙枕がばらりと置いて
ある部屋はひどく快適で、特に運動も大食いもしていない深雪も、とろりと眠くなってしまうほどだった。
 ありがとうございます、とお礼を言い嵐と二人で部屋に座り込む。
「ふぁ…」
「アルバイトお疲れ様、あらしくん」
 ぐうっと伸びをした嵐は、ごろんと畳に横になる。ここで無造作に横になるのはどうか、と躊躇して、深雪は
座ったまま落ちていた団扇で青年を扇ぐことにする。
「いい、こっちこい」
「え、きゃ」
 もう半分眠っているような嵐に団扇を持っている手を握られ思い切り引き寄せられる。
 思わず頭を庇うと、弾力のあるものに触れて驚いてしまう。
 一瞬何が起こったか分からなかったが、ごろごろと頭を揺らすと腕枕されている事に気付いた。
「は、はずかしい…!」
「いい…だろ…」
 そのまま、すぅっと嵐は眠ってしまう。動くに動けず、ただ誰も来ないでと祈る。しかしそのうちに心地よい
体温に釣られ、深雪も寝入ってしまった。

 幸せだ。
 精一杯働いて、うまい飯が食えて、こうやって昼寝を貪れるなんて、この上なく幸せだと嵐は上機嫌になる。
 ほんの三十分ほどだったが、至福の昼寝だった。ちょっとだけ右腕が痺れているが、それすら甘い。顔を右側
に向けるとノースリーブのワンピースを着た深雪が、すうすうと寝息を立てている様子が至近距離で見える。
 長いまつげや柔らかそうな頬、ほんの少し開いた唇に触れたいと思ったが起こしてしまうからと我慢する。
 ぼうっと時間を過ごすのは苦手なはずなのに、彼女を見ていると飽きずにいてしまう。
 ふと、尻ポケットに入れていた携帯が震え、メールの着信を知らせる。送り主は先程のアロハ男…、じつは遊
園地の広告部長なのだが、からだった。
 起きたら事務所に来い、と端的に綴られた文面にまた何か思いついたのかとうんざりする。広告部長のくせに
園内を徘徊したりプールの監視をしたりと自由極まりない男は、常にイベントのネタを探している。
 携帯を扱う音に目を覚ましたのか、うっすらと深雪が目を明けた。
「う…ん…」
「起きたか」
 おはよぉ、とにこりと笑われると、ぶわっと良くわからない汗が出る。このまま密着していると確実に危ない
と察した嵐は彼女を座らせて、自分も身を起こした。
「さっきのアロハが、なんか用事らしい」
「ん…、いってらっしゃい」
 いや、お前も一緒にだと告げると、ようやく覚醒したのかええ、と驚いた声を上げる。
 適当に畳敷きを片付け、指定された場所に向かうと、そこは撮影スタジオだった。
「あ、不二山ー!こっちこい。嫁ちゃんはあっちね」
「え、ええ?」
 てきぱきと指示を出すアロハに、戸惑うすきもなく深雪は更衣室に押し込まれる。
「あ、カワイー。やっぱブチョーの審美眼は確かだわ」
「コーコーセー?いいなぁ、すべすべ」
 更衣室に入った途端わっと綺麗なお姉さん達に囲まれた深雪はオロオロしてしまう。
「あの、えっと、なん…?」
 なんと彼女たちはショウやナイトパレードに出るダンサー達らしく、その綺麗さは粒ぞろいなだった。
「撮影するんだって」
「高校生入場半額のポスター、ネタが尽きてたらしいのよね」
「まあ、ブチョーに目ぇつけられたのが最後だよ」
 そんな、と反駁する間もなく深雪はノリノリの女達によって強制的に服をはがされることになった。


 できあがり、とばかりにぽいと撮影スタジオに放り出され、深雪は恥ずかしさに縮こまる。
 高いウェッジソールのサンダルも、真っ赤で華奢なビキニも、高く結われて花を差された髪の毛も、普段は絶
対にしない格好で似合ってるかどうかすらもよく分からない。
「みゆき…?」
「あ、あらしく…」
 嵐は嵐で、普段とは違いシンプルな装飾品にモノトーンのハーフパンツにキャップ、と若干B系の格好で、で
も流石にプロの手によるものだろう。とても似合っていた。強く硬い髪の毛も上手く流してあり、別人のようだ。
 精悍な顔立ちが引き立つようなその格好に、深雪はぼうっと頬を染める。
 それは嵐も同じで、動きにくい格好をしない深雪の華美な水着姿から目が放せなくなっていた。
「ほら、撮るぞー」
 呆れたアロハが声を掛けるまで、お互いもじもじと距離をつめかねていた。



「このCMが、嵐さんと深雪サン?」
 新名を始め、後輩達は一様に首をかしげる。
 ポスターだけかと思いきや、TVCMにまで使われた二人の映像に、深雪はどうしようもないくらい照れてい
た。
 何時も一緒に居る後輩たちが分からないくらいに上手く映像で誤魔化してあったが紛れもなくあの日撮影した
映像で、深雪はドキドキしてしまう。
 珍しく嵐も目線を泳がせていて、恥ずかしいんだと分かってしまった。




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