大迫先生(女)の名前は大迫緑(音読みでダイハクリョク)です



 小さなアパートの三階、女性が一人暮らしをするからだろうそれなりに防犯のきいた廊下で、雪隆は腕時計を
眺めていた。普段は携帯で済ませてしまう時間確認も、こうやって針が巡るのを待つのもいいと思う。ただその
感情は、目の前のドアの向こうで彼を迎え入れる準備をしている年上のひとを待っている、と言う甘さから来る
事は明白だったが。
 がちゃりと二重鍵のドアが開き、黒髪のショートカットがひょこっと現れる。
「待たせたな、すまん」
「いいや、別に構わない」
 彼女の大きな瞳はもう揺れていない。生徒と先生であるという関係を何よりも気にしていた大迫だったが、腹
を決めたらしく雪隆が好きな真っ直ぐな瞳で見つめてくる。しかし耳と頬は赤く、それが照れなのか情愛なのか
判別はつかない。
 おじゃましますと呟いてレザーシューズを揃え、先導されるまま部屋に上がる。シンプルな部屋はきちんと片
付いており、ただ教師らしく机の上や周辺は雑多な勉強資料で埋まっていた。
「ホント、変な感じだなぁ…」
 部屋着の大迫は雪隆を座卓の前に座らせ、暖かなお茶を注いで自分もその向かいに座った。オーバーサイズの
長袖にスパッツという普通の部屋着なのに、普段よりぐっと女性らしく見える。
「それにお前、女性の部屋に上がるってのに緊張しないんだな。やっぱりなぁ」
「やっぱりで悪かったな」
 微妙に距離を測りかねている二人は、ただ軽口を叩き合う。先生と生徒でもなく、求め合う男女でもなく、た
だの個人として向かい合うことが新鮮で会話は途切れがちだが決して悪い雰囲気ではない。
「大体、お前がナイトに選ばれるとは思わなかった」
「ありゃ消去法だ。桜井が辞退して、他の候補が桜井を押しのけてまで受賞したくないとビビッたんだ」
「そうなのか?」
 ローズクイーンの男版、というよりクイーンのオマケで適当に選ばれている企画は、愛と友情と勉学全てを要
するクイーンより条件が杜撰だ。騎士っぽさという曖昧な価値観でのみ選出されるので、見た目が優先されがち
になる。
「俺は冷徹で非情だが主人にだけは従順な騎士、だとよ」
「ははは、ぴったりじゃないか!」
 優しくて綺麗で光のようなナイト様が駄目なら、クールな私だけに絶対服従する騎士を見つけ出す。女子のロ
マンチックな妄想はいつも手におえないものなのだ。
「まぁ、俺はセンセーにしか服従しないけどな」
「まぁた、そんなこと…」
 そこで、跪かれキスをされた数時間前の記憶が蘇ったのか大迫はかぁっと赤くなった。
「好きだ。言うの何回目だろうな、ホント、センセーのことが、好きだ」
 一語一語かみ締めるように目を細めてそういう青年に、益々頬に血が上る。スポーツや、先生と生徒、先輩と
後輩と言う関係では熱く気持ちを戦わせることがとても好きな大迫だが、恋愛面でこれほどに強い気持ちをぶつ
けられるのは初めてで、まごついてしまう。
「俺にぶつかってきてくれよ、なあ」
 いつも大迫が口癖のように言う、本気でぶつかって来いという言葉を返される。
 リーチの長い手が、テーブルを易々と越えて頬に触れてくるのを避ける事が出来ない。
「熱い」
「…うー…」
 無骨な掌は大きく、小柄で頭も小さい大迫の頭蓋が半分すっぽりと収まってしまいそうだ。ざりさりと髪と頬
を撫でられると、脳がぼうっとしてきてただただ幸福に浸ってしまう。どうしても拭えない、この青年は生徒だ
という拘りも少しずつどうでもよくなってくる。
「…好きだぞ」
「…!」
 そうだ。気持ちを伝える時には真っ直ぐに相手の瞳を見て。
「私も、お前のことが間違いなく好きだぁ…!」
 そう言うと、乱雑に座卓を押しのけた青年がきつく抱き締めてきた。
 抱き締め返そうにも腕ごとすっぽりと包まれてしまっていて、どうしようもない。
 不意にぽたぽた落ちてきたつめたいものに驚いて顔を上げると、青年が静かに涙を流していた。扱いにくい生
徒だと他の教師から苦情が来るほど、無表情で感情の変化がわかりにくい彼がただ泣いている。
 雪隆の両頬に手を当て、膝立ちになって額を触れ合わせ大迫は謝罪する。
「ごめんな、わたしが意気地がないからつらかったな」
「いい。意気地がないんじゃない、センセーはそれでいいんだ」
 恋愛に我を忘れて身を持ち崩すなんて、それは雪隆の好きになった先生ではない。こうやって、ごくたまにで
も本当に好きだといって抱き締めてくれたなら、青年の恋心は報われるのだ。
 不安だった。好きにならなければ良かったとすら思った。ただ、道を示してくれた彼女を恩師として一生尊敬
していればよかったのだ。
 だが好きになってしまった。最初はただの独占欲だった。本当に親身になって、生きる道を示してくれた先生
が他の誰かにも同じように接しているのが、歯痒いだけだった。それがいつだったか触れた手のひらがとても小
さくて熱くて、この人も生身の女なんだと気付いた瞬間それは恋に変わった。
 先生という側面だけではあまりに足りない。大迫のすべてが欲しい、生徒としてではなく一人の男として意識
して傍にいて欲しい。
 しかし一途に想うほど、大迫はどんどん遠くなる。高潔な精神を持つ彼女は、きっと生徒というフィルターを
外すことは出来ないだろう。先生を一人の女に引きずり落とすことがあまりに無謀に思えて、潰えそうな恋に雪
隆は一人悶えた。
「あ、あのな、氷室先生も奥さんが在学中に、たまには一緒に帰ってたみたいなんだ」
「そうなのか」
 照れた様に瞬きする大迫の睫が、頬に触れる。ぎゅっと頭に抱きつかれて耳元に囁かれた言葉は甘かった。
「も、もし、お前が嫌じゃなかったら。柔道部が終わった後、一緒に帰ら、ないか?」
「―っ」
 初めての大迫からのおねだりに、頭がショートしそうになる。
「も…ちろん」
 たまらず照れて真っ赤な彼女の頬に口付ける。恥ずかしい、と俯く顔を上げさせて額や目元、耳元にキスを贈
り、柔らかく唇を奪った。



「あ、あぁ、ん!ユキ…ぃ」
 数時間前まで確かに先生だった女が、雪隆の一挙一動に甘い声を上げる。床に引き倒して上半身を押さえつけ、
尻を高く上げさせてその股間に吸い付くと僅かに酸っぱい匂いとあふれ出す液が舌に触れる。
 じゅるじゅると音を立てわざと下品に啜ると、うつぶせた姿勢から首を捻って必死にやめてくれと懇願される。
「ひ…ぃん!舌、ぁ!だめだぁ!」
 アナルから膣口、尿道を舌で強くなぞり軽く歯で陰核を噛んでやると、柔らかい太股が痙攣して汗ばんでくる。
「センセーえろすぎ。こんなにびしゃびしゃな奴初めて」
「そ…、んな…事なぃ…」
 否定をされても実際そうなのだ。雪隆だって両手にちょっと足りないくらいの人数と経験したことがあるが、
これほどに欲しがって感じて開いてくれるのは大迫が初めてで、やはり強く気持ちの介在するセックスというの
は違う物なのだと一人納得してしまう。
 吸い付いても吸い付いても液をこぼし続けるそこが愛おしく、陰唇から全てを舐めふやけ始めてもなお止めず
に舌で抉る。へたっと力の抜けた上半身を押さえ続ける必要もなくなり、汗に濡れたすべらかな太股や腰を掌で
辿る。膣の手前の方まで舌を出し入れすると、熱く潤んだそこがにゅるりと絡む。
「あー…、あぁぁ―」
 やがてかくっかくっと腰を震わせて、たまらないといった風に大迫がぐったりと体を沈ませる。どろぉっと愛
液が溢れ、舌先に甘く乗る。真っ赤に顔を染め、涙と涎を零したままぼんやりと見上げてくる姿はとても無防備
だ。滴るほどに濡れた股間から口を離し、股の内側や太股にきつくくちづけの跡をつけていく。
「私もする…ぅ」
 なすがままに簡単にイかされても、やはり年上でリードしたい気持ちはあるのだろう。大迫は雪隆の股間に向
けてやんわりと手を伸ばしてくる。
「駄目だ」
 体を捻って仰向けになろうとするのに背中から寄り添い、むずがる体を抱き締めて手早くゴムを着けた自身を
側位でごくゆっくりと捻じ込んでいく。腕枕をしてやり、左足を持ち上げて足を開かせると体が密着したせいか
うれしそうな吐息が大迫から漏れる。
「ひ…くぅ…っ!ふぁ、あ…!」
 柔らかく熱い内部がきゅうっと雪隆の陰茎を包み込む。腕枕に短い黒髪を擦り付けて見上げてくる彼女が淫靡
すぎて、落ち着くことなど出来ない。
「あ!ぅ!そこ、ぁ…!」
「はァ…、ここ?」
 正上位やバックとは全く違う姿勢に戸惑い、しかし貪欲に快感を訴えてくる唇に口付ける。やわく突き上げな
がら胸も揉みしだき、先端をつまんで引っ張ってやると、枕にした腕に涙と涎がこぼれる感触がする。
「…ぁ、あー…あー…っふぁ…」
 完全に堕ちた大迫は、目の焦点が合ってないくせに必死に雪隆の方を見上げてきて、それが可愛くて仕方がな
い。膣も柔らかく熱く、奥は包み込むように、手前はぎゅうと絞るように不可思議な動きをする。
「ユキぃ、すご…すっご…ぃ、あ…つぃ、ひぃ…」
「センセー…、みどり…さん」
「ゆきぃ、ゆき…っ…」
 じゅぶ、じゅぶっとゆっくりだが深く繋がりあうそこがもう熱くて、ふたりは意識を半ば飛ばしながらも交わ
り続ける。陳腐な表現だが、大迫の膣壁が雪隆が好きだ放したくないとうねり絡み付いてくるようだ。
「は、ぁ…、ごめ、センセ」
「はぁー…、ふーっ」
 強烈な高まりはなかったのに、何時の間にか射精していた雪隆は一旦腰を引いてゴムを付け替えようとする。
が、くったりと腕に懐かれたままなので、片手で替えなければならず手間取っていらいらしてしまう。
「だい…じょうぶ、か?」
 ころんと寝返りを打った大迫が、ぼんやりしたまま下肢に手を伸ばしてくる。
「やめっ…」
「…んで、そんなに嫌がる…」
 やはり、慣れた感じの女は駄目なのだろうかと悲しくなってくる。慣れたといっても、大迫はそういう関係を
持ったのは二人しかいないのだが。
 きゅっと眉間に皺を寄せて見上げると、何かを堪えるような顔をした生徒が口づけてくる。昂ぶったままの体
をより熱くするようなキスに夢中になり、空に浮いた手はすとんと彼の腰あたりに落ちた。疼く下腹を持て余し、
勃起した彼自身に腰を擦り付ける。
「…思い出す、から」
「へ?ぇ…」
 舌が痺れて、上手く喋れない大迫の手を取って雪隆はそれに口付ける。
「授業中に、思い出すから。駄目だ」
 チョークを持つ先生の手が、教科書を捲る指先が、自分の陰茎を弄んでいたなんて。
「っ…!」
「どうせ、またずっとお預けなんだろ?」
 じゅる、とキスと同じように指先を舐められる。
「次、いつまで待てばいい?卒業式までか?」
 拗ねたように見上げる顔は幼いのに、
「わ、わたしらって、すきでがまんしてるわけら…」
「―ホント、か?」
 精一杯頷くと、痛いくらいぎゅっと抱き締められる。自分ばかり焦っているとでも思っていたのだろう、大迫
だってそんなに余裕があるわけではない。だからこそ厳しく己を律しているのだ。
「センセーも、俺見て濡れたりすんの?」
 そう言って先程からごりごり触れ合っている下腹に手を伸ばす。開ききった膣はぬるりと指を受け入れ蜜を吐
き出し続ける。三本の指でナカを掻いてやると、びくんと大げさに体が揺れる。
「っあ…!ない!…なぃ…っ!」
「…みどり、は?」
 教師としての理性が、絶対に淫猥なことを許さないんだろう。大迫らしい高潔さに胸が熱くなる。だが女とし
ての彼女の部分ではどうだろう、と目を閉じて快感に浸る耳元に囁く。ちゅ、っちゅ、っと何度かキスを贈ると
観念したかのように、こくんと僅かに頷いた。
「そっか、はは…」
「そんなこと、きくなぁ…」
 雪隆の腕の付け根あたりにぐりぐりと顔を押し付け照れる大迫は、非常に可愛らしい。
「ぁんっ!…あぁ…」
 じゅるっと指を抜き出し、又どろどろのそこに雄を突き立てる。ひだがぎゅうっと絡み付いてきて奥を突くた
びに溢れる液が厭らしい音を立てる。
「あぁあ!いい、いい、すきぃ…」
「はぁー…っぐ、ふぅ…」
 こつっこつっと子宮をついてやるたびに嬉しそうに震える大迫は、既に限界が近いらしく痙攣するように背中
を反らせる。
「――あー…ぁ…」
 顎を仰け反らせて緊張した小さな体は、一瞬後にはくたっと糸が切れたように脱力する。その体を抱き上げて、
綺麗なベッドに持ち上げてやると、ふわっと誘うような匂いが彼女から立ち上って、中途半端に興奮したままの
下半身が煽られる。
「…あ!…ゆ、きぃ…!」
 思い切りM字に開かせガツガツ突き上げると、熱が膨張して脳を焼く。
「…どり、可愛い、す…っげーかわいい…好きだ…っ」
「あんっ、あうぅ、ひぅ!つよぃ…い!」
 体全体を揺さぶられて内側も抉られ、全力で求めらることが凄く嬉しい。いったばっかりだとか、激しすぎる
だとか、そんな文句は音になる前に消えてしまう。
 霞む視界に映る彼は、もう限界が近いのだろう。眉間に皺を寄せて汗みずくで大迫を求めている。
 ぱちんと、本当にスイッチが入ったように、彼が生徒ではなく完全に一人の男性に見えて、かあっと体が熱く
なった。
「―っ!あ、ぁあ、みどりっ」
「うん…、うんっ」
 奥深くまで捻じ込まれて、子宮口に強く陰茎を押し付けられる。体のもっと奥から愛液ではない液体がどろど
ろとあふれ、ゴムをしていなかったら妊娠していたのではないか、と思えるほどの凄い感覚が腰から力を奪う。
 はぁ、と荒い息をついて圧し掛かってくる体を抱き締めようと思ったが、上手く腕が動かなかった。
「悪い…」
「や、いや。別に…」
 やけにしどろもどろな大迫の様子を、がっつき過ぎた所為だと勘違いしたのだろうか。ずるりと腰を引かれ申
し訳なさそうにキスされると、心拍数がさらに上がる。
 生徒という膜を取り去った雪隆は、非常にいい男だった。高校生に対してこういうことを言うのもどうかと思
ったが、顔立ちは精悍だし気遣いは出来るし一途でそして強い。好みは分かれるだろうが、ナイトに選ばれるだ
けはある位の端正さだし、きっと同じ位の歳だったなら大迫には手が届かないくらいの、俗に言う『イケメン』
だ。
「どうした?どこか、痛むか」
「いや、なんでも…ない!こっち向くな!」
 いやいやと首を振って逃げようとする女を訝って、青年はやや力任せに腕の中に抱きこみ顔を覗き込む。
 途端に真っ赤になった大迫は、今度はぐりぐりと胸板に頭をこすり付ける。
「やだ、ったら」
「…」
 これはどうしようもないなとそのまま抱き締めて、ごろりとベッドに寝転がる。嫌がってる風ではないし、恐
らく何か照れているのだろう。
「なあ、明日も一緒に居ていいか」
「ん…?」
 涙の溜まった大きな瞳が、おずおずと雪隆を見上げてくる。
「デートしよう」
 そう言うと、ぱたぱたと瞬いたあと大迫は実に嬉しそうに笑った。
 今までは切羽詰っていたからすぐセックスに走ってしまったが、彼女がこの関係を受け入れてくれたなら、も
っとゆっくり一緒に居たい。
「外に出んのが心配なら、ココにいる」
「うん…、いいぞ」
 照れながらも小さく了解を出した彼女を抱きなおすと髪を撫でられて、耳元で好きだと囁かれた。
「これからは、もっとちゃんと、お前に応えてやりたい…」
 惚けたようにそういう彼女は、激しいセックスの所為か瞼が重たそうだ。風呂に入る気力もないのだろう、う
つらうつうらと伝えられた正味の言葉に、雪隆は低く笑う。
「いい、無理すんな。あと四ヶ月、我慢する」
 この幸せを壊さないように。そして雪隆自身の未来を切り開くために、高校最後の大勝負に向けて奮闘しなけ
ればならない。
 すう、と寝息を立て始めた彼女の髪を何度も撫で、何時しか青年も意識を闇に沈ませていた。



【アマギフ3万円】
BLコンテスト作品募集中!
- ナノ -